メディアグランプリ

オタクという最上級の尊敬語

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:香山せの(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「オススメは、血天井ですね」
 
どうにもわたしは空気が読めない。
京都にデートに行くという先輩に、オススメスポットを聞かれたときのわたしの回答である。
まさかデートコースに、血生臭い場所を提案されると思っていなかった先輩は、困惑の表情で、わたしと少し距離をとった。
(ちなみに、血天井とは江戸時代に切腹した武士の血痕がありありと残るお寺の天井板のことで、わたしの一推しスポットであることにまったく嘘はない)
 
空気が読めない、というか、おそらくわたしにヒットするポイントが大勢とズレているのである。
 
こんなことがあった。
京都大学総合博物館に行ったときのことである。
日本の叡智の結晶である、かの京都大学の研究結果を披露する博物館であるから、多岐に渡ったジャンルの研究物がこれでもかと展示されている。
古代の墓につかわれた石の棺しかり、熱帯雨林の自浄機能について説明するために室内に設けられた模擬ジャングルしかりだ。
 
そのなかで、わたしに大ヒットしたのが、「もぐらのせっちんだけ」であった。
「せっちん」は「雪隠」、「だけ」は「茸」に変換される。地中にあるもぐらの巣の中の便所部分から生えるという特徴のあるナエノスギダケというキノコがあるらしいのだ。
 
ご丁寧に巣の模型もあった。
もぐらの巣はアリの巣に近いイメージで、もぐらが寝起きするスペースや食料の貯蔵庫、トイレと、機能別に部屋がわかれている。そのトイレ部分から、にょきにょきと地上に向かってキノコが生えていて、観察研究をする際にそのキノコがあると、「この下にはもぐらの便所があるな」と容易に見つけられるというのである。
 
人間で言えば、自分が住む一軒家でトイレ部分の外壁だけが金色に光って「我が家のトイレはここですよ」と世間に知らしめるようなものである。
そう考えたらおもしろくなってきて、何十分も雪隠模型の前で、パシャパシャと写真を撮っていた。
 
一緒にいた友人は最初こそ「え、そこ!?」と笑っていたが、わたしがそこにへばりついて離れないので、最後には呆れ顔でわたしの気が済むのを待っていた。
 
こんなわたしであるから、人とちょっと違う視点で、何かに熱中するという「オタク気質」には、それなりに自信があった。
 
そんな折、京都天狼院で「仏ラボ」なるイベントが開催された。
仏像マニアによる仏像マニアのためのイベントとの触れ込みである。
わたしは、仏像にはさして詳しくはないものの、長年京都に通い詰め、ついには京都に住み着いた京都通を自負している。
寺社仏閣に観光に行くのもすきだし、時代物の本や漫画も大すきだ。
 
そんな人が集まって、自分なりのちょっと変わったヒットポイントについての話をするのかなと行ってみることにした。
 
結論から言うと、そこに集まった方々は、仏像好き界のアベンジャーズのような面々であった。
仏教に関するいわゆるプロや京都検定有段者、仏ラボに何度も参加されているかたなど。そんな強者たちを前に、自称京都通という貧弱な武器で参加したわたしは、アベンジャーズに対峙するモブキャラのごとくであった。
 
知識のないモブキャラの悪あがきで、
「仏像とは、なんでしょうね……」
などと、小学生のような質問を、あたかも本質的な深い質問をしたかのように見せかける作戦に出たが、アベンジャーズたちは、そんな小物にも優しく、かつ丁寧に、ご自身の確立した仏像感を説明してくださった。
 
ここではあえて「オタク/マニア」というワードを、ネガティブな意味を微塵も含まず、最上級の尊敬の念をこめて、敬意を表す意味合いで使用したいのだが、彼女たちの姿は、正しく深い「京都オタク」「仏像マニア」であった。
自分のモブキャラ具合を受け入れてからは、みなさんの豊富で興味深い知識を、素直にたくさん教えていただいた。
(ぜひ次回があれば、わたしのような人でも恐れずに参加してみてほしい)
 
オタクとはアスリートのようなものである。
 
ときに修行のような早朝に自分を律して起床し、目的の場所に向かって家を飛び出し、
ときに自分を高めてくれる対象と相対するため、果てしない距離を遠征し、
ときに夜も眠れないほど、自分の熱中する物事に打ち込むのである。
持てる時間と労力と費用のすべてを、自分をワクワクさせてくれる物事に一心に費やし、自らを高めあげるのである。
 
わたしは、ひとつのことを突き詰めたひとが大すきであり、とても尊敬している。
自分の心のワクワクと正直に向き合い、そこにすべてを割くという決断ができる人だからである。
 
わたしも、「もぐらのせっちんだけ」について、いつか誰かに熱弁をふるってみたい。
 
 
 
 
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2020-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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