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メディアグランプリ

入院が変えた私の未来


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:加藤有加里(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
重いまぶたを持ち上げると、そこに見えるのはグレー色な天井。朝6時、検温の時間だ。パタパタと看護師が廊下を歩く音が聞こえてくる。体温計を脇に挟み、看護師が体温を確認しに来るのを待つ。
 
ちょうどクリスマスの前日、私は持病を悪化させ緊急入院となった。少し前から体調が悪いことは気づいていたけれど、仕事が忙しいこの時期、何とかなるんじゃないかと自分をだましながら働いていた。そんな無理がたたっての入院だった。
 
体温計がピピピッと高い音を立てた。今日も熱はなし。入院当初はぐったりとしていて何も考えられなかったが、数日経つと体調も落ち着き始めた。
 
「やりかけのあの仕事はどうなっただろうか」
自分に余裕が出てくるとまた仕事のことを考えてしまう。会社の皆からは、仕事のことは気にせずゆっくり休みなさいと温かい言葉をいただいた。それでも気になってしまう自分は日本人らしいのかもしれない。
 
ここは、病院のベッドの上。仕事のことを考えてもどうしようもない。私は開き直ってみることにした。時間だけはたっぷりとある。さて、何をしようか。
 
私が入院した病院には、患者さん用の小さな図書館があった。
「ふだん本をゆっくり読むことなんてなかったから、ちょっと読んでみるか」
そんな気持ちで、長編ミステリーを読んでみることにした。これが、意外にもおもしろく私はあっという間に読破した。
 
さて、次は何をしようか。ちょうど年末に差し掛かる時期、年賀状を書いていないことを思い出した。いつもならパソコンを使い、大量に印刷していたが、今年はそれもできそうにない。数枚だけなら、手書きで書けるかな。そう思い、家族に購入してきてもらった年賀状を書くことにした。こんな風に手書きで一枚一枚相手のことを想いながら書くのは小学生以来だ。ゆっくり落ち着いて書くのも悪くない。ベッドの上で、あーでもない、こーでもないと考えながら、書いていた。
 
こんな風に自分のためだけに時間を使うのはいつぶりだろう。
毎日仕事に追われて何にために働いているのかも分からなくなっていた自分にとって、こんな時間はとても新鮮だった。まるで、一人で温泉旅館に泊まり、貸切露天風呂に入りながら自分と対話しているようだ。少し熱めの心地よい温度の中で、好きなだけじっくり湯につかる。余計なことは何も考えない。そこにいるのは、自分だけ。
 
毎日、自分自身とたくさん対話していく中で、急に将来のことが気になりだした。今の仕事は楽しいし、やりがいもある。けれどもこれからも続けたい仕事なのだろうか。
 
ふと周りを見渡すと年末年始にもかかわらず、多くの医療スタッフが私のような入院患者のために働いている。大みそかには、夜勤の看護師さんと一緒に紅白歌合戦を見て楽しんだ。元日の朝には、いつも通り食事が運ばれてきた。朝8時に食事を提供するには6時ごろから準備していたに違いない。年末年始でも普段と同じように患者さんのために働く人たちがたくさんいることに気づいた。
 
自分の担当看護師さんに愚問かもしれないと思いながらも尋ねてみた。
「看護師のお仕事はやりがいがありますか?」
返ってきた言葉は、当然と言えば当然だが、とてもやりがいがあるお仕事だということだった。でも、体力的にはとてもきついからおすすめはしない、看護師以外の医療職ならおすすめするわよとも言われた。たしかに、体力には自信がない。他の医療職は何があるだろうとその後も考え続けた。
 
私の向かいのベッドには、母と同じくらいの女性がいた。末期がんだそうだ。いつも少しだけ食事をしては嘔吐していた。それでも食べたいという気持ちはあるようで、見舞いに来る家族にいつものヨーグルトを買ってきてくれと頼んでいた。
 
食べたいという欲求は、人間にとってとても自然な欲求だ。病気であってもその気持ちは同じだ。その食べたいという気持ちを大事にしながら、健康に過ごせたらとても幸せなことではないかと思うようになってきた。私もこの入院中に、絶食、流動食を経て、やっと普通の食事を口から摂ることができるようになった。普通に食事が摂れる喜び、それをかみしめているうちに、食事や栄養をサポートする医療職、そんな職業があることに気づいた。
 
この入院中、毎日自分と向き合う中で、次の道が見つかったようだ。もちろん今の仕事も嫌いじゃない。でも、違うことにチャレンジしてみるのもいいんじゃないか。人生は、挑戦の連続なのだから。何もしなければ得るものはない。挑戦の先に得られるものはまだ分からないけど、とりあえずやってみよう、そんな気持ちが退院のころには湧き上がっていた。
 
それから1年、私は管理栄養士を養成する大学の入学式の場にいた。退院のときに私の中に湧いた気持ちは変わらずに持ち続けていた。私の同級生は一回りも年が離れた子たちだ。うまくやっていけるだろうか、そんな心配も無邪気に話しかけてくる同級生によって一蹴された。入院は悪いイメージばかりだったけれど、その先にこんな未来が待っているなら、そんなに悪いものではないなと思いながら、同級生と一緒に教室に入っていった。
 
 
 
 
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2020-02-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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