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メディアグランプリ

カフェバーにいるカウンセラー


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:佐々木 慶(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「私たち、別れましょう」
「え、なんで? 嫌だよ!」
 
まさに、青天の霹靂だった。
あんなに仲良くやっていたのに!
必死にいろいろな言葉を使って懸命に心を動かそうとした。
しかし、彼女の意思が変わることはなかった。
 
職場の同期の中で仲良くなった女性がいた。それが彼女だった。
入社後すぐに開催された新入社員の交流会をきっかけに、その年の7月に交際をスタート。
仕事の時以外はいつも一緒にいたし、とても幸せだった。
 
一年ほど付き合って、そのまま結婚。
と、思っていたが、その夢は実現しなかった。
付き合ってまもなく11ヶ月を迎えようとした5月の末に、よりによって彼女自身の手によって突然幕が下ろされたのだ。
 
いや、考えてみれば思い当たる節はあった。
いつの頃からか、彼女に予定を合わせること、そして家への送迎という行為に私自身嫌気がさしていたのだ。特に、彼女から頼まれてないにも関わらずである。
当然、徐々にけんかの回数も増え、彼女の顔が日ごとに暗くなっていくのが分かった。しかし、当時の私は、ただ自分の主張を繰り返すだけで相手の声に耳を傾けなかった。
 
結果、この状況である。
 
全て、私がまいた種ではないか……!
と、思ってみても時はもう戻らない。
 
とにかく言えることは、私がこの時、彼女に振られたという事実だ。
 
いざ自分一人になると、何にもやる気がおきないし、仕事中もぼうっとしていることが多くなった。
見かねた同期の友人たちが、合コンを開いてくれたり、女性を紹介してくれたり、いろいろ手を尽くしてくれたが、どうも気が晴れない。
 
そんな状態が数か月経ったある日、職場の先輩の一人が私に言った。
「佐々木君、ご飯ちゃんと食べてる? 最近、食欲ないみたいだし、心配だよ。もしよかったら、おすすめのお店を紹介するよ。きっと気に入ると思うよ」
正直、気乗りはしなかったが、日ごろよくしてくれていた先輩の提案だったので、行ってみることにした。
向かったのは、私が住んでいるまちの商店街の中にある小さなカフェバー。
たどり着いたそのお店は、商店街の中からさらに奥まった場所にあった。中は畳6畳分くらいの狭い空間。照明はオレンジ色で薄暗かったが、その分、なんだか暖かい雰囲気を醸し出していた。
 
「いらっしゃいませー」
 
カウンターの奥にいる女性が落ち着いたやさしい声をかけてくれた。どうも店の人らしい。
先輩はたしか、「ママさん」がいると言っていた。
隣にいた男性もママさんとの話しぶりから、店の人であることが分かった。こちらは、たしか店の「マスター」だったっけ。
 
「お客さん、初めてですよね。どこから来たんですか?」
「同じ市内です。○○さん(先輩の名前)とは、職場が一緒なんですよ」
 
「あー、そうなんですねー。ゆっくりしていってくださいねー」
 
気付いたら、仕事の話やプライベートの話(だいたい、失恋話)をママさんやマスターに聞いてもらっている私がいた。
 
初めて行ったお店のはずなのに、不思議だった。
なんだか、心地いいのだ。
お酒も料理もおいしかったこともあるとは思うが、それだけではなさそうだ。
そして、どうしてなのかわからなかったが、心が少し晴れていた。
また行ってみたい、そう感じた。
 
ひと月ほど経って、再びそのカフェバーに足を運んだ。
気力が出ず、仕事以外は家に引きこもっていた人とは思えないくらいの変わりようだ。
 
何が私をここまで惹きつけているのだろう?
 
「佐々木さんって、全然人見知りしないですよね? きっと一人で出かけることも全然苦にならないんじゃないですか?」
 
はっとした。
思えば、大学時代、ふと思い立って夜行バスに飛び乗って京都に行ったり、地元に住んでいた中学校時代、高校時代は地元の県にある大きなまちや電車を乗り継いで隣の県まで一人でよく遊びに行っていた。
そのまちで出会った人と気軽に話し、一人の時間を思う存分堪能していた。
 
一人で出かけることを好きだったことを思い出したのだ。
付き合っている時、そして別れた後も彼女のことしか目に入らなくなっていて、すっかりそのことを忘れていた。
 
自分のことも話しながらも、適度な間で話を振ってくれるママさん。
そして、寡黙ながらも思いを訥々と語ってくれるマスターによって、私は救われたのだ。
 
気分の落ち込みから私を解放してくれた私は、まさに、私にとってカウンセラーのような存在だ。
 
それからというもの、夜行バスとフェリーを乗り継いで宮崎に行ったり、ノープランで淡路島に車で行ったりと、一人で出かけることを思う存分に楽しむようになった。
 
いつの間にか、「元」彼女は遠い記憶の彼方の存在となった。
きっと、私自身が好きなものを再発見できたからだろう。
 
ちなみに、今もそのお店は定期的に通っている。
暖簾をくぐれば、また二人に会える。きっとまた新たな自分を発見できる、そう信じて。
 
 
 
 
***
 
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2020-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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