メディアグランプリ

親子ほど年の離れた女子大生から学んだ、伝える流儀


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:福住昌子(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「お菓子を食べる時間ではありません」
「ドライヤー、うるさいです。片づけましょう」
 
女子大の教室ってキラキラ華やかな世界なのかなぁ。
今どきの女子大生、かわいいだろうなぁ。
 
数年前の秋、ピンチヒッターとしてマーケティングの講義を
受け持つことになった私の期待は、
初日に教室のドアを開けた瞬間に打ち砕かれました。
 
あれ? 時間を間違えた? 教室を間違えた?
 
約80名の学生たちが並んでいるはずの教室は、
後ろの方に数グループが固まっているだけです。
通路には開けっぱなしのブランドバッグが要塞のように置かれ、
机の上にはお菓子、鏡、メイク道具、雑誌などが並んでいます。
 
これは悪夢?
心が折れそうになりながら講義し、
あと5分で終わる、というタイミングで後ろのドアが開きます。
学生たちが数名入ってきます。
出席票に名前を記入するためにだけ、教室にやってきたのです。
 
これで出席扱いにするの?
これで単位認定するの?
 
むなしい。
 
後片づけをしていると、
1人の学生が教卓に近づいてきました。
質問かな? 真面目に聴いてくれていたのかな?
 
そんな淡い期待は、またしても打ち砕かれます。
 
「私、あと何回休める?」
「どういうことですか?」
「7割出席で単位とれるやん。私あと何回?」
 
もはや、開いた口がふさがりません。
 
「講師の口からは、休んでいいとは言えません。
出席状況は自分で管理してくださいね」
「性格悪いんちゃう? アンケートで先生に×つけるで」
 
私が担当するのは企業経営論15回のうち、後半4回だけですが、
それでも残り3回、滅入らずに大学に来なければいけません。
どう接すればよいのか困り果てて、
ほめことばの本も出版されているコーチングの師匠に相談しました。
 
遅刻しても「よく来たね」「来る気はあるんだね」と言えるよね?と
アドバイスをいただきました。
 
そこまでしないといけないんですか?
打ちのめされそうになりながら、
大学での指導経験も豊富な師匠の教えを信じて、
翌週から、ことあるごとにポジティブなことばをかけ続けました。
 
「出席票を書きたいんですね。単位を取る意欲があるんですね」
「先週より早く来ましたね」
 
ぽかんとした顔をしながらも、
笑顔を見せてくれる人、出席票を両手で渡してくれる人
「ありがとうございました」と挨拶して帰る人も出てきました。
 
講義では、彼女たちが机に広げていた雑誌やお菓子をヒントに、
年代別の雑誌を並べて教材にしたり、
お菓子のネーミングやパッケージを題材にしたり、
マーケティングを身近に感じられるように工夫しました。
講義を聴いてくれる学生が増えてきた気がしていました。
 
そして迎えた最終回の講義中、
突然、学生が立ち上がり、窓の方に向かいます。
 
今度は何?
 
身構えながら講義を続けていると、
彼女は遮光カーテンを引き始めました。
 
え? この図を見たいから暗くしたの?
 
そのとき私は、
若者ファッションブランドの変遷の図を投影していました。
 
彼女たちは、勉強する気がないわけではなかったのです。
興味がある話は聴き、
知りたいことは、自分から情報をとろうとするのです。
 
伝える側の問題だったのか。
伝え方の工夫で、ここまで変わるのか。
 
「相手に伝わるように伝える」
意識していたつもりでしたが、まだまだ浅かったのです。
 
このときに学んだ講師としてのスタンスは、
今も新入社員研修で生きています。
 
昨年4月、最前列で真剣な表情で受講していた新人男性が、
スマホでメッセージの返信を始めました。
「研修時間中にスマホを触ってはいけませんよ」
注意すると、本気でびっくりした顔で見上げています。
 
なぜそんなに驚くの?
必死で頭を回転させ、推理しました。
 
あ、わかった!
 
「冒頭で人事の〇〇さんから、
マナーモードにするように注意がありましたね。
なぜだと思いますか?」
グループで理由を考えていただきました。
 
やっぱり……
音が鳴れば迷惑になることは全員が理解しています。
逆に、迷惑がかからなければOKと思っていたのです。
 
研修中は業務時間であること、私用はNGであることを説明すると
素直に納得してくれました。
 
女子大での体験がなければ、
そこまで説明しないとわからないの?とガッカリしていたでしょう。
 
最近の新入社員には、
茶葉からお茶を入れたことがない人も
固定電話を使ったことがない人も大勢います。
来客にお茶を入れるのも、職場の電話をとるのも、
今や、緊張を伴うハードルの高いお仕事です。
 
知らないことは、教えなければわかりません。
何を知らないのかもわからないのに、自分から質問はできません。
 
今どきの若者は……
お決まりのフレーズも一瞬頭をよぎりますが、
女子大生や新入社員たちのおかげで、
違いが大きいほど、通じたときの喜びが大きいと知ったことは、
私の財産の1つです。
 
今年もまもなく新入社員研修の季節を迎えます。
今年は、どんな驚きと出会えるでしょう。
「え~!」と心の中で叫びつつ、推理力を働かせて
何を伝えるか、どう伝えるか、知恵を絞ります。
 
 
 
 
***
 
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2020-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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