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ことだま


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:平山いずみ(ライティング・ゼミ特講)
 
 
今日は朝からついてない。
 
朝起きたら、私の車の前に、昨晩誰かが飲みすぎて吐いたあとがあった。
我が家は、飲み屋街が近いせいだろうか。
それにしたってこんなに道路は広いのに、わざわざここに吐くなんて。
くさっ! どうしてこんなことするんだろう……
息を止めて、ホースで水をかけながら掃除した。
 
仕事に行けば、なにやら上司の石井さんのご機嫌が悪い。
ことあるごとにきつくあたられ、おまけに、それ私のせい?!っていう理不尽なことで責められた。
 
なんなのあの言い方! そんなに言うなら自分がやればいいじゃん。
どうせふんぞり返ってるだけで、大した仕事してないんだから!
しかもそのミス私のせい? 違うよね?
なんで私が責められなきゃいけないわけ?
心の中で舌打ちしながらも、言い返す勇気のない私は、形だけの謝罪をする。
 
あぁ、イライラする……
 
最近怒ることが、あんまりなかったから、こんなにムカつくのも久しぶりだなぁ……ってちょっと遠くから自分を見てる自分もいた。
 
だからといって、まぁいいかとは思えない。
なかなかイライラを消化できない。
 
私は「自分が正しい!」という気持ちが抑えきれなくて、心から出ているするどい「棘」を誰かにぐさぐさ刺してやりたい衝動でいっぱいだった。
 
ムスッとしながら、休憩に入る。
遅いお昼ご飯に、たこ焼きを買うことにした。
フードコートの角にある、「銀だこ」へ向かう。
銀だこのお姉さんは、手際よく、青のりと鰹節をたっぷりかけて、丸々としたたこ焼きを私に手渡してくれた。
 
あ、青のりいらないって言うの忘れちゃった。
歯につくと面倒くさいな……
そんなことを考えている私に、彼女は、
 
「美味しく召し上がれますように」
 
と言ってくれたのだ。
私は思わず、お姉さんの顔をまじまじと見てしまった。
無意識に「ありがとうございます」と頭を下げる。
 
お店のマニュアルで決まっている営業トークなのかもしれない。
でも、その一言がとても心地よかった。
たったそれだけで、さっきまでの心の棘がだんだんと短く丸くなっていった。
 
「美味しく召し上がれますように」
 
そこには、「お早めにお召し上がり下さい」とか「またのご来店お待ちしております」といったような、店側の要望が一切入っていない。
 
ただ、相手の幸せを祈る言葉だ。
 
たこ焼きは、とても美味しかった。
 
食べながら、ほくほくした気持ちでスマホを開いたら、
遠くに住む大好きな友人から、心がじんわりするメッセージが届いていた。
このメッセージを書いている間だけでも、私に思いを馳せてくれたのだということが嬉しかった。
 
急加速で心が温まる。
悪いことも続くけど、いいことも続くもんだ。
 
あれ? さっきまであんなに怒ってたのに。
あれからたった10分も経ってないのに。
言葉一つで、こんなにも気持ちが変わるものか。
 
心が温まったら、思考が前に進んだ。
そういえば、先日読んだ本に書いてあった。
「怒りは二次感情」なんだそうだ。
ってことは、私は、本当はどう感じたのだろう。
 
酷いことされて……悲しい。
石井さんにわかってもらえなくて……悲しい。
 
あぁ…… そっか、私、悲しかったんだね。
 
そう思えたとき、それまで私に見えていたものは表面的なことでしかないことに気づいた。
 
飲みすぎはよくないけど、私だって、大学生の時飲みすぎて、友達の彼氏の車の中で吐いちゃったことあるじゃないか。
その時の、どうにもならない苦しさと、申し訳なさを思い出した。
 
石井さんだって、嫌な気分の日くらいあるはず。
いや、そもそも私だって、今日は朝から憂鬱だった。
責められたミスは、私のせいじゃないけど、彼女のせいでもない。
石井さんだってよくわからない中、対応しなきゃいけなかったから辛かったはずだよね。
 
そこにたどり着いた時、ふわっと気持ちが軽くなった。
怒りを、手放せた瞬間だったと思う。
 
「怒り」は心の奥に押し込めて、なかったことにすることでも、一見うまく消化できたような気になれる。
でも、それを重ねていくと、自分が置き去りになって、どんどん苦しくなってしまう。
だけど、ちゃんと自分の感情と向き合って、よく味わってから、手放せた時は、自分が満たされた気持ちになるのだ、と知った。
 
本当は、それが誰の力も借りず、一人でできたらよいのだけど。
今の私にはまだ、銀だこのお姉さんの一言が必要だったのだ。
 
言葉ってすごいなぁ。
言葉には、すごく大きな力が宿っている。
いい言葉も、悪い言葉も。
言霊。 言魂。
昔の人の表現は、本当に美しい。
 
私が死ぬまでに、何気なく口にする言葉はいったい何語あるんだろう。
どうせなら、人を幸せにする言葉を、出来るだけたくさん使いたい。
私と言葉を交わした相手が、ほんの少しでも、ふわっと優しい気持ちになってもらえたら、きっと私はその相手以上に優しい気持ちになれるんじゃないか。
 
さて、お昼休みが終わったら、石井さんにどんな言葉をかけようかな……
 
 
 
 
***
 
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2020-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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