メディアグランプリ

「私らしさ」の苦い記憶


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ただくま みほ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「私のイメージでカクテルを作ってください」
 
学生時代の先輩が行きつけのバーに連れて行ってくれた。
マスターがお客さんのイメージでカクテルを作ってくれるのだという。
社会人になりたての私にとってはそんなお店は初めてで、私もドキドキしながら注文した。
 
その時私たちは3、4人のグループだっただろうか。まず初めに先輩が頼んだカクテルが出来上がってきた。
 
かわいらしい脚付きのカクテルグラスの中ではオレンジと赤い色が混じり合っている。
「わー、色がキレイ! あ、美味しいよ!」
私も一口味見させていただいた。甘くてとても飲みやすいカクテルだった。学生時代から可愛くってモテる優しい先輩のイメージにピッタリのカクテルだ。
 
「いいな、こんな感じのいいなー!」
私は心の中で呟いた。
私のもこんな甘くっておいしいカクテルになりますように!
 
いよいよ私のカクテルも出来上がった。
先ほどのとはグラスが違い、寸胴の円柱状のグラスにほとんど色のない液体。ライムがグラスの口に引っ掛けてある。泡が出ていて炭酸のカクテルのようだ。
 
私はこの頃、炭酸飲料はほとんど飲めなかった。
うん……なんだか期待したイメージと違う……甘くなさそうだし、何より炭酸だし。
 
心の中の言葉は口には出さず、まずは飲んでみることにした。
 
ゴクッ。
だめだ! やっぱり炭酸はだめだ! 味もツーンとして全然甘くない! おいしくなーい!!
 
結局、「私イメージ」のそのカクテルは自分では全部飲むことができず、先輩に飲んでもらったような記憶がある。「私らしさ」に関しての苦い記憶だ。
 
「私らしさって何だろう」
先日、友達がつぶやいた。彼女の「らしさ」を考え、伝えているうちに、私自身の「らしさ」について思いが巡った。
その時フッと思い浮かんできたのが、このカクテルの記憶である。
 
「私らしさって何だろう」私も今まで何度この言葉を心の中でつぶやいてきただろう。
そんな時、あのカクテルのことを思い出し、「マスターから見た私のイメージって、私の好みじゃないんだよな。あれは飲めなかったもんな。あーあ、人から見られている自分のイメージが自分で好きじゃない感じって嫌だなあ」などと、結構ウジウジ思うこともあった。
 
「私らしさって何だろう」と思うということは、その時点では自分の「らしさ」に丸ごとOKと思えていない状態かもしれない。「自分らしくていいな!」って思えていたら、たぶんその問いは思い浮かばないから。
 
そんな私もだんだん歳をとってくる間に「私らしさ」について認識が変わって来た。服も、私が素敵だなと思う服が全て私らしく似合うわけでもない、という現実も知った。
 
自分の憧れるイメージと、現実の自分のギャップにもがくうちに、生きやすく生きるためには認識を変えざるを得なくなり、そうしてきた。
 
例えば私は思いついたら即行動したり、口に出したりすることがある。若かりし頃はこの性質が災いし、私の身も蓋もない一言で会議を凍りつかせたこともある。そんな自分がキライだった。
 
だが一方で、私の即行動・発言から「刺激を受ける!」と言ってもらうことがとても多い。あまりにも「刺激を頂きました! ありがとうございます!」などと言われるので、私は人に刺激を与えられる人なのかな、と思うようになってきた。良くも悪くも、かもしれないけれど。
 
この、人に刺激を与えられるという性質、つまり私らしさを、どう捉えるかが大事なのではないかなと思う。その人の性質、らしさ、というのは良くも悪くもそういう特徴なのだと思う。
 
であれば、自分としてはそんな特徴をどのように発揮するか、ということを意識したい。そんな特徴のある自分は嫌だ、ではなく。
 
するとどんな場面でその特徴を全開に発揮しようとするか、どんな場面ではそんな特徴を控えめに出力するか、という調整がだんだんできるようになってきた。自分自身を操作するハンドルを自分で握り運転しているような感覚だ。
 
自分を乗りこなすこと、まだまだ発展途上だけど、あのカクテルの時の自分と比べると、気がつくと結構上手になってきているなあと振り返る。
 
今はあの時のマスターが、炭酸主体のカクテルにしたのは納得がいく。マスターは一目見て、私の刺激性を見抜いてくださったのだろう。
問題はそんな刺激性の私が実は炭酸飲料が飲めなかったということ。そして人からどう見られるかに一喜一憂するだけで、「自分はこういう人間です。こういう希望があります」と自らコミュニケーションできなかったことだ。
 
あれから随分時が経ち、炭酸飲料もあまり強すぎなければ飲めるようになってきた。
 
「『私のイメージでカクテルを』だなんて、オーダーするもんじゃないな」などと、拗ねていた時期もあったけど、今ならまたオーダーしてみるのもおもしろいかも、と思う。
 
ただ、大事なことは付け加えるつもりだ。
「炭酸は強いのはやめてほしいです。アルコールは弱めでお願いします。味は甘めの仕上がりが好みです。美味しく飲みたいので、そのようにしてもらえると嬉しいです」と。
 
 
 
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 
http://tenro-in.com/zemi/103447
 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2020-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事