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メディアグランプリ

「24(トゥウェンティ・フォー)」に裏切られ続けた 私たちカップルの顛末


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:藤井康子(ライティング・ゼミ 日曜コース)
 
 
「24-TWENTY FOUR-」は人を裏切るドラマだ。
 
「それはそうだろう」
「優れたドラマには視聴者の予想を裏切る展開が付き物なんだから」
と思ったそこのあなた、今はそんな話をしているのではない。
私が言ったのは全く別の意味である。
 
「なぜ今頃24?」
そう思われた方もあるだろう。
24と言えば、クライムアクションの金字塔と言われるテレビドラマで、全米で放送が開始されたのが2001年。その後世界的にも大ヒットを記録した訳だが、日本では2003にDVDレンタルが開始されるや否や、レンタルビデオ店に行列ができたという逸話が残っている。
だから、流行り物に敏感な人たちにしてみればとっくに視聴済みの作品ではないかと思われるのだが、私とマイ・パートナーはどうやら当時から時流に取り残された生活を送っていたようで、最近になってやっとその魅力に気づいたという訳なのである。
 
さて、そんな遅ればせながら24にハマった私たちを、24は最初から最後まで事あるごとに裏切り続けたのである。
 
——まさか面白さが仇になるとは……
それは誰にも予想できなかった展開だった。
彼が24を見始めたきっかけは、そもそも海外ドラマで英会話の勉強をしようと思い立ったことであった。そして、以前勤めていた会社の同僚たちが同作にハマっていたことを思い出し、さらにまたアマゾンプライム会員特典で同作の全シリーズが無料で視聴できる(プライム会員の年会費は別として)ことに気づき、「これは見るしかない!」となったようだ。
 
ところが実際に視聴を始めてみると、みるみるストーリー引き込まれ、先の展開が気になって仕方がないため、「ここのセリフは今英語で何て言ってたか」なんて早々にどうでもよくなってしまったのである。
「面白すぎて、英語の勉強どころではない!」
と、彼は謎のドヤ顔で語った。
 
この経験を踏まえると、英語の勉強には程々の面白さのドラマの方が向いていると言えそうだ。
 
さて、そもそもの視聴動機さえ忘れ去った彼が、徹夜するほど24にハマっているのを見て、私は恐れをなした。
「ドラマなんぞに生活を破壊されたくない!」……というのがその理由である。
しかしあまりに「見ろ見ろ」と勧めてくるものだから、結局は折れて一緒に見る羽目に……。
それでも24による「生活の破綻」を最小限に止めたいと考えた私は、「1日一話まで」という厳しい逆ノルマを設け、「続きが見たい!」という欲望と懸命に戦った。
 
——しかしそこは24、各エピソードのラスト数分には、毎回視聴者が次のエピソードを見ずにはいられなくなる衝撃展開が用意されているのだ。
その誘惑にまんまと引っかかり、
「あと一話だけ」
そう思ったが運の尽きである。
ん? 「本当に後一話でやめれば問題ないのでは?」だと? 一話でやめられなかった私が二話目でやめられるとでも?
後はもう、小鳥のさえずりとともにベッドに入ることを覚悟するしかない。
 
24を1日一話見ることは、生活に張り合いをもたらす。しかしそれは同時に、「1日一話というルールをいつ踏み外してしまうのか」というリスクと背中合わせの、とてもスリリングな生活なのだ。
外せない用事のある人に、このドラマはお薦めできない。
 
「24を見始めていい影響があるんじゃない?」
ある時彼が言った。
というのは、私が彼と旅行する際、目的地までの行き方などはそれまで彼に任せっきりだったのが、この時は自分でもてきぱきとスマホで検索したりしていたからだ。また、階段やエスカレーターでも私が率先してスーツケースを運ぶなど、それまでにない行動が見られたためだ。
 
種明かしをすればこの旅行中、私たちは温泉もそっちのけで24三昧の生活だったのだ。なるほど、知力体力の限りを尽くして一分一秒を争いテロを食い止める、というような緊迫した内容のドラマを見ている影響はこういった所にも表れるのだろう。
 
しかしこの後、思わぬ落とし穴が私たちを待ち受けていた。
 
その日は生憎の雨模様。
私たちは旅行帰りで傘を持っていなかった。
自宅の最寄り駅の東口ロータリーを終点とするバスに揺られながら、私たちは「降りたらすぐに屋根のある通路まで走ろう」と申し合わせていた。
ところが、乗客がかなり多かったため、窓際に座っていた私の降りる順番が、彼に比べてだいぶ後になってしまったのだ。
 
「遅れをとったか!」
私が降りた時、すでにバス停に彼の姿はなかった。
腕に力を込めると、私はスーツケースを「歩道を転がす」通常の方法ではなく、両手で宙に持ち上げ、トンネル通路目がけて一気に駆け出した。
——そこに彼がいるはずだ!
 
「ちょっと何やってんの?!」
ところがふと気づくと、彼が私の腕を掴み、もう片方の手でお腹を押さえて笑いを堪えているではないか。
先に出発した彼は、例のトンネル通路まで走るよりも、ショッピング・センターの建物の中を通って行った方が、早く雨をしのげる事に気付き、建物の入り口で私を待っていたのだと言う。
 
するとそこへ、只ならぬ形相で髪を振り乱しスーツケースを手に全速力で走る女——つまり私が現れたため、彼や周りの客たちはあっけにとられたのだと言う。
彼としては「知らないフリをしたかった」そうだが、なんとか私を呼び止めたというわけだ。
 
一方の私はと言えば、24ごっこ——銃弾の雨をかいくぐりながら危険地帯を突っ切り、安全地帯で仲間と落ち合う——に我を忘れるほど没頭していたため、これを中断させられたことが不満で、その後しばらくは不機嫌であった。
 
つまり24の世界に入り込み、主人公である腕利きの連邦捜査官ジャック・バウアーになりきるのは、場合によっては良い影響もあるが、場違いな行動に繋がり人に迷惑をかける可能性も無視できないということである。
 
最後に、このドラマを見ることのちょっとした利点——生活に張り合いが出るとか、機敏に動けるとかいう——ですら決して長続きはしない、ということを強調しておく必要がある。
 
私より先に24を見始めた彼は、シリーズ中盤に差し掛かると、「まだ先が長いから」という理由で私を羨ましがり、「見終わってしまうのが怖い」と愚痴をこぼすようになった。
そして、全シリーズを見終えた今では、「24ロス」に苛まれている。
 
「24を見る楽しみがなかった頃はどうやって生きていたのか、もう思い出せない」という有り様なのだ。
 
いかがだっただろうか?
——もしまだ未体験なら、あなたも一度24に裏切られてみてはいかがだろうか?
 
 
 
 
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2020-03-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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