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記事:成広汐里(ライティングゼミ平日コース)
 
2017年8月20日夜8時40分過ぎ。
私はテレビの前で泣いていた。
自分には何の関係もない、ある人の死を見て。
そして呟いた。
「鬼、脚本……」
 
『おんな城主直虎』。
2017年NHK大河ドラマ。
主演・柴咲コウ。
 
え? ご存じない?
まあそれも仕方ないのかなあ……。
この大河ドラマ、正直視聴率は振るわなかった。
しかしながら、
私史上最高の大河ドラマなのだ。
 
前年の大河ドラマ『真田丸』は評価が高かったし、視聴率も高かった。
実際面白かった。
だから「来年は大変だろうなあ」となんとなく感じていた。
女性主人公の大河ドラマはコケやすいとか。
ほとんど史実が残っていないとか。
放送直前に「実は男だったかも」説が出るとか。
そもそもいたかどうかも分からないとか。
しかも前年の大河ドラマがここまで評価が高い。
逆風しか吹いてない。
放送前のPR動画もイケメンに囲まれたお姫様という感じで。
「さてどうなることやら……」
と内心ちょっと諦めながら見た初回放送。
 
………。
いや待て、初回から首桶出てくる大河ドラマって何。
戦国の世の中厳しすぎんか、それを全面に押し出すとか脚本鬼か。
まだ子役なんだが?
 
これが初回の感想だった。
もっとも半年後私はこの時代が一番平和だったことを思い知るのだけど。
 
主人公は井伊直虎(幼名・おとわ)。
「徳川四天王」の1人である井伊直政の養母、とされている人だ。
そして直虎の許嫁であり幼なじみの井伊直親(幼名・亀之丞)。
幼なじみであり井伊家家老の息子の小野政次(幼名・鶴丸)。
この3人がメインの登場人物。
なんだか恋が始まりそうだが、
実際始まるのは戦国時代の無情な現実だ。
 
初回で幼なじみの父が首桶になる。
幼なじみが殺される。
生首も割と出てくるし。
人身売買も普通。
家は潰れるし、
裏切ったり、裏切られたりは普通。
大切なものを守りたいだけなのに、守れなかった。
毎回毎回心が痛くて、しんどくて、辛かった。
スイーツのふりして中身はハバネロ。
1年経つ頃には「鬼脚本」は褒め言葉になった。
 
特に冒頭に書いた日付。
あの日はおそらく『おんな城主直虎』視聴者の8割は泣いたと思う。
かくいう私も泣いた。
 
政次が、直虎の手で殺された回の放送日。
 
それまでに彼女たちが重ねてきた日々とか物語を踏まえないとなぜ泣いたかの説明はできない。
敵だと思っていた家老は実は味方で。
同じようにこの土地を守りたくて。
でも守り切れなくて。
だから自らの命を差し出した。
主君を守ろうとした忠義者ではなく
乗っ取ろうとした裏切り者として。
実に強烈な
でも確かにラブシーンだった。
 
Twitterでは毎回毎回考察大会が放送後開かれていた。
大河ドラマファンの考察力と観察力には舌を巻いた。
うわーそんなところ気づくのかー、すごいなあと思った。
毎回放送後Twitterを開いてツイートを見るのが楽しかった。
最終回に近づくにつれて
「これっ……! この回の……!」
という伏線がどんどん回収されて
1年間見続けて良かったと満足感と充実感でいっぱいだった。
「#虎絵」というハッシュタグでたくさんのイラストも見た。
最終回が終わった後には「#直虎流行語祭り」が開かれた。
たくさんの言葉が上がっていて、
そのセリフを見ては
「これこのシーンだ……!」
「めっちゃ分かる、このセリフ好き」
と1人でニヤニヤしていた。
 
『直虎』の何がそうさせたのか。
『直虎』は戦国の世をありのままに描いている。
これは「私たちが見る」戦国時代じゃなく「彼女たちが見る」戦国時代だ。
私たち現代に生きる人間は
「恋愛は自由なもの、許嫁とか政略結婚は不幸」
「人身売買なんて」
と思う。
それは普通だし何も問題ない。
でもそれは「今」の感覚であって、「その当時」の感覚ではない。
当時は生き残るために裏切って、
政略結婚をして、
誰かの死体の上に誰かの幸せが立っていた、文字通り。
あの事件が起きたとき、彼らはどこでなにをしていたか。
そして何を守ろうとして、何を奪おうとしたか。
奪おうとしたあの人は何を思っていたか。
 
誰かが笑う裏で誰かが泣いている。
「無事でよかった」と泣いている人の隣で
大事な人を殺された恨み、悲しみで泣いている人がいる。
「いくさのない世を」。
何度も言われてきた言葉だ。
でも、今までの戦国時代のお姫様とは違い、
父を戦いで亡くし、
無事を祈り見送った人は誰も帰って来ず、
幼なじみを殺され、
幼なじみを自分の手で殺した直虎の言葉は
誰よりも説得力があった。
 
史実が少ない、はむしろ強みだった。
少ない史料、でもそこには残らない物語があった。
人にはそれぞれ物語がある、それをちゃんと理解出来た。
史実を元にしたフィクション、はこのドラマのためにあると思った。
 
日曜日の夜で
明日からまた学校や仕事で
それなのに鬼脚本にボコボコにされたけど
それでも後悔はしなかった。
1年間、彼らと苦楽を共にしたような感覚だった。
だからあのとき泣いてしまったんだろうと思う。
 
さて、今年も大河ドラマが始まった。
史実の裏にどんな物語があったのか。
彼の物語、1年かけて辿ってみよう。
 
 
 
 
***
 
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2020-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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