メディアグランプリ

「 おうちリゾート 」

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:笠原 恭子 Kyoko Ally Kasahara(ライティング・ゼミ特講)
 
 
ーあれ、こんな部屋に住んでいたかな?
ラスベガスへの旅行から帰った私たちは、部屋中を見渡した。当初分譲マンションとして建てられていた私たちのマンションは、築年数の割には部屋の作りも天井も高く、割と高級感があった。二人のお気に入りの家具を揃え、そこそこにおしゃれな住まいになっていると思っていた。ラスベガスでは、新婚旅行の時に滞在したコテージに不満があって、もっと素敵なところが良かったと文句を言った私のために、一番新しいホテルを予約してくれていた。
そのホテルは黒を基調としたシックな内装で、所々にかけてある絵画は黄色いモチーフで統一されていた。ガラスを巧みに使ったシンプルモダンな部屋も、初めて見るインテリアばかりで目を見張った。隅々まで調べて、備品を全部目に焼き付けた。そして数日後に帰国して、自分たちの部屋に入った途端、物凄い違和感に襲われてしまったのである。
全く統一性の無いインテリアの素材、色。雑然と並べただけの箱にしか見えないストックや棚。「うわー、こんな部屋だった?」「なんか、すごく安っぽい!」
最新のホテルと自分の住んでいる家が同じ高級感なわけはないのだけど(お金持ちでもないし)、それにしても部屋の大部分を締めているテーブルとラグの色がまず、合っていない。なんでこの色と合わせようと思ったのか・・・・・・もう明日にはこのラグは捨ててしまおう。即決した。
元々は田舎の古い大きな家で育ったので、拘りといえば、閉塞感の無い天井高と広さくらいだった。少し洋風のものが入っているだけでワクワクして、最初の家具選びは何となく人任せ、夫(元夫だけど)好みの、ヨーロッパのクラシックなダイニングセットにして、それだけで満足していたのだけど。良いものを見ると目が肥えるらしい。それにしてもラグの新しいものはどんなものを合わせようか。
 
やがて早いうちに家を建てた方が良いという話になり、休日のほとんどを展示場巡りで過ごすようになった。各メーカー特色があって、木造か鉄骨かを決めるだけでも迷う。鉄骨の方が間取りに自由が効く。木造はやはり耐震強度を考えると、柱を家の要所に入れないと弱くなるため、壁や襖を入れる構造の方がいい、なんていう説明を何度も聞きながら、何軒もの家を回った。
 
そのなかで一つ、ひどく印象に残った家があった。
全開放の掃き出し窓が南北にあり、外と一体化したように風が通る。床から天井までの高さの窓は明るくて存在感がある。床材と壁紙、家具も照明も全てテイストを揃えてある。ダイニングとリビングが繋がって、リビングの上半分が広く吹き抜けていて、階段を上がったところにはシンプルモダンなワークデスクが置いてある。無駄なスペースなのだけどとてつもなくかっこいい。
 
ラスベガスのホテルと比べて、遜色がない。負けてない、と思えるくらいかっこいい。家って、生活をする場所じゃないんだな……。
 
いや、もちろん、食事を作って、食べて、テレビを見て、お風呂に入って、眠る。洗濯もする。生活には違いないのだけど。その家は、玄関のアプローチから上階の寝室まで、全てが洗練されていて、美術館みたいだった。一つひとつのインテリアに、華美じゃないのにクセががある、でも無駄じゃない。過多にものがあるわけじゃない。一日のうちのほとんどを、こんな風に、大好きな物に囲まれて過ごすことが出来たら。
 
家具屋さんに言わせると、家は家具を決めてから、建てた方が良いそうだ。お気に入りのリビングセットが、家に入らなければ意味がないし、そのソファーやテーブルに合わせた壁紙やライトにする事で統一感が取れる。家を建ててしまってから家具を選ぶと、お気に入りのものが似合わなかったりするらしい。部屋に入って、目に入る色は3色までが美しい。基調となる2色と、差し色。
 
確かに、ソファの色を黒にするか、白にするかで部屋の雰囲気はグッと変わる。家具をどのテイストで揃えるかでも違う。カントリー調、ジャパニーズモダン、純和風、ヨーロピアンクラシック、シンプルモダン。
 
カントリー調が好きな私のヨーロピアンが好きな夫(元だけど)の好みを付き合わせると統一感がない。どちらも満足できるものを練りに練って、シンプルモダンを選んだ。
 
衝撃を受けた家に近づくように設計して、その設計が大丈夫と言ってくれるメーカーを探した。家は、3回建てると満足いくというけれど、一生のうちに3回も家を建てられる人なんて、居るだろうか。仕事をいつもよりたくさん取ってきて、ようやく手に入れた、私たちには少しお高いソファーを、いつかまた買い換える日も来るのだろうか。
 
贅沢を言えばキリがない。身の丈に合うという事も大切だ。
だけど家は、生活だけする場所じゃない。毎日の自分が作られていく場所だ。自分のアイデアやアイデンティティがそこから生まれていくのだ。
 
どんな風に本が置いてあるか、目に入る色が3色に抑えられていてストレスなく家を眺められるか、身を委ねた時に満足感のある椅子が置いてあるか。食べたいと思った時に料理する場所は、いつもご機嫌になれる要素があるかどうか。
 
私の家には壁掛けカレンダーはない。はっきりと数字の見える時計もない。スケジュールや時計は、スマートフォンやパソコンでいつでも見られる。家にいるときは、美術館でくつろぐような気分で、明日の自分を作りたい。
 
家で過ごす時間が、日常の中のリゾートであっても、いいと思う。
 
 
 
 
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2020-03-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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