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なまりは履歴書


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:佐々木 慶(ライティング・ゼミ日曜コース)
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「なんで、そんなになまっているの?」
頭の中が真っ白になった。
 
中学校までは宮城県南部にあるまちの学校に通っていた私。
田舎の小さな学校であったこともあって、地元出身の生徒がほとんどだった。
他のまちの出身の生徒は、まずいなかった。
もし、転校生が学校にやってきたら、しばらく校内で話題になるくらいだ。
 
高校では、大学に進学を希望していたこともあって地元のまちを離れ、仙台市にある進学校に入学。
その学校には、宮城県内の各地から生徒が集まっていた。
中学校までとは全く状況が違っていた。
 
入学式が終わり、クラスの教室に戻ってから自己紹介タイムがあった。
さまざまな場所から入学してきたからだろう。
五十音順であ行の名字の人から順番に名前や出身地が声に出されていく。
いよいよ、自分の番がやってきた。
 
「佐々木 慶です。〇〇(地元名)中学校からやってきました。これからよろしくお願いします」
 
緊張はしたけど噛まなかったし、何よりも元気に挨拶することができた。
自分の中ではまあまあ合格点の自己紹介だった。
 
「いよいよ、高校生活が始まるんだ!」
夢と希望であふれていた。この時までは。
 
自己紹介が終わって休み時間に入ってから、同じクラスの同級生が話しかけてきた。
 
「佐々木くんは宮城県出身なの?」
「うん。そうだけど」
「なんで、そんなになまっているの? 変だよ」
 
頭が真っ白になった。
 
すぐに我に帰ったあと、
「お前だって、宮城県出身だし、そもそもなまってるじゃん!」
頭の中でそんなセリフが駆け巡ったが、そんな気持ちを必死に抑えて聞いてみた。
 
語尾の言葉、そしてアクセント尻上がりになるなど、彼の知っている宮城の言葉とは違っているそうなのだ。
聞けば、彼は宮城県の中でも仙台よりも北部の地域の出身。
 
どおりで、話し方が違うわけだ。
しかし、納得いかないことがあった。
「変って言うことないんじゃない?」
「いやいや、変でしょ。そんなになまっているの佐々木くんだけだよ」
自己紹介を振り返ってみると、クラスの8割は宮城県北部の出身の人だった。
じゃあ、残り2割の南部出身者が私を擁護してくれるかと言えば、そうではなかった。
彼らは、そんなになまっていなかった。
 
「なまっていて何が悪いんだ!」
そう言い返せばいいのに、そうしなかった。
なぜか。
 
その時まで自分がなまっているという感覚がそもそも全くなかったのだ。
そしてショックだった。
 
「なまっているってことは田舎まるだしの話し方になっていることか!」と。
恥ずかしさが込み上げてきたのだ。
 
入学して早々、どぎつい洗礼を受けた。
 
それから、3年後。
受験に無事合格した私は大学進学を機に上京した。
憧れの東京生活。新しい友達。
胸がワクワクした。しかし、同時に不安でもあった。
努力の結果が出るか分からなかったからだ。
 
高校一年生のあの苦い経験以来、私はあることに取り組んでいた。
 
大学に行くための勉強ももちろんがんばった。
しかし、特に頑張ったのは話し方の改善だ。
なまりをなるべく感じさせないように努めてきたのだ。
 
入学した大学は東京のみならず、全国各地から人が集まっていた。
当然、言葉の話し方は全く違う。
ドキドキしながら、学科の新歓コンパ、サークルの見学、そして入部し、バイトにも取り組んだ。
結果は私の杞憂だった。
どの人もだいたい私が宮城県出身だというと驚いたのだ。
「佐々木さん、宮城県出身なんですか? 全然なまってないですね」
誇らしかった。
今まで、自分の言葉遣いがコンプレックスだった。
そして、その言葉を使う自分のことが恥ずかしく感じていた。
みんなの反応に、努力が報われた気がした。
 
ただ、それが間違っていたことに気づいた。
社会人になってからのことだ。
大学時代の旅行をきっかけに、群馬県という土地を気に入り、そのまま就職した私。
あるとき、同業他社との交流会に参加した。
参加者の多くは群馬県内のさまざまな地域出身の人たち。
その場で、他社の人がこんなことを聞いてきた。
「佐々木さんって群馬県以外の出身ですか?」
 
肝が冷えたような気分だった。
え、まさか気付かれた?
職場の上司や同期には全然宮城県出身と気づかれなかったのに。
なまりを隠すことができたのに!
 
「どういうことですか?」
恐る恐る聞いてみた。
「いや、アクセントが違ったので、もしかしてと思って」
うあー、やってしまった。
あれだけ、バカにされないように努力したのに!
 
「なまりって、その土地が育って過ごしてきた証って感じるから好きなんですよね」「だから、私もなまりは治したくなんですよね」
正に、目から鱗だった。
今まで、私はなまりを自分の恥ずかしい部分のようにしか、捉えていなかった。
隠すために、努力もしてきた。
しかし、それは間違いだった。
大切なことに気付いていなかった。
 
なまりこそ、誇りに思っていいものなのだ。
だって、なまりはその人にとっての履歴書のようなものだから。
 
それからというもの、群馬県人の中で宮城弁全開で話している私がいる。
 
あのとき、目をキラキラさせながら群馬弁全開
で大切なことを教えてくれたあの人のように。
 
 
 
 
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2020-02-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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