インドは愛と生きるがプンプンしている
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:大田知賀子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「わたし、コミュニケーションを学ぶために、旅に行きたい」
「それなら、こっちの、インドの方じゃないか?」
目的はコミュニケーション、それで旅先を決めた。
大学時代、コミュニケーションと名のつく学科に通っていたが、大学生活を過ごしていても、いまいちピンと来なかった。地球の歩き方にボランティア活動が組み込まれた旅があり、知らない外国で活動してみたら見えるのもがあるかも……と思い、申し込むことにしたのだ。
旅先はインドのコルカタ。ノーベル平和賞を受賞した修道女、マザーテレサがコルカタの貧しい人々を助けるために建てた施設、マザーハウスが活動場所。わたしはその中で「死を待つ人の家」でボランティア活動をした。
死を待つ人の家には、病気や、ケガをした人たちが、その名の通り、人生の最後までいる。一人1つベッドがあり、その上で大半の時間を過ごしている。ボランティアは部屋の掃除をしたり、ベッドのシーツを洗濯したり、お話し相手になる。ボランティアで成り立っている施設なので洗濯機など便利で高価な物はなく、シーツは手洗いし、ボランティア同士でねじって水を絞り、干す。汚物がついているシーツを素手で洗うこともあった。みな初対面だが、この原始的な洗濯のお陰で一緒に汗をかき、一体感と達成感を感じることができ、するっと活動に入ることができた。
ボランティア活動の中でも特に刺激を受けたのは、マザーテレサを知る機会と、お茶の時間だった。
マザーハウスの運営メンバーは修道女。その中に、日本から体一つで経営面をサポートしている日本人女性がいた。無給なので1日2食、お金がなくなると、日本にある着物をお金に変えてまでマザーハウスの活動をサポートしていた。
彼女に話を聞くと、マザーテレサもそうだったように、修道女たちは、人の痛みをわかる優しい人たちで、助けが必要な場合、神様が手を差し伸べてくれると信じていた。自ら交渉してお金を集めたりしないのだそう。これは宗教的な文化なのかもしれないが、組織も人も自然の流れに身を任せていることに驚いた。人の愛の尊さを朝の礼拝で毎日確認し、愛を持って活動していた。日本にいて普段「愛」を実感しながら生活することがほとんどない私は驚いた。
もう1つ、お茶の時間もボランティア同士が集まり、チャイを飲みながらお互いのことを知る機会だった。ヨーロッパから来る人が多く、弁護士の人までいたのに驚いた。日本にいると、地域の廃品回収くらいしか参加したことがない。世界には自分の時間とお金を使って人のために活動する人がいることを知った。日本から来ている大学生、大学院生もいた。大学院生で、ボランティアに関する研究している日本人が一人いた。その人が自分の研究テーマを話しだすとみんなが集まり、目を輝かせて話を聞いたり、質問していた。国を越えて、自分のやっていることや想いを語れる人は素敵だった。
ボランティア活動だけでも刺激いっぱいだったが、街中も日本とはだいぶ様子が違っていた。
宿泊先は小ぎれいなアパートの一室。ツアー仲間と2人1部屋に泊まった。
まず宿泊先のドアに入ろうとすると、いつも現地の子どもたちに「ヒャクエン」と腕をつかまれ物乞いされた。掴まれた腕は子どもの手形が黒くついて、悲しい気持ちになった。しかし、毎日毎日、あまりに笑顔で、遊ぼうよ〜のテンションなので、こちらもだんだん鬼ごっこをしている気分になった。しまいには、逃げろーと言わんばかりにササーッとドアに入るようになった。
部屋にはベッドと水しか出ないシャワーがある。海外旅行初心者のわたしは、水道から出て来る茶色い水に「?」と思いながらも、歯磨きした口をすすいだ。その日から、ご飯を食べたらトイレに行くルーティンが始まった。びっくりするほど、すべて水分になって体外に出た。やってしまった……結局10日の旅行で、5キロ痩せた。旅の最終日には気力が出せず立てなかったが、肌がキレイになり、体調もすぐによくなった。
街中を歩くと、道には汚物やガラスの破片が転がっているのに、子どもたちは裸足で走り回っていた。大人は暑い日中、タイルの上に横たわり、まったく働いている様子はなかった。有名なガンジス川はミルクティー色で、現地のガイドさんには、「傷があったら病気になるから、川には足をつけるな!」と言われた。ヒンドゥー教のお祈りのために生贄にされる予定の小さい羊が男の人に抱えられてメーメー鳴いていた。膝から下の足がなく、歩行を支える杖を隣に置いて、地面に座って物乞いをしている人もいた。
インド旅、想像を越える初めての光景や発見がたくさんあった。インドの人は苦しそうな状況なのに、それを平然と日常として過ごしていて衝撃を受けた。日本では今日より明日の生活がよくなるように常に少し上を向いて生活している気がする。それが生きることだと。
でもインドの人たちは、体を犠牲にした物乞いも、旅行者へお金要求も、それ自体が生きることで、そこには後ろめたさも、卑下する心も、周りからの視線を気にする様子もないように感じた。カースト制がある国特有のことなのかもしれない。わたしには、「生きる」においをプンプン感じた。生きるに引き寄せられる世界の人々もいた。わたしもその一人。そんな人の集まる場所には「愛」も感じた。インドは不思議なパワーを持っている。
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