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卒業論文に救われた話


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記事:成広汐里(ライティングゼミ平日コース)
 
ああ、今まで、生きててよかった。
今までの読書体験も私が生きてきた人生も無駄じゃなかった。
それが最初の感想だった。
 
遡ることおよそ1年前。
1回生の私はポスターセッションの会場にいた。
内容は当時の3回生の卒業論文のテーマ。
なんで1回生がそんなところにいたか。
学部の教授とTwitterや、直接お話したりするなかで
「自分のゼミに成広さんと同じように本が好きな人がいる」
と聞いたからだ。
その人の研究テーマもすごく興味が湧いた。
心理学を学び始めたばかりで
まだ何を研究したいかなんて決まっていない。
だからこそ行ってみようと思った。
 
その会場は驚きで溢れていた。
心理学の研究が本の登場人物にまで及ぶなんて思わなかった。
わくわくしながらポスターを見ていたら、
教授がその先輩と会わせてくれた。
先輩のテーマは「読書体験がその人にどのような影響を及ぼすのか」。
だから、読書が好きな人に話を聞きたい、と。
聞くとその先輩も本が好きで、何度も本に救われた経験があるらしい。
私と似てるかも。
「私でよければ」
私の今までが役に立つのなら。
 
2回生の夏休み、私は大学の一室にいた。
インタビュー形式の研究でたくさんの話をした。
小学生の頃から今までどんな本を読んでいたか。
どんな本が好きだったか。
本はどんな存在だったか。
たくさんたくさん話をした。
 
そして12月、私は2件のLINEを受け取った。
夏休みに卒業研究に協力した先輩からだった。
「ああ、そういえば卒論提出日だったな」
私はといえば、参加したことも忘れていた。
まだ2回生というお気楽な身分なので卒業研究の締め切り日も忘れていた。
そのLINEには無事提出できたこと、
そしてその論文を読んでもらっても大丈夫だろうかということが書かれていた。
もちろん個人情報は伏せられているが、
内容は私が話したことなので一応許可がいるんだろうな。
私としては何の問題もないので、
読んでもらって問題ないです、と返信した後こう聞いた。
「私も読んでみてもいいですか?」
自分が参加した研究の論文なんて何度も読めるわけじゃないし。
先輩の研究テーマ気になってたし。
いろいろ理由は考えたけど、
自分の話がどんな風に聞かれていたのか気になっただけかもしれない。
ただ読んでみたかった。
先輩は快諾してくれた。
ありがたく送られてきたファイルを開いた。
いつもなら序論から読む。
でも今回は飛ばした。
自分の話はすぐ分かった。
そこには文字にされても確かな「私」がいた。
 
小学生の時、「神様のカルテ」という本に出会った。
医師の日常を描いた小説で、真面目な医師が主人公だった。
私はその主人公に憧れて、医師になりたいと思った。
患者に寄り添い、その家族に寄り添う彼に憧れた。
医師になる夢は叶わなかったけれど
彼のように寄り添う夢は叶うかもしれない。
そんな場所にいる。
私の進む道はこの本が示してくれた、そう言っても過言ではない。
 
中学、高校のときは図書室が交流の場で、私の逃げ場だった。
自宅から1時間かかる中高一貫校。
通えるか不安だった心は一気に吹き飛んだ。
「ここにある本、6年間でどれくらい読めるだろう」
小学校と比べてたくさんの本があった図書室。
それを見たときの感動は忘れられない。
自分と同じくらい本が好きな人に初めて会った。
自分じゃ手に取らないジャンルを紹介してもらった。
本の世界が広がった。
どうしても教室に行きたくない、学校に行きたくないときがあった。
そのときも図書室に行った。
そのときに借りた「アルジャーノンに花束を」は少しだけ悲しくなった。
受験勉強も図書室でやった。
行きたい場所に行くために必死だった。
受験が終わったら図書館で8時間本を読み続けた。
図書委員会でたくさんの企画をした。
教室よりもたくさんの思い出がその場所にある。
 
そして私と本の関係性。
本は私の世界を広げてくれた。
「神様のカルテ」をきっかけに夏目漱石を読み始めた。
それをきっかけに日本の文豪作品を読み始めた。
「夜と霧」も読んだ。
今ではすごく大事な本で、読んで良かったと思っている。
「人生を狂わす名著50」をきっかけに外国の作家を読み始めた。
最初は「高慢と偏見」を。
今は「風と共に去りぬ」を読んでいる。
 
本を読んでいて良かった。
何度も思ったことだ。
現実の世界がしんどいとき、そばにいてくれた。
でもこのとき以上に思うことは今までなかった
きっとこれからもないだろう。
それくらいなんだか嬉しかった。
今までの私が全て肯定された気がした。
本に救われた。
その経験が私以外の人にもあったことが嬉しかった。
 
私には本に対してたくさんの恩がある。
助けてもらったし、憧れも生き方もいろんなことを教えてもらった。
いつか恩を返せるように。
そして私もいつか誰かを助けられたら。
いつか誰かに憧れとか生き方とか、そんなことを教えてあげられたら。
 
さあ、今日はどんな本を読もうかな。
誰に会いに行こうかな。
どんな世界を見に行こうかな。
これからどんな世界に会えるかな。
そんなことを思いながら論文を閉じた。
 
 
 
 
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2020-02-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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