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微笑みの国で一文無しになった話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:原 真由(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「じゃあ、ここであなたは降りて。私たちは友達の家に行くわ。バーイ!」
「はあ?!」
突然止まったタクシーから一人、蹴落とされるように降ろされた。
始めて来た国の、名もない道路のど真ん中で。
 
ここはどこ?
あの2人は、何者?
一緒に友達の家へ連れってもらうんじゃ?
そして何より、私の全財産は、どこへ消えたの?
 
タイ、バンコク。
大学生の私はバックパッカーだった。
夏休みにヨーロッパ1か月の旅でデビューし、バックパック旅行の魅力にハマった。
予定を決めずに、風の向くまま好きなところに泊まり、出会った人たちとの会話と風景、安い食堂や屋台での食事を楽しむ。
決まっているのは行きと帰りの飛行機の時間と場所だけ。
その間はすべて、自分と、自分が決めたことによって起こる何かが勝手にデザインしてくれる。
 
2回目は東南アジアに挑戦。
春休みを使ってタイ・ベトナム・カンボジア・ラオスあたりを1か月、プラプラとする予定だった。
ヨーロッパと違って物価が格段に安い東南アジア。
B&Bでも20ユーロ(当時3600円くらい)したヨーロッパと比べると、安いゲストハウスなら1泊800円くらいで泊まれる。
 
「ヨーロッパ1か月はなんだかんだで、航空券以外で25万くらいかかったな。
東南アジア1か月なら、約半分の10万で行けるでしょ。よし、10万貯めよう。」
 
家にもろくに帰らず、色んなバイトを掛け持ちしまくり短期で貯めた10万円と少し。
それと、往復3万円弱の格安航空券チケットを握りしめて私は、バンコク スワンプーナム空港に降り立ったのだった。
 
その、10万円が。
タイバーツに両替した5万円と、日本円のまま残しておいた5万円が。
すべて一緒に乗ったマレーシア人女性の手元に残されたたまま、私を降ろしたタクシーは無情にも走り去っていった。
 
思えばおかしかったのだ。
バンコクに深夜に着いた私は、バックパッカーがまず集まる場所「カオサン通り」に何とかたどり着き、1泊600円くらいのゲストハウスでとりあえず眠った。
これから起こるアドベンチャーに期待を込めて。
とんだデス・アドベンチャーが待っていることも知らずに。
 
空腹で起きた翌朝、近くの市場でプラプラと物色していると女性2人組が声をかけてきた。
「ハーイ! どこから来たの?」
2人ともニコニコと人懐こい、ふっくらとした40代くらいの女性。
聞けばマレーシア人で、タイに兄が住んでいるため遊びに来ているのだと思う。
「私たちも着いたばかりなのよ。一緒にあそこの屋台でなんか食べましょうよ。」
嬉しかった。
1人で、いつ洗ったのかも分からないようなシーツのベッドで寂しく丸まって眠った後なのだ。
そうそう、こういう出会いがあるから一人旅って面白いのよね。
なんて玄人ぶってぬかしていた。
何しろ一人旅とは、人との出会いを楽しめないとずーっと1人なのだ。
1人で来ているくせに、ずーっと1人はかなり寂しいのである。
 
どこで気づけば良かったのだろう。
「美味しいね。結構辛い。」
「日本って行ったことないわ。興味ある~」
「そうだ。この後私の兄の家に行く予定なんだけど、あなたも来ない?せっかくだし。ランチをごちそうするわよ」ここか?
 
「遠いからタクシーに乗るわね」
「ここが兄の家よ」「いらっしゃい!」
「さて、話も弾んだことだし。ここでひとつ、カードゲームでもして遊ばないかい?」
「実は私の兄は昔カジノで働いていてね。カードゲームで必ず勝てるコツを知ってるの。
面白いからあなたにも教えてあげる!Just for funよ。」ああ、ここか?
 
「ほら!すごいでしょう。またあなたの負けね。お金をここに置いて。」
「ああ、ただのゲームのふりだから、終わったら勿論返すわ。でも実際に賭けてみる面白さを味わえないとね。」
「あら、またあなたの負け。え? もう賭けるお金がない?」
「仕方ないわね。ゲームが途中だからここで終わるわけにはいかないわ。
近所の友達の家に追加のお金を借りに行きましょう。勿論、返すわよ。
途中まで賭けたあなたのお金は、この金庫に鍵をかけて置いておくわね。安全なように」
「タクシーに乗って。お金を借りに行くわよ。」
 
この後に、冒頭の流れである。
私の名誉のために言うが、「追加のお金を借りに行きましょう」あたりではさすがに怪しいとは気づいていた。
ただそこで気づいたとて、もう言いなりになるしかなかったのだ。
お金は既に金庫の中。しかもここがどこかもわからない。
言われるがままタクシーに乗せられ、蹴落とされ、手元に残ったのは300バーツ(約1000円)だった。
 
……まず、元いた場所に戻らなくては。
10数年後に流行るフレーズ「時を戻そう」が頭の中でリフレインしていた。
 
なけなしの残金でカオサン通りに戻ったタクシー代を支払い、膝を抱えた。
この汚いゲストハウスの2日目の宿泊費すら支払えない。
たまたま通りがかった日本人の大学生2人組を見た瞬間、
私はタイのストリートチルドレンのように
「ヘルプミー、助けてください……」といきなりすがったのだった。
 
タイに来て2週間という彼らは爆笑しながら、日本人がやっている旅行代理店を紹介してくれた。
日本からそこの会社の口座に現金を振り込んでくれたら彼がそのお金を引き出してくれるという。
 
「あ、お母さん、私だけど…… ちょっと訳あって、今からいう口座に10万円振り込んで欲しいんだけど」
「はあ?! アンタ誰?!」
どっちが詐欺師なんだかもはや、分からない。
 
その夜彼らが笑いながら見せてくれた「地球の歩き方 タイ」の1ページ目には赤い太字でデカデカとこう書いてあった。
「注意! カードゲーム詐欺」
 
こうして鮮やかにバックパッカーの洗礼を受けた私。
「だまされて ぜんざいさんをうしなう」
を経てパワーアップし、さらにいろんな国へ行った。
 
どんな国でも懲りずに人を信用した。
全財産を失うことなんてもう、なかった。
 
ベトナムでは、タクシーにデジカメを忘れて降りたら車で私を探し当て、返しに来てくれた。
 
「10ドルくれ」と、30分前にキューバの道端で知り合ったおじちゃんは言った。
「そうしたら5日後、ここで贅沢な料理を作って待っているから」
5日後、本当に海の幸たっぷりの贅沢な夕飯を、おじちゃんの親戚と楽しくごちそうになった。
 
「写真を撮られたら魂が抜かれる」と信仰しているメキシコ先住民族の少女は、
毎朝一緒に薪割りを手伝った1週間の最後の日、特別に写真を撮らせてくれた。
 
命があるだけ良かった、調子に乗らない方が良いと言う人はいる。
でもなんとなく、今喋っている相手が実は超・極悪人かもという想像すら私はできない。
目がキラキラしている人はすぐに信用してしまう。
保証人になって騙されるタイプかもしれない。
 
でもまあ、何があっても人生何とかなると思う。
今でも「あ、今、ピンチかも?」と思うたびに、タクシーから蹴落とされた名もない道の風景を思い出す。
微笑みの国で一文無しになって得たのは、妙な度胸。
 
世界中を旅してまわって大学4年、妊娠が分かった時ですら。
これまでも何とかしてきた。
何とかなるでしょ。何とかするでしょ。
 
そう、何とかなっている。
これはまた別のお話。
 
 
 
 
***
 
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2020-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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