メディアグランプリ

松崎しげるかもしれない


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記事:瓜生とも子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
よしできた、と顔を上げて愕然とした。鏡の中にいるのは、おしゃれした私ではない。
 
……疲れた仲居さん。
 
大好きな着物。出産と育児でたんすにしまったままだったが、また着て出かけたくなった。お気に入りの着物に、お気に入りの帯。着付けも完璧。なのに、見るからに残念だ。
 
アラフィフになったもんねえ。前と同じじゃだめか。
 
コーディネートを変えてみた。眼鏡を外してコンタクトにしてみた。何をやっても、鏡の中には疲れた仲居さんがいる。ため息をつくと、苦い思い出がよみがえった。
 
9年ほど前。まだ赤ん坊の息子を連れて行った公園で、見知らぬおばあさんに話しかけられた。おばあさんは息子のことをかわいいかわいいと褒めたあと、私に向かって言った。
 
「お母さん、お顔がずいぶん疲れてますよ。口に、ちょっと紅でも、ひいたらどうですか」
 
はぁどうも。スッピンに帽子の私はそう返しながら、心の中で悪態をついた。
 
余計なお世話! 私はね、この子を楽しませ、守り、眠らせ、その間にご飯を作る、それでいっぱいいっぱい。他人の目を気にしてるヒマなんて、ない。
 
そもそもメイク好きじゃないし。あんなもの、するのも落とすのも面倒。出産前だってベースメイクぐらいしかしてなかった。育児がひと段落しても、それ以上するつもりはない。私の人生には、面倒じゃなくて楽しいことが、他にたくさんある。
 
その結果が、今まさに、疲れた仲居さんの姿をして鏡の中にいる。悔しいけど「口に紅」以上の手間をかけるタイミングかも。
 
思い立ったら、近所のスーパーへダッシュ。「お母さんが白仮面を買うとこ」と息子が呼ぶ、プチプラコスメ売り場に直行。お母さん今日はお徳用白いシートマスクじゃなくて、色のついたもの買いに来たぞ。好みの色ははっきりしているから、選ぶのも早い。リップ、チーク、アイシャドウ。よーし揃ったぞ。鏡よ鏡、これでどうだ?
 
……あ、今日は特にお疲れですね。具合でも悪いんですか?
 
無知のまま突っ走るのは危険だ。ここは潔くプロに頼ろうと、あるサロンに向かった。
 
パーソナルカラー診断。肌や瞳や髪の色をもとに、その人に似合う色を診断する手法だ。なぜメイクレッスンを選ばなかったかというと、私には「メイクでこういう顔になりたい」という具体的なビジョンがなかったから。その代わり、自分がもともと持っている要素を最大限に引き立てるという、パーソナルカラー診断のコンセプトに共感した。
 
まず肌のトーンでイエローベース(イエベ)かブルーベース(ブルベ)に分かれ、さらに春夏秋冬という四季の名前がついた4タイプに分類される。分類の基準だという色の明るさや鮮やかさの見本を、カラリストさんに見せてもらう。
 
「ご自分の予想は、どのタイプでしょう?」
「見るからにアジア人の肌なのでイエベ確定ですね。タイプは4つのうちどれかは分かりませんが、冬は絶対ないと思います。西洋人に多いと聞いたことがありますし」
 
鏡の前に座り、色のついたドレーブという布を顔のすぐ下に当ててもらう。苦手な色でも似合うと顔がパッと晴れ、好きな色でも似合わないとどんより曇る。100色以上の布をさばくカラリストさんの華麗な手つきは、マジシャンのよう。晴れ、曇り、晴れ、曇り。その繰り返しで出た結果はというと。
 
ブルベ。冬。絶対ありえないと思い込んでいたタイプだ。
 
慌ててポーチを取り出し、手持ちのコスメが合うか合わないかチェックしてもらった。ベースメイクはセーフ、ポイントメイクの方はほぼ全滅。
 
これなんかお似合いになると思いますよ、と差し出されたアイシャドウの色にはギョッとした。
 
「パープル! な、殴られたように見えませんか?」
「そう見えちゃうのはイエベの方です(笑)」
 
実際につけてもらったときの驚き。殴られたどころか、目元がフワッと軽くなる。チークとリップも似合う色をつけてもらったら、鏡の中に私が戻ってきた。前より、ちょっといい感じになって。
 
最後におすすめアイテムリストをもらい、再びスーパーのプチプラコスメ売り場に走った。疲れた仲居さん時代が終わり、正しいメイク元年。今では、出かけた先で、着物だけでなくメイクの色をほめられることもある。
 
私のように、自分をイエベと思い込んでいるブルベの人は、とても多いそうだ。それを象徴する名言がある。
 
「松崎しげるはブルベ」
 
あなたはどうだろう? 特に、まともにメイクしないまま生きてきて、いい歳した今になって慌てているあなた。余計なお世話かもしれないが、私の経験から言わせてもらおう。
 
ひょっとしたら、あなたも、松崎しげるかもしれない。
 
 
 
 
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2020-02-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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