煩悩クッキング 背徳も味覚編
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:谷中田 千恵(スピード・ライティングゼミ)
定期的に、ジャンクフードに溺れる時期がやって来る。
ファストフードのフライドポテトに始まり、ポテトチップに、チョコレート。コーラに、焼肉、チーズケーキ。
しょっぱくて、甘くて、油の味がするものが、美味しくないわけがない。
とにかく、頭のてっぺんから、つま先まで、油と、糖にまみれたい。
もちろん、体にいいとは、微塵も、思ってはおりません。
その背徳感が、ますます、欲望をかきたてる。
先日のこと。夜の9時を回ったが、どうしてもお腹がすいてたまらない。
夕飯を早めに済ませたせいかと、冷凍庫の底から、冷凍ご飯を出してみる。
2、3分しげしげ見つめてみるが、なんだか、気持ちが納得しない。
ご飯、ご飯、軽めのご飯。茶碗に0.5膳、明日の胃腸に優しいご飯。
唱えてみるが、一向に気持ちが動かない。
大体、私は、胃腸が弱い。
こんな夜中に、食べ過ぎると、明日の仕事に差し障る。
今夜の夜食は、すっぱり諦めて、寝室に戻ると、本棚のケーキのレシピ集に目が止まる。
そういえば、作ってみたい、ホットケーキがあったな。
ニューヨークで流行っている、ふわっと軽いタイプ。
なんて、魅力的なうたい文句。
せっかく、今夜、我慢するのだ、明日は朝から、ニューヨーク・春のパンケーキ祭りとしてみよう。
料理の不得手な私。予習をしておいて損はない。
早速、ベッドの中で、レシピを開く。
なになに、レモン汁に牛乳を混ぜて20分待つですと。
生地自体も、30分寝かせるのか。
こんなの、朝から作っていたら、とてもじゃないが間に合わない!
生地だけ先に作っておこう。明日の朝は、焼くだけだ。
ベッドを飛び出して、早速、仕込みに入る。
小麦、重曹、ベーキングパウダー。
計りなんて、久しぶりに使うなあ。
卵に、バター、砂糖に、塩。なんとか、材料は揃えられそうだ。
レモン汁を混ぜた牛乳も、すっかり固形化してきている。
なるほど、次はどうしたものだろう。
卵と砂糖を、しっかり混ぜて、粉をふるいにかける、と。
ふるい、ふるい。
さあて、材料全部が、混ざったな。
あとは、これを朝まで寝かせて、焼くだけだ。
なんと、準備のいい。さすが、私。
準備のついでに、焼くところの予習でも、始めるか。
レシピを再び、開く。
まず、焼き方のポイントだな。ポイント、ポイント。
「レモンと、重曹を混ぜると、30分ほどでガスが出始めます。
ガスが、泡立つうちに、フライパンに流し込みます」
ガスが、泡立つうちに。
ガスが、泡立つうちに?
ガスが、泡立つうちに!
慌てて、ボウルを覗き込むと、確かに、ぶくぶくと泡立ち始めているではないか。
しまった! こんなに、勢いのあるガスが朝まで残るとは思えない。
大急ぎで、フライパンの準備を始める。
気づけば、時計は11時を指している。
ああ、そろそろ、ベッドに入りたい。
レシピをさらに開くと、そこには新しいポイントが。
「小さく、たくさん焼くのが、ニューヨーク流です」
ニューヨーク。さすが、眠らない街。私に睡眠は、必要ないとでも言いたげだ。
モタモタしている時間は、ない。
熱したフライパンに、さっさと生地を流す。
流した瞬間、ふあっと、甘い香りが、部屋いっぱいに広がる。
ああ、おかし作りの醍醐味だ。
もう、おいしい。もう、おいしい。
小さな生地には、あっという間に、プクプクとした穴があく。
片面焼けましたのサインだ。
フライ返しで、ぱたっと返すと綺麗な黄金色があらわれた。
うん、時間は全て、捧げます。
そこからは、ひたすら、流しては、返すを繰り返す。
1時間後には、30枚ほどのパンケーキが積み上がった。
時刻は12時を回っている。
積み上がったパンケーキの塔の、まあ、なんとほかほかで、ふんわりして、しっとりとしていることか。
これを今食べずに、いつ食べるのだ!
10枚ほど、お皿に盛り付け、たっぷりのメイプルシロップとバターをかける。
10枚の層にナイフを差し込み、口に運ぶ。
夢のような口どけ。
ふんわりは、雪のようにあっという間に、とろけてしまう。
あまりにも、一瞬の出来事で、もう一口、もう一口と手が伸びる。
あっ、冷蔵庫の奥に、レモンカードが残っていたはずだ。
次の、一皿は、レモンカードで。
明日のことなど、すっかり忘れ、2皿目の準備に入る。
小さく、今日だけ、今日だけの呪文は忘れない。
カスタードの甘みと、レモンの酸味が、とろける生地に飲み込まれる。
なんて、幸せな。
気がつくと、半分ほどのパンケーキがすっかり消え失せている。
残ったのは、たっぷりの罪悪感と、それすら飲み込む圧倒的な、満足感と、満腹感。
ああ、真夜中のパンケーキ、響きだけで、もうおいしい。
今、こんなに幸せなのだから、明日の、胃もたれなんて、大したことではないに違いない。
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