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メディアグランプリ

詐欺師は自分からは攻めてこない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山本和輝(スピード・ライティング講座)
 
 
「あのさぁ、F氏のことだけどさぁ、最近見ないなと思ったら、詐欺で警察から指名手配されているみたいなんだよ。やまちゃん大丈夫だった?」
 
私の友人のS氏が、私に話しかけてきた。
 
「え? そうなの? まあ、大丈夫だけど…」
 
いや、大丈夫なんかじゃあない!!
私はまんまと2万ドル(約200万円)をちょろまかされていたのだ。
 
事の始まりは、そのS氏から聞いた話だった。
 
「あのさー、なんかF氏が投資をする人募っているみたいなんだよね。1人10万ドルぐらい。なんでも南米の鉱山を採掘する権利を持った会社のコンサルやっているらしく、このクラブメンバーだったら信用できるから何人か集めているみたいなんだよ」
 
私は金額を聞いて、これは自分には無理だなと瞬時に思った。
 
私の所属するゴルフクラブは、成功した若手実業家の有志が集まって作った新しいクラブだ。メンバー紹介でしか入会できない完全プライベートな運営をしている。そんな中にふとしたきっかけで、平凡な外資系サラリーマンの私がお誘いを受けて加入することになった。お金持ち同士の会話は一種独特の雰囲気があり、私はなかなかその輪の中にとけこめずにいた。
 
そんな時、S氏から持ち込まれたいかにもお金持ち同士の内輪のもうけ話。
私は、どうしても中身をのぞいてみたくなってしまった。
 
「なんか面白そうなので、2万ドルぐらいで参加できないかな?」
 
私はS氏に尋ねてみた。それが私の出せる限界だった。それに多分断られるだろうとも思っていた。
しかし予想に反しF氏が説明をしてくれるというのだ。
 
私は、ちょっとワクワクしながら約束した日にゴルフクラブに出向き、小一時間をかけて説明をしてもらった。
 
なんでも、この投資話は、米国ラスベガスのある会社が、ペルーのある金鉱山の調査をやっている最中に発見したレアメタル鉱脈の採掘権を地主から得たのだという。鉱山開発を本格化させるために、米国の証券市場であるナスダックに上場させるというのだ。
 
私はIT業界に身を置いていたため、電子部品に必要なレアメタル需要が高まっているということは知っていた。そしてその会社の株価ナスダック上場でひょっとして大化けするかもしれないと私は期待したのだ。
 
説明を終えた後、F氏は特別に2万ドルでも申し込みを受け付けてくれるという。
私は何種類もの書類にサインをし、F氏の指示どおり米国のある銀行口座へ2万ドルを送金した。
 
私が「未公開株式詐欺」の罠にハマった瞬間だった。
 
ここまでの流れを振り返るだけでも、いくつか重要なポイントがある。
詐欺師が騙しにつかう心理学的テクニックだ。私はF氏を信用してきて裏切られた。いや、正確には「信用すると決めた」時点ですでに負けていたのだった。
 
人は、自分がひとたび信じたことを、否定するのは非常に困難だ。
心理学の用語ではそれを「確証バイアス」という。
 
提供された情報を一部でも信用してしまうと、その人物に関する全てを信用してしまう。たとえ疑問を感じる情報がポロポロ出てきても、それを軽視して自分の都合の良い情報だけを目に入れてしまう傾向にある。そして一端「肯定する行動」をとったらそれを方向転換することに無意識に抵抗してしまうのだ。
 
例えを挙げるなら、誰もがネットで目にするニュースだ。
ある国の非人道的な行為を非難する記事を読んで怒りを感じ信じてしまったとする。そして「こんなことは許せない!」とネットに書き込んでしまう。そこに反論がぶつけられても、いったん自分が信じたことを再評価できる人は極めて少ない。自分の行動を否定することを無意識に避けてしまうからだ。
 
このF氏の近づき方もとても巧妙だった。
プライベートなゴルフクラブという、信用できる人同士のつながりでできているコミュニティにうまいこと潜り込み自分の信用を担保する。
 
そして、社交的でおしゃべりなS氏に近づいて、周囲に言いふらしてもらうことで撒き餌にしていたのだ。自分から売り込んでは疑われるからだ。そしてその撒き餌に食いついた中の一人が私だったわけだ。
 
自分から行動を起こした私は、すでに肯定モードに入ってしまっている。そして自分が見たい「
お金持ちにだけ回ってくるおいしい話に乗っかることができた」という状況だけに目が行ってしまっていたのだ。当然、このような投資はどんなものでもリスクは伴う。しかし、その話を持ってきたその人物自体のリスクについては、全く目が行っていなかった。
 
この詐欺事件、お金を送金した時点で詰んでいたわけだが、その後のF氏の行動も用意周到だった。
 
発覚を遅らせるため、約半年ぐらいは私に対して様々な情報提供をしてくれていた。株式公開のスケジュールが遅れたら会社役員からの申し開きのレターが届いた。PRのために企業広告を掲載した新聞を送ってきたり、こちらの質問にもマメに返答をくれていた。定期的に安心材料を提供することで、騙した相手の判断を遅らせるのが目的だったに違いない。
それに、このような金銭がらみのトラブルは他人に相談はしにくい。そういった心理状態に相手を持っていくのも詐欺師の常套手段なのだ。
 
あなたにもいつ何時、そのような美味しい話が舞い込むかもしれない。それが信用できる人を通じて聞いた話であっても、決して安易に聞きに行ってはいけない。
 
詐欺師は決して自分から売り込んでは来ないのだ。
 
ターゲットが信用してしまう情報を自然に目に触れる場所に置いておき、自分から行動してくるのを待っている。そして、騙しのプロは自分からボロだすような無駄話は一切しない。つねに相手が質問をしてくるのを待ち、期待を膨らませるよう仕向けるのだ。
 
この経験があったからではないが、あれから15年以上が経った今、私はネット詐欺などのサイバー犯罪被害を防止する啓発活動を行っている。騙された経緯を振り返ることができるのは、騙される側の陥りやすい心理を勉強したからだ。そしてこの当事者としての経験が今の仕事に大いに役立っていることは言うまでもない。そして詐欺の術中にはめられる人を一人でも減らしたいと心から思っている。
 
 
 
 
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2020-03-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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