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性やセックスは破廉恥なことじゃない!~映画「ロマンスドール」を見て性教育について真剣に考えてみた~


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記事:匿名(スピード・ライティングゼミ)
 
 
「うっ、グスッ、ハンカチがいるなんて聞いてない……」
 
私は映画館で、袖で涙を懸命に拭っていた。利き手側だけでは足らなくて、両袖を使う。もうびしょびしょだ。号泣しているのは私だけではない。その時、劇場にいた老若男女が、嗚咽を漏らしていた。
昨年、映画『引っ越し大名!』を見て、俳優の高橋一生さんの演技にほれ込んだ。そして、2020年1月末公開の『ロマンスドール』という映画に出演されると、バラエティ番組で知った。奥さん役に蒼井優さんも出演される。蒼井優さんと言えば、数々の映画賞を受賞した日本を代表する女優さん。やさしい面立ちと朗らかな性格がとても好印象を受ける方だ。他の出演者もベテラン揃いだし、ちょっと見てみようか、と私は映画の前売り券を買った。
実は、興味が引かれた理由が他にもある。あらすじを調べると、ラブドール職人とそれらを巡る夫婦の話だというのだ。ラブドール、ひと昔で言うなら、ダッチワイフ。男性が性的な目的で使う大人のグッズである。性的な描写もあるため、PG12とのこと。
「え!?」と思ったのは一瞬。ちょっと、いやかなり、興味がある。どんなものなのか、どんなストーリーになるのか、この目で見て見たい。好奇心が抑えられなかったのだ。
劇場の分厚い扉をくぐる時、禁断の箱に手を掛けた様な、わくわく感があった。
 
映画は予想以上の出来だった。主人公夫婦のすれ違い、そして深い絆が描かれた作品だった。そしてもう一つ素晴らしかったのは、ラブドール製作の細やかな描写だった。より人肌に近づけるために、コンマ数グラム単位で材料を調合し、丹精を込めて主人公と先輩が試行錯誤を繰り返し製作する。クライマックスで完成したその人形は、本当に生きている様。パンフレットに製作協力された会社さんが作られた、実際のドールの写真が掲載されていたが、生きている人間よりも美しいとすら思った。ドールには、職人さんの魂が込められていた。その完成度の高さ、魅力から、性的な目的ではなく、マネキンの様に服を着せて着せ替え人形の様に傍に置いて愛する方がいるそうだ。男性だけでなく、女性のファンもいるという。
 
私は、映画のストーリーに感動すると共に、自分を恥じた。
 
性的なこと=見てはいけない、不浄なもの
 
そんな方程式を、無意識に頭の隅に考えていたのだ。
なぜ、そう思っていたのだろうか。エンドロールを目で追いつつ、考え込む。
 
「見ちゃいけません!」
 
小学校低学年生ぐらいの時だろうか。薬局の中を歩いている時、ふと、見慣れない物が売られているのを見つけた。派手な色の細長い箱。パッケージには大きく数字が書いてある。何だろうかと、しげしげ見ていると、慌てた様子の母親に視界をおおわれて別のコーナーに引きずられてしまったことがある。
数年後、それがコンドームだと知った。青年向けのマンガで読んだのだと思う。家族も学校も詳しくは教えてくれなかったから、自分でそうやって答えにたどり着くしかなかった。
昔から日本人というのは、奥ゆかしいというか、秘密主義な気質があって。特に、性的なことを、恥ずかしい、他人に言うべきものじゃない、不浄だ、という風潮があった様に思う。
現代でも、マンガや映画などで少しでも性的な描写があれば、「破廉恥だ! 子どもの情操教育に悪影響だ!」と、どんどん規制を厳しくしている。アニメ『ドラえもん』での、しずかちゃんの入浴シーンまで放送禁止されるようになったという噂には驚きだ。
そうか、子どものころの刷り込みがあったのか、と思い至った。
確かに、あまり幼少の内から、性的な物が子どもの目に触れるのはいけないかもしれないと、うなずきかけて、先日ネットで読んだ記事のことを思い出した。
 
ある女性の勤務先、男性向け風俗店に男性客が来たという。なんと、奥さんを連れて。その夫婦は20代くらい、高学歴といった感じの身なりのきちんとした清潔感のある二人だったという。困惑する彼女に、大真面目な顔で、旦那さんの方がこう言った。
 
「セックスの仕方がわからないので教えてください」
 
「嘘でしょ!?」
バスの中で、私は叫びそうになった。
別の日、テレビのドキュメンタリー番組では、未成年の性被害、望まぬ妊娠などの特集が組まれていた。
 
「セックスすると赤ちゃんができるなんて知らなかった」
 
画面の向こうの女子高生の言葉に、私は眩暈を通り越して絶望してしまった。
 
どうしてこんなことになっているんだ。少子化対策以前の大問題だろう。
 
ある方によると、日本の教育体制、ゆとり教育にも原因があるという。
学校が、受験に不必要な項目を削って様々なことを子どもたちに教えなくなっている。家庭科、技術科、そして、保健体育も。
みなさんも思い出して欲しい。保健体育の性教育の授業。精子と卵子が出会い受精してという内容はかろうじて思い出せると思う。しかし、それ以外のことを思い出せるだろうか。スルーっと教科書を流し見したぐらいじゃないだろうか。
保健の授業は不必要?
赤ちゃんはコウノトリが運んでくる?
いや、そうではないだろう、生命を考える上で一番大切で、隠してはいけない事柄じゃないだろうか?
 
欧米では性教育は、小学生低学年から教え、生徒同士でもディスカッションをしたり、家庭でも出産や避妊について話し合うそうだ。
日本はどうだろう?
生理出血を気合で止められるとか、ピルは医学治療目的ではなく、性に奔放な女性が避妊目的だけで使うものだと本気で考えている成人男性が少なからずいると聞いたことがある。
怒りを通り越して、悲しくなった。
かなり重症だ。
 
確かに、話しづらい内容かもしれない。
だが、本当に子どもを大切にしたい、守りたいと思うなら、目をおおって隠すのではなく、きちんと一緒に考えていくべきだ。
男女の身体のこと、妊娠・出産のこと、コンドームは何なのか・なぜ使うのか、性病とはどういうものなのか。
私がもし自分の子どもができて、その子がコンドームコーナーで首を傾げていたら、
「大人になって、パートナーができたら、お互いを守るために必要なものだよ」
と、教えてあげられるような心構えは持っていたいと思う。
 
恥ずかしい、不浄だ、という気持ちはもうそろそろ手放してもいいのではないだろうか?
性的なこと、そういう気持ちがあることは恥ずかしいことでも、破廉恥なことでもない。
人間の三大欲求は、食欲、睡眠欲、そして性欲でもあるし。目をそらさず認めてあげてもいいのだ。
子どもとだけでなく、大人同士でもディスカッションして、向き合い続けて欲しい。
もっとカジュアルに、真剣に、性について語り合える社会を目指していきたい。
そうしたら、男女の性別に関係なく、お互いを尊重し合える体制にも繋がっていくのではないだろうか。
性と向き合うことは、生きるための必須科目なのだから。
 
 
 
 
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2020-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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