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意見は道具

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記事:佐々木 慶(ライティングゼミ・日曜コース)
 
 
私は、いわゆる「いじられキャラ」である。
社会人になった現在まで、地元、大学、職場といろいろな場所に友人ができたが、キャラ付けが変わったことはない。
忘れ物をしょっちゅうするようなおっちょこちょいで、言い回しが独特なことも原因だろう。
たとえ、心の中で言い過ぎだろって思ったとしても、その場の雰囲気を楽しくするためだったら、笑顔でツッコミを入れることは日常茶飯事だ。
 
しかし、話し合いの場では、自分でも分かるくらい違った顔を見せている。
自分の意見をはっきり言うようにしているのだ。
「佐々木くんは自分の意見をはっきり言う方なんだね」
驚いた友人から、よく言われる言葉だ。
そして、この光景を見たら、もっと驚く人がいるだろう。
それは、子どもの頃の私だ。
 
思えば、小学生の頃にさかのぼる。
母は、自分の意見をどこまでも通す性格。
よく言えば、筋が通った性格で、悪く言えばとても頑固だった。
納得いかないことがあると、相手に対して怒ってしまうこともしばしば。
対する父は、そんな母に文句を言いながらも、母の勢いには勝てず、いつも言い負かされていた。
そんな状況を見ていた私は、よく思ったものだ。
「自分の意見は言うもんじゃない」と。
 
中学校に行っても基本的にその考えは変わることはなかった。
高校の時は、その考えはさらに強まった。
入学した高校は、いわゆる進学高と言われていて、とにかく学力第一という雰囲気だった。
そんな空気が生徒にも伝わったのか、学力の順番で発言力が決まっていた。
学力が高くなった私は、発言の細かいところまで、クラスメートによく茶化された。
 
ふざけるな!
その言葉が心の中を駆け巡った回数は、数え切れない。
ただ、当時の私にとって何より大事なことは、大学に無事進学すること。
下手にクラスメートと揉めて、勉強に支障が出ることは避けたい一心だった。
自然と、以前よりも自分の考えを人前で言うことは少なくなっていった。
 
その後、大学に無事進学することができた私。
高校時代は、部活にも入らず勉強漬けの3年間だったので、どんなサークルに入部するか、とても心が躍った。
スポーツ系か、はたまた文化系か。
いろいろなサークルを見て回ったが、結局入部したのは、在学生や高校生向けに様々なイベントを企画、運営するそんなサークル。
入部のきっかけは新入生の歓迎イベントだった。
イベントを運営していたサークルの先輩達は、200人以上はざっと入りそうな会場の受付や司会を担当していた。
素人目から見ても、大変そうに見えた。
しかし、彼らの目はとてもキラキラしていた。
「自分もあの人たちみたいに輝きたい!」
 
気付いたら、サークルの部室のドアをたたいている私がいた。
希望が叶い、無事入部。
しかし、喜びもつかの間、私の前に大きな壁が立ちはだかった。
そのサークルは、話し合いの頻度がとても多かったのだ。
毎週月曜日の講義終了後実施される企画会議、イベント開始約1週間前に行われる直前ミーティング、そして極めつけは長期休業中に行われる話し合い合宿。
入部を決める前に先輩から、説明はあったが、入部したい気持ちが強すぎて、よく理解していなかった。
 
高校生の時みたいに、また細かいことを言われるのかな。
あー、勢いで入部しなければよかったかな……。
心の中で、自分の行動をひどく悔やんだ。
 
しかし、このあと初めて参加した企画会議が、その後悔をすぐに払ってくれた。
その時の企画会議の内容は、在校生向けに作成配布する冊子についてだった。
企画会議の進め方は、各企画に対して担当が一人ずつおり、企画の目的や内容を提案。それに対して、他のメンバーとの議論の結果、内容を決定するというものだった。
 
この時の会議でも、記事内容や、発行部数、配布方法について、どんどん意見が交わされていく。
議論の結果、当初提案されていた内容は大きく変わった。
その様子を見ていた私はとても怖かった。
企画を提案した先輩は、自分の意見が通らなかったのだから、きっと他の先輩と揉めるに違いない。
そう思っていたからだ。
 
しかし、すぐ違和感に気付いた。
一向に揉める気配がなかったのだ。
 
その上、会議終了後に提案した先輩と他の先輩はにこやかに談笑していた。
 
目の前の光景が信じられなかった。
「意見が違うのに、なんで揉めないんですか?」
企画会議が終わった後、先輩達に自分の疑問をぶつけてみた。
 
「意見が違っても、いいんだよ」
「よりよいものを届けたいという目的に対して、手段が違うだけだからね」
「むしろ、いろいろな意見からより目的に合った方法を選んでいけばと思っているんだよ」
 
まさに、衝撃だった。
今まで、私にとって話し合いは相手を打ち負かすためのものだと思っていた。
いわば、斬り合いのようなものに感じていた。
 
しかし、そうではなかった。
相手の意見をつぶすのではなく、活かしてよりよいものをつくる。
言ってみれば、おいしい食べ物を作るための料理のようなものだ。
意見は、武器ではなく、道具なのだ。
そのことに気付いてからというもの、私にとって、話し合いがとても楽しいものになった。
企画会議をはじめとした会議の場、そして就職してからも話し合いの場で積極的に発言するようになった。
 
そして、現在。
そのサークルでの出来事から10年以上経った今でも、私の話し合い好きは健在だ。
 
そして、子どもの頃の私に言ってあげたい。
「自分の意見は言っていいんだよ。これから、楽しいことが君を待っているよ」って。
 
 
 
 
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2020-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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