ブックレビュー「子どものための哲学対話 永井均著」
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:ヒロベナオミ(ライティング・ゼミ平日コース)
一番大切なことは、
単に生きることではなく、
善く生きることである。
(ソクラテス 古代ギリシャの哲学者)
今回紹介するのは、子どもに向けて書かれた哲学書だ。
あなたは「哲学」と聞いて何をイメージするだろうか。
小難しく堅苦しい得体のしれない学問。
誰某の○○哲学、のような一歩間違えれば暑苦しくなりかねないもの。
はたまた教科書に載っているような、ソクラテスだかプラトンだかの石像。
身近とは言い難い学問、哲学。
いったい哲学とは何なのだろうか。
それには、大阪大学文学部長の金水敏教授が、2017年度卒業式の式辞にて答えてくれている。
教授は、近年の人文系学部の廃止への動きを憂えてこう述べている。
「おいしい食事、楽しいエンターテイメント、快適な生活環境の中で生活している限り、
このような問い(人生への問い)は不要であるようにも見えます。
しかし、文学部の学問が本領を発揮するのは、人生の岐路に立ったときではないか、と私は考えます」
つまり哲学というのは、人生のいざという時の助けになるものであり、
その来たる「いざ」に備えて、人生や人間について考えることなのだ。
しかしなんと、現代においては、これを考えなくても楽しく生きていけるという。
そんな選択肢を差し出されている世の中で、あなたはどちらの道を選んでいるだろうか。
ちなみに私は、考えながら生きる方を選んでいる。
人生を考えることに価値があると、はっきり断言できるからだ。
理由は、20歳の時にある病気を経験したことで、「人生の岐路」に立ったことにある。
その時に助けになったのは確かに、おいしい食事でも、楽しい時間でも、ましてやお金でもなかった。
助けになったのは、復活するための最善のルートを見極めようとする私。
そして、苦しさに人生ごと翻弄されてしまわないように冷静さを保とうとする私だった。
そんな私の気持ちを支えていたのも、これもまた、
こういう人間性を持った大人になりたい、という確固たる理想像を持っていた私だった。
勿論、周囲の人のサポートはあったが、それはあくまでサポートでしかない。
あたかも一人で乗り越えた気になっている、傲慢な奴かのように思われるかもしれないが、
実のところ、誰も誰かの人生を肩代わりなどできないのだ。
もし、今あなたの日常が平穏なのであれば、
来たる「いざ」という時に備えて、人生について考えながら生きてみるのはどうだろう。
でも、まぁまぁ上手くやっているから大丈夫だよ、
それなりに予定通りになっていくんじゃないかな、
そう思っている人もいるかもしれない。
しかし、人生の岐路というものは多かれ少なかれ、誰にでも訪れるものではないだろうか。
しかも、不本意過ぎるような理由で、そこに立たされることもあるのだ。
でも、考えるって何なのだ、と思うかもしれない。
考えることが哲学するってことなのか?
人生について考えるってどういう意味だ?
明日、5年後、10年後の人生を考えることと何が違うのだ?
この『子どものための哲学対話』は、そんな曖昧で未知なる哲学の世界へ、
気軽に楽しく導いてくれる本だ。
登場するのは、中学2年生のぼくと猫のペネトレ。
ぼくの日常の些細な疑問に、哲学する猫ペネトレが答えてくれる。
嘘をつくことは悪いことなのか、人間はなぜ生きているのか、という根源的な疑問から、
評論家はなぜ必要なのかという、日常的な疑問まで。
どちらにせよ、ぼくの疑問は単純ゆえに難解だ。
そんな疑問に答える、ペネトレの答えはいつも秀逸だ。
そんな考え方があるなんて、と思わず唸って考えこんでしまうものもあり、
凝り固まった思考回路がどんどん解放されていく。
そして時折、ペネトレからも質問が繰り出される。
これがまた難しい!
例えば、物は見えるからあるのか、あるから見えるのか、という問い。
「そんなこと考えたこともないから、わからない!」
思わず、そんな身も蓋もないことを言いそうになってしまう。
しかしこの問いは、専門書レベルの哲学書ではよく見かけるものだ。
こうやってペネトレは、哲学の世界のさらに奥へ行ってみないか、と誘いかけてくる。
子どもにもわかる易しい言葉で交わされる、ぼくとペネトレの対話。
子ども向けだと侮っていたら大間違い!
お金や愛、命や善悪について考えることの面白さを十分に教えてくれる。
お金や愛、命や善悪が存在しない世界で生きている人間はいない。
つまり哲学とは、自分のことを考えることなのだと教えてくれるのだ。
この本を読めば、縁遠いと思っていた哲学は一変、
いつも自分のそばにある身近な存在になるだろう。
そしてもっと詳しく、自分という人間を知りたくなるだろう。
子どもにだけでなく、大人にもぜひ読んでもらいたい一冊だ。
読み終わるころには、人間はこんなにも自由な思いや考えを持ってもいいのか、
と喜びや嬉しさを感じるだろう。
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