「可愛い兎に騙されてはいけない」
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:落合明美(ライティング・ゼミ平日コース)
「こらっ、ウォルちゃん。ダメでしょ」
身長181㎝。がっしりとした体格をして、見た目はいかつい主人がしゃがみこんで、
ペットの兎に赤ちゃん言葉で話しかける様子は、端から見ると一見異様に映る。
しかし、そんな光景が繰り広げられて早4年目。
流石に見慣れた。
かくいう私も4歳の愛兎「ウォルフガング」(オス)に実はメロメロである。
かの有名な兎のキャラクター、ピーターラビットのモデルと言われる
「ネザーランドドワーフ」(※オランダの小型種という意味を持つ)で、ライラック色を
した兎は4年経った今、小型とは言えないほどにすくすくと成長し、最初よりも1、5倍の23㎝に体長が伸び、体重も3㎏程に増えたが、
それでもつぶらな瞳と、ビューラーをかけずとも睫毛がバッチリと上を向いている、
うちの兎は本当に愛くるしい。
「ほぉら。ウォルちゃんの好きなバナナですよー」
主人が腕の中でバタバタと逃げ出そうとする兎に、オヤツをかざして気を引こうとしている。
その姿は、まるで嫌がるコンパニオンに、札束をちらつかせて無理にモテようとしている
オジサマみたいで滑稽だ。
「それにしても、あの時ウォルを俺に勧めたのはお前の最大の功績だよなー」
主人は兎を撫でながら、私を見ていつものセリフを繰り返した。
「ああ、あの時ね。確かにね」
私も、主人と一緒にフワフワした毛に触りながら、4年前のあの日を思い出した。
そう、あれは2016年の5月。私と主人は国立のとあるスパ施設にいつものように車で
向かい、そうしてこの日は、隣接するペットショップに主人の念願のインコを買いに出向いていた。
主人がまだ大学生の頃に、千葉に住むアパートの窓から大きな「オカメインコ」が飛び込んできて、元の飼い主のもとに戻ろうともせず、その日からインコは主人のペットとなった。
「オカメちゃん」と名付けられ、いくつかの言葉を覚えて、主人に尽くしたインコはとても可愛がられて、三年後に衰弱死した時には、なんと近くのお寺で塔婆を立ててもらったそうだ。
それ以降、主人は大の「鳥派」となり「ペットを飼うならインコか手乗り文鳥」と
兼ねてから言っていた。
そうして、私と結婚してから3年目。ある日、鳥を買いたいという思いがいきなりピークに達したらしく、私を連れていざ、ペットショップに来たという訳だった。
対して、私は昔からそんなに鳥が好きではなかった。
もちろん、少し距離を置いたところから見る、セキセイインコや文鳥はとても可愛いとは
思う。
けれども、何と表現したらいいのか、近くで見ると「眼がギョロッ」としていてリアルで、
なんだか怖いのだ。
私は、はしゃいで上段の鳥かごにいるインコに人差し指を差し入れて、反応を伺う主人を
横目に「あぁ、うちの家もこれからどんどん鳥臭くなるのかぁ」
どんどんと気が重くなっていった……。
その時、ふと斜め下に置かれた大き目なゲージに、灰色のモフモフした小さな塊を見つけた。
それは生後まだ3カ月で体調15㎝の小さな兎だった。
「ねぇ。インコじゃなくて、兎もいいんじゃない?」
「ええっ、兎? 確かに可愛いけど、兎ねぇ……」
最初は、乗り気でない主人だったが、私もインコよりはと、懸命に「兎推し」をした。
「ほらっ、小さくて凄く可愛いよ。毛もこんなにモフモフしてるし」
一生懸命にアピールしている私に気付いて、すかさず売り場のお姉さんが近づいてきた。
「可愛いでしょ? 良かったらその子、抱っこしてみます?」
返事をする前にお姉さんは、柵のドアを空けて兎を取り出し、かがんでいる私のスカートの上に乗せた。
「うわぁ。小さくて可愛いっ。毛もフワフワして気持ちいいですね!」
私の両手の中にすっぽり収まった兎はとてもおとなしくて可愛かった。
そして、次に両腿に初めての兎を乗せられた主人は、瞬時に兎の可愛さにやられてしまっていた。
お姉さんはニッコリと笑って決め台詞を言った。
「その子は、抱っこがとても好きなんですよ」
私と主人は、とても悩み……そうしてその晩に「家族会議」を開き、どうせ飼うなら
あまりなさそうなカッコいい名前にしようと「ウォルフガング」と決定した翌朝に、
ペットショップに迎えに行ったのだった。
我が家に来た可愛くて小さな兎は、最初は慣れない家の様子にビクビクしていたが、
どうにか新しい小屋にも慣れてきたようで、落ち着いて寝そべるようになった。
私と主人は、タイミングを見計らって、ウォルを抱っこしようと両腕に抱え込んだ。
とたんに、兎は弾かれたようにバタバタッと暴れて、私と主人の両手から必死に逃れた。
「……えっ、どうして?」
いぶかしがりながら、再度挑戦しようとするも、その度にウォルは身体をよじって逃げ出す。
ネットで原因を調べてみて、愕然とした。
実は、兎は抱っこされることが本能で大嫌いらしい。なぜなら、野生の兎が抱っこされるのは、同じく野生のキツネやワシである訳で、そうするとその兎に待っている運命は
残すところ「死」だけである。ご丁寧なことに、兎には「生きながら食べられる恐怖から逃れる為に、強く身体を掴まれると、とたんに心臓が止まって「ショック死」出来るシステムもあるらしい。
「嘘でしょ? あの時ペットショップでおとなしく抱かれたこの子は一体なんだったの?」
後日、ある「兎専門店」のオーナーから聞いた話では、
「おそらく、何が何か分からず緊張していたからおとなしかっただけでしょう」と
冷たく解説された。
まるで、とても可愛い女の子に引き寄せられて、お店に行ったはいいが、二時間後に
とんでもない額の請求をされた哀れなサラリーマンのようだ。
「なんか、美人局にあったみたい」
それから4年経った今も相変わらず、うちの兎は抱っこされるのが嫌いである。
けれども、年に4回の換毛期の時期には自ら、私達の足下を八の字にくるくると回り
そしてプゥプゥと鳴きながら可愛い顔を近づけてくる。
私達も、調べた情報で兎の寿命が5年から10年と短いことは知りつつも、
「ウォルには出来るだけ長生きして欲しいよねぇ」
二人で今日もそれだけを切実に願っている。
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