メディアグランプリ

背中がかゆい私は、ひとにやさしくなれる気がした


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:緒方愛実(スピードライティング・ゼミ)
 
 
先週末にかけて、世間は三連休。
ウィルスなどの不安があったが、多くの方は、楽しく、有意義な休日を過ごされたことだろう。
 
あなたは何をしていただろう?
 
私は、と言うと。
 
ポリポリ
「かゆい、かゆい!」
 
自宅で、ずっと背中をかいていた。
 
ことの発端は約一週間前。
とある薬を治療のために飲まなければならなくなった。治療、と言っても、重病なことでもない。本人はそこそこ元気だった。
だが、ほどなくして体に異変が起きた。
会社でいつものように、パソコンに向かって仕事をしていると、ふと、背中がかゆくなった。軽く人差し指でポリっとかいた。その後も、なぜか、ずっとかゆい。むしろ、かけばかくほど、かゆみが増す。
「何だ?」
虫刺されだろうかと、トイレへ向かう。シャツをまくり上げて、洗面台の方に背を向けて立ち、首をねじって鏡を向いた。そこに写っていたものを見て、私は目を剥いた。
「な、なんじゃこりゃ!?」
背中には無数の小さな湿疹があった。肩甲骨を中心に集まっている。今は、初春。まだ寒いぐらいだから、虫刺されということは考えにくい。
何か、変な物でも食べただろうか、と必死に頭を回転させふと、思い出した。
 
「お薬を飲んで、気持ちが悪くなったり、湿疹が出たことはありませんか?」
 
調剤薬局で、あなたも一度はこのフレーズを聞いたことはないだろうか。
そう、私は、薬を服用したことで起こるアレルギー、「薬疹」を発症してしまったのだ。
 
今まで、一度たりとも発症したことはなく、家族、知人にもそうなった人物がいなかったため完全に油断していた。「薬疹」が起きるのは、もともとの体質や、疲労で体が弱っている時の服用など、さまざまな原因で起こる様だ。誰しもがなる可能性はあるけれど、なる人は一部の人々。アレルギーの一種、と考えれば、花粉症になる人、ならない人がいるのと同じ様なものかもしれない。アレルギーの薬を主治医にもらった。
 
ポリポリポリ
「かゆい、う~かゆい!」
 
湿疹は、小さな粒から蕁麻疹の様に円形に広まった。蕁麻疹の厄介な性質。それは、皮膚に赤く広範囲に広がりながら収束していくこと。範囲が拡大するということは、かゆいところももちろん広がる。私の背中は、湯上りの人の様に真っ赤になった。人差し指で事足りていたのに、もう、五本の指でかくしかない。
 
ボリボリボリ
「かゆい、かゆい、かゆい! もう、凍った湖に飛び込ませて!」
 
かきむしると、熱を持たせると、さらにかゆくなる、と知っているのに、手を止めることはできない。理性では引き留めることができないほどの、抗えないかゆみだった。
もう、両手でかいてしまう。
「薬疹がこんなにつらいなんて知らなかったな」
背中を掻きながら途方に暮れる。症状が重い人だと、湿疹だけではなく、アナフィラキシーショック症状といってもっと急激な異変が短時間で起こる、命に関わる症状が出ることもあるらしい。
「でも、これで経験値が上がったから、また一つ人にやさしくなれるな!」
私は、背中をかきながら、一人うなずく。
 
例えば、あなたが薬疹になってしまったとする。
友だちに、「かゆくてたまらなくつらい!」と訴えたとしよう。するとあなたの友人がこう言う。
「え、そこまでじゃないでしょ。大げさじゃない? 周りにそんな人いないし」
心細さと、怒りがわくはずだ。そんな冷たい言葉が欲しかったわけではいのに、と。
そこで、私が登場する。
「あ~、私もなったことありますよ! 本当につらいですよね」
あなたの言葉を否定せず、あなたの経験を肯定することができたら、あなたは救われた気持ちになるはずだ。
 
私は今回、今まで家族、知人が体験したことのない「薬疹はたまらなく大変でかゆいものだ」という貴重な経験値を、文字通り体に刻むことができた。それを知ることで、私は、出会ったこともないだれかにやさしく寄り添うことができる様になったのではないか、とポジティブに捕らえる。
 
もしも、あなたが逆の立場なら、どうだろう?
病気に限ったことじゃない。あなたの友だちが深刻そうに、こう相談してきたら。
「……今の仕事がつらくて、働くことが苦痛なの」
あなたは、友だちと同じ様な体験したわけではないから、そんなこと言われても、どう返したらいいかわからないかもしれない。
 
「そんな、つらいわけないでしょ?」
「あなたより、つらい人はもっとたくさんいるよ?」
「私の方がもっとつらいんだから! それって甘えじゃない?」
 
世の中には、この様な非情な言葉を投げつけてくる人はたくさんいる。
どうか、追い込まないであげて欲しい。
きっと友だちは、あなたを頼って、あなたを信じて、言葉をかけて来たのだ。例え解決策が浮かばなくても、心に寄り添うことはできるはずだ。
 
「そうか、そんなにつらかったんだね。どうしたら、楽になるか一緒に考えよう!」
 
人間には想像力がある。同じ経験をしたことがなかったとしても、友だちの気持ちを否定せず、くみ取ってあげて欲しい。
 
会話は、心と心のキャッチボール。
あなたが、例え「薬疹にかかったことがある」というボールを投げ返せなかったとしても、相手の投げて来たボールをやさしくキャッチすることはできるのだから。
 
ボリボリボリ
「かゆい、かゆい、あ~かゆい! こりゃたまらん!!」
 
私は片手で背中をかきつつ、器用にキーボードを打ち原稿を書く。
症状の早期収束を祈る純粋な願いと、「これは、ライティングのネタにできる!」と喜んだ図太くなり始めた狂気の精神に向き合う。
そして、私の様に今も苦しむどこかのだれかの気持ちに、そっと寄り添いながら。
 
 
 
 
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2020-02-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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