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メディアグランプリ

【白菜】から変容を遂げた同志の話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:杉下真絹子(ライテイング・ゼミ日曜コース)
 
 
シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ
 
私は、ケニア国保健省の建物内にあるオフィスの一角で、日本からゲットしてきた<空間を浄化する>スプレーを自分の周りに拭きかけていた。
 
ここに来ると、これまで経験したことのないへんな頭痛が始まるのである。
でも、理由ははっきりしていた。
 
私と戦闘態勢にある【白菜クン】が私の半径1メートル内に入ると、ものすごいネガティブエネルギーで私を襲ってくるからであった。
 
だれ? このハクサイくんって?
 
あ、もちろん鍋料理に入っている野菜の白菜ではなく、私が一緒に働いていたケニア人に密かにつけたあだ名だった。
 
そう、まともに名前でなんかで呼びたくもない! と思って付けたあだ名。
(もちろん、本人の前ではちゃんと名前で呼んでいたけど、一応)
 
彼の本名はDr. James Mwitari (Dr. ムイタリ)、彼はケニア国保健省の地域保健課の課長に昇進したばかりで、私はその課にアドバイザーとして派遣され、彼とカウンターパートとして一緒に働くことになっていた。
 
ケニアで初業務をすることになった私は、着任後すぐに、白菜クンに地域保健課の年間業務計画を見せてくれるようお願いした。
 
立派、立派。
計画書はカッコいいほどしっかり書かれてある。
 
私は、それを見せながら、白菜クンに対して一つ一つの活動の実績とこれからの具体的な予算繰りや戦略について確認を進めた。
 
これ、まだやってない……。
どこの開発パートナーと予算交渉して進めていくのか決めていない……。
技術作業部会で、いつまでにどのガイドラインを作るのかの話し合いが延びている……。
 
私は、唖然となった。
一応、アフリカの優等生と言われているケニア国の省庁はある程度機能していると思っていた私が完全に間違っていた。
 
なぜ、こんなことができていないのか。
なぜ、できていないのに、早々と悠々と帰宅できるのか。
と私は彼に向って口走っていた。
 
そう、ここから
【MAKIKOと白菜の大戦争】が始まったのである。
このことは、関係者の間でも知られるほどにヒートアップしていった。
 
そもそも、白菜クンの反撃は、計画実行していないことに対する反論ではなく、時としてびっくりするアプローチでやってくることもあった。
 
今でも忘れもしない、白菜流の反論はこれだった。
 
「ケニアは、テクノロジー分野でも日本より進んでいるんだぞ。我々は携帯電話から国内中どこでも簡単に送金できる。日本でそんな技術ないだろう」
 
確かに、当時からケニアではSafaricomなどの会社がM-PESA(モバイルマネー・トランスファー・サービス)などを使い、都市スラムに住む貧困層が銀行口座を持たずして、自分の村に残してきた家族に少額であれ、お金を送金できる素晴らしいシステムがあった。
 
とは言えども、こんな風に日本人に対して、優越感に浸るアフリカ人に会ったのは初めてだった。
 
何よりも、言葉以上に彼が放つ反撃エネルギーと言いましょうか、ネガティブ・オーラは強烈だった。
本当に近くに居るだけで、頭痛がしてくるのである。
 
だから私のスプレーは(汚れた)空間を浄化するのに必須アイテムだった。
 
そんなこんなで、ケニア保健省に着任してから3か月後、私は一時帰国する日がやって来た。
そして、心のどこかで(こんな幼稚なケニアのカウンターパートとの仕事、絶対に延長しない)
と決めていた。
 
ちょうどお正月だったので、日本で年越しそばやおせち料理を堪能し、初詣に行き、ゆったり温泉に入り、心地よい布団で寝るうちに、私は自分の中で落ち着きと冷静さを取り戻し始めた。
 
もちろん、ケニアでの仕事を今後どうすべきか、気にはなっていた。
 
そんな時、ふとこんな質問がやってきたのである。
 
ねぇ、彼ら(白菜クンや彼の元で働く担当官)は
やりたくないから、やってないの?
それとも、できないから、やれないの?
やりたくても、できる人材やノウハウ、リソースがないの?
 
その瞬間、私の中で何かがゆっくり開き、ジワジワと溶けだすのを感じたのである。
 
……いや……。
白菜クン達は、誰もやりたくない、とは思っていない。
やりたくても、どうやって始めればいいのか、どう人材を育成し、サポートをうまく活用すべきなのか、分からないだけなのかも。
 
そう思った瞬間、ずっとまとわりついていた私の頭痛が、すっと和らぎ、軽くなった気がした。
 
また、その霧が晴れた気持ちで、もう一度ケニアに戻り、白菜クンと向き合ってみようと思った瞬間でもあった。
 
私は、2週間の一時帰国を終え、ケニアの保健省に戻ってきた。
 
そして、念のため私の浄化スプレーをしっかりカバンの中に入れて、一時帰国後初めて白菜クンのデスクに向かった。
 
あれだけドンパチしてた相手だから、久々とはいえ、お互い目をしっかり見て話すとまではいかない。
 
それでも、思い切って私のほうから切り出してみた。
「この仕事を通して、目指しているものは何? 将来、どんな姿を描いている?」
 
彼はシンプルにこう答えた。
「ケニアの住民の一人一人が、健康で幸せに暮らせるようなコミュニティが国中に立ち上がっているビジョン」
 
そして、私もすかさず言った。
「私も同じ。この国の人たちが皆健康で笑顔で日々過ごせる姿を私も夢見ている。そのお手伝いをDr. ムイタリと一緒にやっていきたい」
 
そう彼に伝えて5年。
私はケニアの仕事にコミットし、政府が打ち出した地域保健政策の全国展開に向けて、白菜クンや多くのカウンターパートたちと共に、一生懸命推進していた。
 
ケニア全土の関係者を集めた地域保健会議の開催から始まり、アフリカ周辺国の大臣や政府高官を招待したケニア初の地域保健国際会議を開き、開発パートナーやメデイアの注目を集めた。その後も、関連政策の具体的な実施を一つ一つ進めていった。
 
今や、大勢の人の前でスピーチをし、リーダーシップをとるDr.ムイタリや一緒に働くカウンターパートの姿があった。気が付くと、私は彼に絶大の信頼を寄せ、彼を深くレスペクトしていた。それだけでなく、彼から多くのことを教わり、学ぶことができた。
 
そして、いつからか、私の中で彼を白菜クンとは呼ばずにDr.ムイタリと呼んでいた。
そう、白菜クンから【Dr.ムイタリ】という蝶々に大きく変容を遂げていたのである。
 
カバンの中に備えていた浄化スプレーも、どこかに行ってしまった。
 
その後、私の任期が終わりケニアを離れたが、最後にDr.ムイタリに会ったのは1年半前になろうか。
 
その時、彼自身もうすぐ保健省の仕事をリタイヤ(定年)する、と言っていた。
 
結構私より年上だったのね、当時は考えもしてなかった。
今度、いつ会えるのかわからないし、もう一生会えないかもしれない。
 
それでも、毎日ケニアに住む地域住民が健康になることを夢見て、彼と一緒に仕事をしたあの時を、あの日々を忘れることはない。
 
言い換えれば、目の前の小さい問題や課題ばかりに目を向けるのではなく、
【大きなビジョンに向かって共に生きることの大切さ】や【同志という存在】
を通して多くの気づきと経験というものを、私は与えられたような気がする。
 
そして、そのことは、私の中でこれからも生き続けていくのである。
 
 
 
 
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2020-03-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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