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ひどい生理痛が来て考えたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:綾乃
 
それは突然やってきた。
恐怖の大魔王、生理痛である。
 
生まれてこの方、頭痛以外の激しい生理痛に襲われたことがなかった私は、生理痛とは無縁の、そっち側の人間だと勝手に確信していた。
だが、その自信はあっけなく崩れた。
 
その日、私は生理になって2日目を迎えていた。
前日に、わずかばかりの出血を覚えただけで、さしたる被害もなく、今回のは軽くて、助かるなぁと余裕でいた。
 
休日だったので、いつものごとく昼近くに起床した。布団干しやら掃除やらをしていて、ついつい朝食を取り損ねた。
家事がひと段落したのは午後4時を過ぎていた。
遅めのブランチにしようと、コンロに火をつけて、フライパンで食パンを焼き始めた。お腹はすき過ぎていた。
 
その時、地面が大きく揺れた。
立っているのが困難なほどの大地震が来た。
けれど、同時に頭を右へ大きく揺さぶられた。とても強い力で抗うことなどできなかった。
私は「うわッ」と叫びながら、前へつんのめり、調理台にしがみつきながら、ずるずると崩れた。
 
揺れがおさまるのを待とう……、と思ったが、身体だけがへにゃへにゃと下に沈むばかりで、他のものは何ひとつ動かない。
その時ようやく悟った。
これは地震ではなく、めまいなのだと。
 
どうにか手を伸ばして、ガスの火を切った。だが、他は何もできず、しばらくうずくまったままでいた。
 
力が入らない。起き上がるどころか、這いつくばることさえ困難だった。目ではなく、頭が回っている。
 
ひとりでうなだれていると、かなしい考えが頭に浮かぶ。
 
まさかこのまま死んでしまうなんてことはないだろうなぁ。
でも、もしもそんなことになったら、最後の言葉が「うわッ」だなんてひどすぎる。辞世の句を残したい、などと贅沢は言わないけれど、もう少し違う言葉にしたい。
だって、あの「うわッ」は、ゴキブリを見つけた時に出る声と同じだったもの……。
 
考えはまだ湧き出てくる。
 
中学生の頃、朝礼や体育祭の練習の時に、突然バタッと倒れていた子がいたな。
転倒のせいで、あごを怪我したと聞いた。
痛かったろうなあ。
私は、キッチン台があったから助かったけど、気づいたら、保健室のベッドの上で、顎に巨大な絆創膏を貼られていただなんて、気の毒すぎる……。
 
そんなしょうもないことを考えているうちに、身体が正気に戻る気配を見せた。そろそろと立ち上がってみると、左右の足は機能し、どうにか立つことができた。両の手も、掴んでいたキッチン台から離して、自立できた。
 
ふう、これで安心、もう大丈夫と私は再びパンを焼き始め、一緒に食べるチーズフォンデュの準備を始めた。
少し元気になると、文句が出るものである。
 
さっきは危ないところだった。
あれがもしも自宅の台所ではなく、駅のホームだったら、どうだったろう。
しかも、ホームドアがまだ設置されていない、京浜東北線の駅だったら、どうなるのだ。
いつか、インフルエンザの高熱のせいでホームに転落してしまった女性がいた。
あの悲劇をまた繰り返せと言うのか。
 
大体、引力なんかがあるからいけない。
あれさえなければ、バランスを崩しても倒れることなく、浮遊していられるのに。
そうだ、重力がいけない。重力がなければいいのだ。
そうだそうだ、重力排除だ。よかった、よかったこれで解決だ。めでたし、めでたし。
などと、ひとりで解決したつもりになっているうちに、パンも焼け、レンジの中でチーズもとろけ、待望の食事となる。
 
そんな調子で、しばしテレビを見ながら安穏とした時を過ごしていたのだが、食べ終わると安心したのか、また急にめまいがする。
顔をあげているのがつらくなり、そのままちゃぶ台に突っ伏す。
そして動けなくなる。
 
その日はよく晴れていた。雲一つない青空だった。
でも、ちゃぶ台に顔をこすりつけている私には、暗闇しかない。
外では、楽しげな笑い声がする。
誰もが明るい、すべてがまぶしい。
なのに、私だけ真っ暗で、力なく苦しむばかり。
その時、ふと思った。
 
都会で、孤独死をするというのは、こういうことなのだろうか。
 
昭和40年代に建てられた都会の団地で、独居老人が孤独死したとニュースで流れる。
隣や上下に住人はいるのだろうに、誰にも気づかれず、ひっそりと亡くなってゆく人たち。
声も出せず、助けも呼べず、ただひっそりと。
明と暗。
笑い声と苦痛の沈黙。
 
見たこともない光景なのに、既視感のように脳裏に流れる。
 
その後、やや回復したので、這いつくばりながら私は布団に入った。
それからしばらくは眠ったが、気持ちが悪くなり目を覚ます。
 
頭はぐらんぐらんとし、胸はむかむかする。
飲んでもいないのに、二日酔いに似た症状だ。
そうであれば、吐いてしまえば楽になることを、私は経験で知っていた。
出るか出ないかの状況でも、喉の奥に指を突っ込めば、勢いでおえっとなり、吐けることもわかっていた。
 
けれど、昼間食べたチーズを出すのはどうにももったいなかった。
昔読んだ漫画「あさりちゃん」で同じようなネタがあった。遠足のバスで酔った主人公が、教師に吐けば楽になるとすすめられるのだが、食べた五目焼きそばが美味しかったから出したくないと言うのだ。
その時は、なんてアホな主人公だと思ったが、まさに今自分が同じ境遇だ。
 
攻防の果てに、吐き気が食い気に勝り、トイレに駆け込む。
そこでひとりで何度もうげー、うげーとやっていると(今更だが、食事中にこれを読んで下さっている方がいたら、平謝りする)、またもや隣家から、楽しげな声が聞こえてくる。
夕餉時。鍋でも囲んでいるのか。
それに比べて、ひとりで吐いている孤独な私。
再び、孤独死の時は、こんな心境なのかと、自分のはかない将来を夢想し、不覚にも涙がにじむ。
 
吐き気はおさまった後も、めまいはとまらず。
頭をまっすぐの状態にしていると、気持ちが悪い。少しだけ右に傾けると、どうにか楽になる。
なので、ビクターのニッパー君みたいに(そんなにかわいいものでもないが)頭を傾げたまま過ごす。
「どうせ地球の地軸は23.4度傾いているんだ。むしろこうやって頭を傾けている方が、23.4度元に戻り、まっすぐなのかしれない」ともはや、わけのわからないことを真剣に考え出す始末。
 
その後、帰宅した家人が、何かを察したのか、レバーフライを購入してきてくれて、どうにかそれを食すまで、私は回復した。
 
あの日から2日たった今も、実はまだ軽いめまいが続いている。
生理の流血は佳境を過ぎた。
このまま無事に終われば、よかったよかった、めでたしめでたしとなる。
けれども、あの恐怖を忘れてはいけない。
あれは、生理痛があまりひどくないとうそぶいていた私への、戒めなのだから。
 
今回の生理は、来るのが通常より4日ほど遅かった。
大きなプレゼンの仕事を抱えていて、それが終わる日に、来た。まるで待ってくれていたかのように。
 
自覚していなかったが、身体は極度に張りつめて、無理をしていたのだろう。
使いすぎた身体が悲鳴をあげるように、重い生理痛となった。
 
悲鳴をあげさせてごめん、私の身体よ。これからは、大切にする。
そう思った。
 
そして、元気な時はまわりにも目を向けよう。具合が悪そうな人はいないか、今まで以上に気を配ろう。
 
生理は来るし、生理痛は避けられない。
けれども、自分の身体をいたわり、周囲の人を気にかけて、少しでも生理が楽になるように、自分が変わり、世の中も変わればいい。
 
 
 
 
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2020-02-07 | Posted in メディアグランプリ

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