メディアグランプリ

マジョリティーだからこその苦悩


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:かのこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「マジョリティーをバカにしないでほしい!」
 
いつでも明るい同僚が、やっぱり明るく言い放った。
 
今は会議中、本題に入る前に必ずおこなうアイスブレイク。誰かが適当に決めたお題に対して、自分のコメントをそれぞれ告げていく時間だ。アイスブレイクと言えば聞こえはいいけれど、要するに雑談である。今日のお題は「自分にとって許せないこと」。ひとりひとり発表しながらみんなで雑談していた中、彼女が言い放ったのが先の言だった。
 
「マイノリティーじゃなくてマジョリティー?」と先輩が訊けば、「そうですそうです!」と彼女はすごい勢いで頷いてから言う。
 
「なんか、“マイノリティーこそいい! 流行にすぐ流される人間は薄っぺらい!”みたいな風潮あるじゃないですか。あれが私、めっっっっちゃ嫌で。別に私が何を好きでいようと関係ないし、流行だから好きになったっていいじゃん、映えるから旅行先決めたっていいじゃん。なんでマジョリティーをバカにされなきゃなんないのか、マジで全然わかんないです」
 
ここでちょっと、昔話をしよう。
昔のわたしはかなり痛々しい人間で、典型的なマイノリティーだった。
 
まだ名の知られていないインディーズバンドを探すのがだいすきで、週末になるとふらっとライブハウスに立ち寄っては体を揺らしてばかりいるような、Mステを見ても誰一人わからないなと思ってそのまま「誰一人わからん」と口にするような、Twitterのプロフィール欄に「邦楽69」と書いて好きなバンド名を並べるような、そういう類の痛々しさがあった。サブカル気質だったので漫画や小説やCDをたくさん買い集めていたし、趣味が似ている人たちと貸し借りもしていた。似たような人たちと、よくつるんでいた。
 
そしてみんなでマジョリティーをバカにしていた。「なんであんな曲を皆好きって言ってんの?」「アイドルのどこがいいの? 媚売ってるだけじゃん」「ストラップあんなに吊り下げて携帯重くないの?」うんぬんかんぬん。流行にすぐ流される人たちをバカにして、流行を大々的に取り上げる女性誌を立ち読みしてはため息をついて。トレンドを逃すなと群がる人たちを、本当に心底、軽蔑していた。
 
今思えばめちゃくちゃ恥ずかしいものだ。自分が好きじゃないものを好きな人は貶めてもいいだなんて、ゆるされるはずがない。自分の愛と熱量を誰にも認めてもらえないことが悔しくて、「大衆が知らないものを知っているわたし」に酔っていただけである。そのことに気付けぬまま、わたしはずっと、誰も知らない人たちのことを好きだと言いたくて、発掘作業に日々いそしんでいた。
 
やがて若手俳優にハマり、アイドルにハマり、KPOPにハマって、最終的には大衆音楽を嫌うことこそナンセンスだと思うようになって、気付けば「周囲を許容しながら生きる人間」になった。あんなに観たくないと思っていたバラエティー番組を毎晩観るようになって、Mステに出演するアーティストの曲は大体すでに知っていて、昨日観た恋愛ドラマについて同僚と盛り上がるような、どこにでもいるマジョリティーになった。大衆に、あっという間に、飲み込まれた。
 
それ自体に後悔はない。
でも、なんでだろう、なんでだろうな。わたしは今でも、マイノリティーだった頃のわたしに戻りたい気持ちを捨てきれないのである。
 
当時応援していたバンドのほとんどはもう解散してしまったし、特に好きだったバンドにももう未練はないのだけど、わたしはあの頃抱いていた熱量を忘れきれない。狂おしいほどの愛。どうして彼らを誰も見付けてくれないのだろうという憤り。メジャーデビューすると知ったときの高揚感。マイノリティーだったからこそ、彼らを知る人がマジョリティーになる瞬間を、わたしはずっと待ちわびていた。
 
きっとマジョリティーになりたかった。マジョリティーの人々には悩みなんてないだろうと、きらびやかな世界が待っているのだろうと、そう思っていたから。
 
……だから、目からうろこだった。
「マジョリティーをバカにしないでほしい!」という言葉に、おもいっきり頬を叩かれた。
 
マジョリティーをバカにする風潮は確かにあるし、どんどん加速している世の中だ。タピオカに並ぶ人、映えている状況でセルフィーを撮る人、新商品は必ずためして感想をアップする人。わたしが昔バカにしていて、今でもなお、心の底ではバカにしている人々。そして同時にわたしもそうなりたかったなと強い感情を抱いている、何事も気にしていなさそうな人たち。
 
気付いていないはずはないし、何も気にしていないわけもない。
マジョリティーである彼ら彼女らも、気付いているし、気にしていた。自分がマジョリティーであるがゆえにバカにされていること。たとえ妬み嫉みだとわかっていたとしても、それを受け入れてはいないこと。
 
当然である。マジョリティーだって人間だ。
マイノリティーであるわたしたちが受け入れてほしいのと同じように、マジョリティーである彼らだって、受け入れてほしいのだ。
 
マイノリティーからマジョリティーになったわたしは、やっぱりマイノリティーに戻りたいなとは思っている。自分自身で好きになった「何か」を見付けたくて仕方がない。育てたバンドがメジャーデビューして売れたとき、遠い存在になっちゃったな、って言いたい。いつだってアーリーアダプターでありたい。
 
でも、皆の個性を認めて好きになりたいと思うわたしは、同時に、マジョリティーでありたい。流行っているものを受け入れて好きになれるのだって、一種の才能だ。トレンドをすんなり受け入れられる人こそ「純粋な人」と呼ばれるのだろう。わたしみたいにアーリーアダプターになりたいと願う人ほど、マジョリティーに憧れて、そしてマジョリティーという存在を受け入れられないものだ。対である彼らは悪だと、捉えがちなのである。心の奥底では、憧れているはずなのに。
 
タピオカミルクティーやチーズティーは、おいしい。
映えを意識している人は、やっぱり写真もうまい。
売れている人には、売れている理由がある。
 
マイノリティーの感情を叫ぶ前に、マジョリティーの感情も、同じように受け入れてしかるべきだろう。一回、相手の立場になってみればわかるよ。
 
あなたの「好き」はあなただけのものだ。
誰だって主張を受け入れられるべきなのだ。わたしたちは。
 
 
 
 
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2020-03-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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