メディアグランプリ

そうだ、キーマカレーを作ろう


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記事:ツキノワ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
ザクン。ザク、ザクン……
トントントントン、トントントン……
 
ひたすら、人参を刻む。
手慣れていないので、最初の塊からスライスするときはちょっと危なっかしい。形も不揃いだけれど、みじん切りにするから形は気にしなくてよい。
スライスできた後は、ひたすら刻む。
 
刻みながら右から左へ。人参の山が出来てやりにくくなったら、今度は包丁の向きを変えて、上から下へ。斜めに進んでもオッケー。
まな板がいっぱいになったら、横のボールに移して、また刻む。
ただひたすら、単純作業を繰り返して、目の前のカタマリが形を変えて、平らになって、細かくなっていく時間は、なんだか心が落ち着いていく。
 
人参一本、上がり。
「どれくらいかね……ま、今日はタマネギ少ないから、いっか」
ブツブツ独り言を言いながら、ちょっと迷ったもう一本の人参も皮を向く。
 
そうだ、キーマカレーを作ろう。
 
一人暮らし歴1年弱の私は、手持ち無沙汰になると思い出したようにキーマカレーを作るようになった。
ひとりでいる時間が虚しいとき。
聞いてくれる人がいないモヤモヤをもて余したとき。
タマネギ、人参、とりあえず切り応えのある野菜を、細かく刻む。なんでもいい。冷蔵庫になにか残っている野菜があれば、ボールにこんもりするまで、刻む。
そうするうちに、なんだか無心になって、モヤモヤは「ま、いっか」と、どこかに行ってくれたりする。
あれかな、嫌なことがあると、手元の紙をビリビリに破くやつ。
違うのは、ビリビリになって終わるのじゃなく、これから美味しいカレーになること。
悲しくなって、手元から消え失せるのではなく、しあわせのモトになること。
 
作りやすいのは、トマト缶ひとつに、合挽きミンチ500グラム。
大きめのフライパンにたっぷりできる。ちなみに私のフライパンは直径27センチ。
 
フライパンに油、あればバターを気前よく溶かしたら、ニンニク、生姜、刻んだ野菜を炒める。
タマネギは飴色になるまで炒めるとか、ニンニク生姜は匂いを立たせるとか、レシピには書いてあったと思うけれど、その辺は気分に任せる。
細々になったモヤモヤたち。それでも固そうにしていたのが、バターの甘い匂いに包まれて、しんなりしてくる。カサカサしていた人参の色が、あったかい橙色になってくる。タマネギが優しいモヤがかかったように透き通ってくる。
 
野菜にしっかり火が通ったら、ミンチを投入。
ミンチは最初から崩すんではなくて、ある程度、火が通るまで置いておく方がいいらしい。お肉の旨味成分がバラバラになって流れ出てしまわないように、なんだって。
 
お肉に火が通るのを横目で見ながら、包丁とまな板、ボールを洗ってしまう。
同時平行で作業するのが料理上手、てな固定概念で、「出来た女」気分になる。笑
 
赤みが消えてきたところで、お肉をほぐしながら野菜と混ぜ混んだら、カレー粉の出番。レシピだと大さじ6杯。
そこにスーパーで適当に買い揃えたスパイスを、味も効能もよく分からないけれど、気分で足していく。クミン、ガラムマサラ、ターメリック、パプリカのパウダー。今持ってるのはこのくらい(クミンは、外国のおじさんの汗の匂いがする)。きっと既にカレー粉の中にブレンドされているんだけど、スパイスを次々鍋にほり込んでいくのは、子どもの頃憧れた、魔女の料理みたい。いたずらしてるような、愉快な気分になる。
全部が混ざったら、トマト缶を入れる。缶の縁に残っているトマトも、缶に半分水を入れてぐるぐる回して残らずお鍋に入れてしまう。
ケチャップやウスターソースも適当に、ブチュッと追加。月桂冠――ローリエの葉を入れて、15分ほど煮込んだら出来上がり。
 
一人暮らしをして、ひとりぶんの自炊をするようになって、なんだか気づいた。
ひとりでササッと食べるごはんは10分でも作れるけど、なんだかそんな食生活が続くと力が出ない。何日か同じものを食べることになっても、それなりに時間をかけて作ったごはんは、美味しいし、元気になる。
料理をする1時間は、自分を整えるための1時間になるみたい。
キーマカレーの嬉しいところはしっかり作っている気分になるのに「ひとつひとつの作業が単純なこと」。作業に没頭して、無になる余裕を与えてくれる。
そして「カレー粉命で、味に失敗がないこと」。鍋いっぱいできるから、美味しいのが一番。
あとは「残った野菜をなんでも受け入れてくれる懐の深さ」と「冷凍保存がきくこと」。
市販のレトルトカレーを冷凍したやつは、なんだか解凍すると油分が分離したみたいにちょっとベチャっとした(鍋で温めたらそんなことないのかな?)けど、このキーマカレーは大丈夫。一人暮らしだと保存食はやっぱり欠かせない。
 
今日もフライパンいっぱいに作ってしまった。
部屋はスパイスの匂いでいっぱい。あたたかくて食欲が刺激される、しあわせな匂い。なんだか充実した気分になる。
さて。たまのビールも開けて、ごはんにしようかな。
 
 
 
 
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2020-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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