節約のはずが、借金を背負い、人としての大切な何かを失いかけましたレポート
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:緒方愛実(スピードライティング・ゼミ)
「おぅ、マジですか……」
私は、震える手で、茶色の小封筒を手に持った。
そいつは、健康診断結果の大きな白い封筒に入っていた、病院への招待状、いや紹介状だ。血色素、ヘモグロビンというのは、平均的に12~15ないといけない。だが、私は9しかなかった。貧血だという。その場合、何が考えられるかというと、不正出血、身体のどこかで血がもれている可能性があるというのだ。もしかしたら、病気、しかも手術が必要な問題が起こっているかもしれない。二年続けての赤信号に、とうとう病院に行くようにとの警告が出たのだ。
私は、顔面蒼白になった。私は死ぬのか? ネガティブ思考の私は、超特急で最悪の事態を覚悟した。
一ヶ月以内に行くようにとの、お手紙に従って、私は病院に向かった。
どうか少しでも改善してますように。
「ヘモグロビンがやはり低いですね」
大っ嫌いな採血をし、出された診断結果を、冷静な口調で先生が読み上げる。
私はガックリと肩を落とし、うなだれた。
「不正出血が疑われるので、身体の各所を検査する必要があります」
「そうですか……」
「内視鏡検査をしたことは?」
「はぁ、数年前に一度、腸の方から検査したことがあります。何も問題は見つかりませんでした」
「そうですか、じゃあ、胃カメラをちょっと飲んでみましょうか?」
「え!?」
「大丈夫です、すぐに済みますから」
そんな、一杯飲んでく? みたいなカジュアルな言い方されても。私は、胃腸内科を選んでしまった自分を恨んだ。
噂に聞くと、胃カメラは、鼻からと、口からの二種類の方法があるらしい。
「鼻からやったA君は、しばらく鼻水が止まらなくなったらしいよ」
従姉から送られて来たLINEのメッセージを読んで、ぐったりした。口から内視鏡を入れるとえずくというし。私は、鼻炎になりやすい体質なので、鼻が弱い。嫌だ、どっちも嫌だ。
いざ、口からの胃カメラ初体験。先生の腕が良かったのか、麻酔の効きが良かったのか、まったく苦しくはなかった。
「結果ですが、何の異常も見つかりませんでした」
「そ、そうですか!」
「じゃあ、次は検便で」
「え……」
ピーマンみたいに緑の透明のジップロックに入った、検便セットが受付で手渡された。しかも2本。
「採取したら、当日に必ず持って来てください」
沈着冷静に、看護婦さんが説明する。私は遠い目をしてそれらを受け取った。
私は、2週間検便のことで頭が一杯になった。土曜日にしか病院に行けない。ちゃんと採取できるのか、問題のないすばらしい物をはたして生み出せるのか、すばらしい物を作り出すには、そもそもすばらしい便とは。
寝ても覚めても、検便のことが頭をよぎる。
女性として、いや人としてこんなことばかり考えているのはどうなのか?
だんだん悲しくなって来た。
「2回の検査が終わりましたが、どちらも異常はありませんでした」
「ほ、本当ですか!」
「貧血について何か自身で思いあたることは?」
「あ~、ハハハハ」
実は、私は貧血の原因に心当たりがあった。
私は、もういい歳の大人だ。学生の時は、母が昼食様に弁当をこしらえてくれていた。大人になっても親にお世話してもらうのはどうなのか。
がんばって、これは弁当くらい作るべきだろう。
それに節約にもなる。
そう、思い立って倹約家の私は数年前から弁当を手作りし始めた。だが、それがいけなかったのだ。
私は食にあまり興味がない。高くておいしい物を食べるより、我慢して節約して大好きな本を買いたかった。誘われれば、友達と食事には行くが、自分ではめったに外食をしない。食べるとしても、安いに越したことはない。気に入りのパンなどを2、3個食べたりする。別に同じ物をルーティーンしてもまったく構わない。いっそ、一食抜いてもまったく問題ない。
乳幼児の時は、母乳も飲まず、こんこんと寝ているばかり。母の気を大変もんだ。私は、寝ることも大好きだからそちらを優先したかったのだろう。もう、昔からそういう生き物だったのだ。
結果、出来上がったのが、唐揚げとだし巻き卵のルーティーン弁当。たまに、私の気が向いた時にそこに副菜が入る。
朝は、さ湯と白飯。たまに、ふりかけをかける程度。
そう、貧血の原因は、栄養失調。
令和のこの時代に。
「それとね、緒方さん。貧血には関係ないんだけど、ピロリ菌が出ました。駆除しましょう」
「ぴ、ピロリ菌!?」
ピロリ菌というのは、胃がんなど、胃腸系の病気の原因物質になるという、胃の中に潜伏する菌だそうで。幸い、一週間駆除薬となる抗生物質を飲んでいけばいなくなるらしい。
「一週間、朝晩、すべての薬を飲んでくださいね」
「な、なんだこれは!?」
銀のパックに包まれた、分厚い物体が出て来た。アイスクリームのピノの箱より分厚い。中身がピノなら本当に良かったのに。それを入れる薬袋も見たことない大きさだ。1回に、錠剤とカプセルの合計6錠、そして整腸薬。合計で約3千円のピロリセットだ。
「ほら、あんな食生活してるから! ちゃんと食事して、青汁とか飲んで栄養つけなさい」
母親にこの歳でしかられ、とぼとぼと薬局に向かい、お徳用の青汁をしぶしぶ購入した。もちろん、鉄分豊富なやつを吟味して。
「おっ、オッエ~~~!?」
人生初青汁。大層まずかった。もう一杯! なんて元気なこと言えない。胃カメラではなく、こちらでえずくことになるとは。
検査代、ピロリセット、青汁など総額約2万円。
そして、四六時中、検便や検査のことで頭が一杯になった、約一ヶ月の精神疲労。
人として失われた時間。
節約のつもりが、じわじわと、自分の首をしめていたのだ。
「健康はお金で買えない」
まさにその通りだ。
大損だ。もう、借金地獄だ。
身体は資本。
健康があってこそ、色んなことをすることができる。お金があっても、死んだら終わりだ。
もしも、あなたが、ほがらかに、有意義な人生を長く楽しみたいというのならば、栄養と睡眠はきちんと摂ることを心よりおすすめする。
健康負債を抱えていては、何もできなくなるのだから。
「う、ウッエ……」
今日も私は涙目で、ひとり、台所で6錠の薬を緑色の液体で流し込む。もう、色々とお腹一杯だ。
自業自得とはまさにこのこと。
以上、健康債務者からのご報告でした。
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