真夜中のポテトチップスは、反逆の狼煙
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:竹下優(ライティング・ゼミ 平日コース)
ポテトチップスはいつだって私を骨抜きにする。
まず、その食感。
パリパリとしたそれは、食べているうちに心に溜まったイライラやモヤモヤをかき消してくれる。
そして、味。
野蛮なほどの油と塩のパンチが舌にささる。
こんな食べ物は、健康な大人にしか食べることを許されないな、という強さ。
飲みこむと、「あぁ、私はきょうも元気だ!明日も頑張れる」と、自分の体の強さを感じる。
身体に悪いことなど百も承知。
「これを食べたら太ってしまうかもしれない」と思いながら口に運ぶ。
もうやめよう、あと一枚だけ。そう思っているうちに、はっと我にかえると袋の中身がなくなっているのも日常茶飯事だ。あぁ、またやってしまった・・・。
そんな時、ポテトチップスは私にそっとささやくのだ。
「だって、俺のこと好きなんだろ?」
なんて悪いヤツ。お別れしたほうが良いと分かっているのに、やっぱり離れられない。
そんな“悪いヤツ”の魅力が最大限に花開く瞬間がある。残業帰りの真夜中だ。
「なんでこんな時間まで、もうダメだ、もう頑張れない。」
そんな気持ちになった真夜中、本当なら温かいスープを口にして、可及的速やかに布団に潜り込むのが疲れた体のためであることは分かっている。しかし、アイツが私を誘惑するのだ。
「俺がいなくて良いのか?お前の心の底に聞いてみろよ」
うぅっ……弱っている時に限って誘惑してくるんだから。
明かりが目に染みるようなコンビニで、ポテトチップスを手に取る。
そそくさと会計を済ませ、暗い部屋へいそぐ。
玄関を開けたら、着替えもお風呂の準備も後回し。
袋をバリッと開けて、もぐもぐ。こんな夜は、お皿に盛ったりなんてしない。
袋の隅に残ったくずを、指にとってなめてみたりもする。
あぁ、私ったら何てイケナイことを!
自分を責める気持ちと同じくらい、いいえ、それ以上、胸の裏側がゾワゾワっとする。
唇のはじが、ニヤリと持ち上がる。
思えば私は昔から、“背徳感”というものに弱かった。
高校3年の夏の日、大して話をしたこともないようなクラスメイトに誘われて、
放課後のカラオケに行った。タバコ臭い部屋で、ぬるいコーラを飲みながら過ごした2時間。
普段であれば絶対に付いていかないのに、なぜ私は、のこのこと足を運んだのか。
答えはひとつだけ。“制服で”しかも、“テスト期間中”だったからだ。
通っていた高校では、制服での寄り道を禁止されていた。
先生が抜き打ちでパトロールをしていて、見つかると保護者が呼ばれて停学になるらしいという噂もあった。加えて、私は授業のほとんどで盛大な居眠りをしており、ノートなんて勿論とっておらず、徹夜でテスト勉強をしなければ落第はまぬがれないような状態であった。
「ここで遊んでいる場合じゃないのに」
「早く帰って勉強しなくちゃ」
頭はイケナイと叫ぶのに、心はタノシイと笑う。
この背徳感を味わいたかったのだ。
大人になるまでは、納得いく理由がないのに、守らなければいけないルールがたくさんあった。
学校にシャープペンシルを持ってきてはいけません。
通学靴は白の紐靴しか認められていません。
髪の毛が肩についたら結ぶこと、ゴムの色は黒のみとします。
こまっしゃくれた子どもだった私は、事あるごとに大人をつかまえては
「どうして?」を繰り返したが、「いけないものは、いけません」と言われるばかりだった。
がんじがらめだ……。何年もそうやって、何かにいらだっていたように思う。
その一方で、ささいなルールが山のようにあったおかげで、“背徳感”はいとも簡単に手に入った。小学校では授業中にこっそり飴玉をなめてみたし、中学校では「忘れ物をした」と嘘をつき、昼休みに帰宅して、クーラーの効いた涼しい部屋で麦茶を飲んだ。高校の入学式には、買ってもらったばかりの2つ折りの携帯電話を持って行ったし、大学では素知らぬ顔で「友達の家に行く」と言い残し、初めて出来た彼氏の家に泊まりに行った。
イケナイことだとは、分かっていた。けれど、そのくらいなら許されるだろうと思ったし、
何よりバレずに事をやりおおせたときには、嬉しくってゾワゾワが体中を駆け巡ったものだ。
成人式を迎え、大学を卒業した時に感じた“自由”と“解放”。
あぁ、もう私は好きなように生きていいんだ!
ところが。
大人は思ったほど、自由ではない。
確かに“イケナイ”と言われる事はとても少なくなったけれど、いつも知らない誰かの目を気にしている。人の迷惑になっていないか、人に批判されてはいないか。
用心深く生きていないと、大切な何かを失ってしまうかもしれない。
そんな“形の無い恐怖”がすぐ後ろに迫っていて、こっそりルールを破るなんて無謀なことは
なかなか出来ないのだ。
だから、せめて。
真夜中のポテトチップスくらいの、ささやかな“悪魔のささやき”くらいには耳を傾けたいのだ。
“背徳感”に身をふるわせ、まだあの頃の自分が心の中にいることを確かめたい。
物わかりの良い大人になんか、まだまだ、ならないぞ。
真夜中のポテトチップスは、私のちいさなちいさな“反逆の狼煙”なのである。
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