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メディアグランプリ

地域を思う心=ボランティアではない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:花倉祥代(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「クラウドファンディングについて相談があるんやけど……」
地域の小規模事業者の経営支援をしている私のところへ、レストラン経営者の後継者である青年が相談に来られた。
「クラウドファンディングですか」
私は心の中で「お金が必要なのか……。でもなぜ融資ではなくクラウドファンディングなのか」と疑問に思った。
クラウドファンディングは資金調達のひとつではあるが、私はハードルの高い調達方法だと思っている。応援という名の資金をいただくためには、その事業にたくさんの人が共感しなければいけないからだ。
後継者である彼が、何を思ってクラウドファンディングに挑戦したいと言い出したのか。
その意図がよくわからないというのが正直なところだったが、まずは話を聞かせてもらうことにした。
 
彼曰く、自分が生まれ育ったこの地域は、人口減少が進み、町の人口がついに5,000人をきってしまった。地場産業である林業も厳しさを増し、手入れができていない山が増えている。けれども、日本の原風景ともいえる環境が今も残っていて、自然はもちろん自らが携わる「食」についてもすばらしいものがたくさんあるのだということを多くの人に知ってもらいたいというのだ。
知ってもらう手段として、これまで3回の実績があるスポーツイベント「トレイルランニング大会(トレラン)」の開催をあげ、次の大会をクラウドファンディングで盛り上げたいと。
彼は大会実行委員会のメンバーで、エイドステーション部のリーダーをしているらしく、この地域の森を走ることでランナーたちがこの地を感じ、すばらしさを知る。そしてトレラン大会を見た地元住民自身がこの地のすばらしさを再認識することになる。というのが彼の筋書きだった。
なるほど、とりあえず理解した。彼が言うにはトレラン大会の参加者は増加傾向で、コースをもっと長くしてほしいという要望があるにもかかわらず、大会主催者はかなり疲弊しているらしい。
まず、トレランコースの整備。昨今の自然災害によりひどく山が荒れている。一昨年前の台風21号では、台風の進路となった国道沿いの電信柱が軒並みなぎ倒され、付近の家屋の屋根は吹き飛んだ。もちろん山の木々も倒れたし、崩れたところもたくさんある。
今なおブルーシートを被ったままも家があり、山の整備が済んでいるはずがなく、前回大会はコース整備が大変だった
次に大会当日のスタッフ。コース案内役やエイドステーションのスタッフが足りておらず、地元住民ががんばったそうだが、ここは高齢化が進んだ町、負担が大きくとても喜んで参加してもらったと言えるものではなかった。
エイドステーションはというと、設備はそれぞれの店舗の自前、ここを知ってもらいたいという気持ちだけで料理の提供をしているという。
クラウドファンディングは、トレラン大会のスタッフを集め、提供するメニューの開発をすることを目的としてのことだった。
 
ここで私から彼に質問をしたのは、ボランティア精神で大会のスタッフをやっていないか、ということだった。地域に貢献したいという気持ちが強く、ここで儲けてはいけないというブレーキがかかっているように思えたからだ。
「この地域は知られていないから、不便だから、人口が少ないから、20代が限りなくゼロに近いから」そんな現実を目の当たりにして、潜在的に自分達が住む地域なのだから利益は考えずマンパワーを捧げなければいけないといった精神を抱き、エイドステーション部は利益を出してはいけないのだと、諦めてはいないだろうか。
私はクラウドファンディングの前に確認しておきたかった。
この地域には、鹿肉や猪肉といったジビエ、新京野菜、お米、水といった豊富な食材が揃っている上に、和食、イタリアン、パン、スイーツなどのプロの料理人がいる。
彼らは「おいしい」を大前提に、地域のものを使用し大量生産はできないけれど心のこもった丁寧な仕事を心掛け、料理を通じて地域の文化や歴史を伝えようと四苦八苦している。
その技術に誇りをもっているのは確かだけれど料理人達は皆事業者、それ相応の対価を得なければ事業と言えないし、経営が立ちいかなくなるようでは、夢の実現など不可能なのだ。
 
私の話を聞いてくれた彼は、クラウドファンディングにチャレンジする意味をもう一度考え直したようだった。
結果、この地域の事業が持続的発展をすることが、地域を守り文化を守ることになるのだと気づき、再度目標を掲げることとなった。
彼ら飲食店によるエイドステーションが実施するクラウドファンディングは、この地へ足を運んでもらうのをトレイルランだけではなく、ここでしか味わえない「食」を理由に考えた。地元農家との連携を深め、地元の食材や農産物を積極的に利用した料理をアピールしたいと……。
クラウドファンディングで資金を募り、ランナー、ボランティアの大会参加者に加えて、ここでしか味わえない「食」に魅力を感じた方がたくさんパトロン(資金提供をしてくれる人のこと)になってくれて、整備が行き届かない山への対策や過疎化などの地域課題を知ってほしい。
地元住民は地域のすばらしさを再認識し、改めて環境保全や過疎化について実感することで、これらの課題を「自分ごと」として捉え活動してほしいとこの取り組みの真の目的がはっきりしたようだった。
 
地域を思う心=ボランティアではない。
クラウドファンディングによって、ランナーやスタッフを集めるだけでなく、リターン(投資いただいた方への御礼)では、その対価を事業者へ還元できる。
集まった資金は、エイドステーションに必要なメニュー開発費用や備品購入費用、大会運営費用に充てられる。
エイドステーション部リーダーである彼は、すぐに飲食関係の仲間にこの話をし、クラファンメンバーが揃うこととなった。
大会は5月、3月のクラファン開始までゆっくりはしていられない。
数日後、第1回ミーティングが開催されたが、集まったみんなの顔は明るく、輝いた目がとても印象的だった。この地域を守りたいという心意気を感じた瞬間だった。
私はこの場に立ち会えていることを嬉しく思うと同時に、メンバーたちのこの地域を愛し大切にする気持ちに胸が熱くなった。
 
 
 
 
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2020-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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