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中学校で不登校をしていた僕が3年間休まずに通えた高校の魅力


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記事:町田和弥(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「おいお前、年下だろ。なんだ、その態度は!」
 
僕が高校1年生のとき、学校の廊下を歩いていたら2人の生徒が口論をしていた。
どうやら、年下の彼が年上の彼にタメ口を使ったようだ。
 
タメ口の彼も「べつに――」と。
いつかの女優が吐き捨てた不機嫌さで言葉を返すものだから、相手の怒りはピークに達し、タメ口の彼に汚い言葉をマシンガンのごとく打ち込んだ。
 
口論の一部始終を見守っていた先生は怒り狂う彼に対して、ピシッと一言。
 
「先輩として尊敬されたいなら、まずは人として尊敬される行動をとりなさい」
と言い放ち、生徒指導室へ怒り狂う彼を連れていったのだ。
 
なぜ先生は年上の彼を叱ったのか。ちゃんと理由がある。
 
僕が通っていた高校には、こうあるべきだという常識がないのだ。
 
たとえば、
学年という考え方がない。
3年で卒業しなければいけない訳でもない。
最大6年かけて自分のペースで卒業すればよいのだ。
 
決まった時間割もない。
バイキングのように好みの時間割を作成できる。
早起きが苦手な人は、午後から授業を組めばよいのだ。
 
このような自由な校風には、後輩はこうあるべきだという常識は似合わない。
ただ年上であるということが、年下から敬語を使われてしかるべき理由にはならないのだ。
 
もちろん、年下の彼の態度も悪かったのかもしれない。彼も一緒に指導するべきだという声もあるだろう。
 
しかし、マシンガンのような罵声を浴びたタメ口の彼は、十分すぎるほどに後悔をしたはずだ。人を見て言葉遣いを改めようと。
これ以上、先生に叱られたら、踏んだり蹴ったりではないか。
 
入学早々こんな出来事に遭遇した僕はこの学校に来てよかったと思った。
 
僕は中学校で不登校をしていて、周りの大人たちにちゃんと学校にいくべきだと散々言われてきたものだから、こうあるべきだという正論を押しつけてこないこの学校は居心地がよかったのだ。
 
そもそも、僕の母校は世間で批判されがちな不登校生徒に対して寛容な高校だった。当時は多くの都立高校で調査書点(内申点など)と学力検査点(入学試験)の配点比率が5:5の時代だったにも関わらず、この都立高校だけが配点比率3:20を採用していたからだ。
 
しかし、卒業から20年経ったいま、配点比率が3:7になっている。
どういうことだ。
不登校生徒に冷たい学校になってしまったのか?
 
僕はいま、不登校やひきこもりを支援する学習塾で働いている。
不登校の生徒に自信を持って母校を勧めることができないではないか。
 
配点比率の謎を調査すべく、僕は久しぶりに母校の学校説明会にいってきた。
 
――2019年12月21日(土)、東西線神楽坂の駅を降りて、住宅街を抜け学校に着く。
 
にぎやかだ。どうやら文化祭をしているようだ。
 
パンフレットを生徒からもらう。
文化祭のテーマはprism(プリズム)らしい。
 
「ああ、理科の実験で使う三角プリズムね。白い光が7色の虹色になって出てくるやつね」と思いながら、とりあえず文化祭の見学は後にして、学校説明会がおこなわれる地下の体育館に向かった。
 
体育館に入ると既に100人を超える人が説明会を待っていた。
僕もパイプ椅子に座り、説明会の開始を待つこと10分。
校長先生が口を開いた。
 
本校は1991年の創立以来、不登校の生徒を受け入れてきました。
 
皆さんもご存知のように配点比率が3:20から3:7になったいまもなお、我が校を受験する不登校生徒の割合は変わっていません。内申点が少ないからといって、受験を諦める必要はありませんから、心配しないでくださいね。
 
さて、話は変わりますが、
本校の卒業生には直木賞作家の島本理生さんがいます。最近私は彼女の講演会を聴きにいきました。そこで彼女はこう言いました。
「実は大人になると実感するが、たくさんの大人が高校生くらいまでの記憶や、痛みや、憧れを財産にして、その後の人生を生きており、それが私自身の作品にも生きている」と。
 
本校で「財産」を手に入れた生徒の中には、卒業文集にその思いを書き残す生徒もいます。
 
たとえば、
「自由ゆえの厳しさを経験」
「人の気持ちを想像し慈しむことのできる自分を大切にし、感謝の念を忘れず日々丁寧に過ごしていきます」
など。
 
本校は時間割など他の高校と比べて自由な側面が多いのですが、人の生き方として、自由には他者を尊重するという責任も伴うことを教えます。自由だからといって、他者に迷惑をかけていいわけではないからです。だからこそ、人の痛みや気持ちを想像し慈しむことが大切なのです。
 
つまり、本校はプリズムで、生徒は光なのです。
プリズムという学校に通うことで、多くの学びや経験を経て、人の痛みや気持ちを知り成長した生徒たちは、プリズムを通過した白色光のように七色に変化し、それぞれの道へ進んでいきます。高校に入学したときは白一色だと思い込んでいた自分の個性が、高校での様々な経験を経て、卒業するときには自分の様々な可能性(色)に気付くことがあるのです。
 
今年の文化祭のテーマprismは、文化祭実行員の生徒たちが決めました。生徒たちが文化祭を通して成長し、個性を放ち、光り輝く存在となれるようにと想いを込めています。
 
文化祭の中で、生徒がどのような輝きを見せるのか楽しんでいってください。
 
――校長先生の話が終わった。
母校が不登校生徒に冷たい学校になってしまったのではないかという僕の不安は、学校説明会というプリズムを通り、安心に変わった。
 
3年間、慣れ親しんだ帰り道と同じように、
「僕の母校は居心地の良かったあの頃と何も変わっていない」とホッとした。
 
はやく生徒に伝えたい。生徒に自信を持って紹介しよう。
 
多様性を認める高校、その名は東京都立新宿山吹高等学校。
 
 
 
 
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2020-02-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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