メディアグランプリ

わたしが尊敬する「彼女」の話をしたい


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記事:かのこ
 
 
その人は、強くて、脆くて、美しかった。
 
かつて乃木坂46にいた、生駒里奈さんの話である。
 
「アイドルなんて、世間に媚売ってるだけでしょ?」
「どうせ可愛いだけじゃん。たいして歌も上手くないし」
「ダンスが見どころ? キレ無さすぎない?」
 
かつてのわたしは、仲間内でアイドルとドルオタを嘲笑っていた。音楽フェスにアイドルが呼ばれる理由もさして気にすることなく、なんで毎年呼ぶんだろうね、とただ好きなバンドだけを追いかけていた。アイドルが「アイドル」としてステージに立っている意味も、彼女たちを推しているオタクがなぜ彼女たちを推しているのかも、まったく理解できなかった。
 
だって、アイドルは「顔が良い」だけだと思っていたから。顔が良いから芸能界に入れて、芸能界に入れたからたいして歌も上手くないのにメジャーデビューできて。自分たちで音楽を作っているわけでもないくせに、音楽をやっている人たちに認められているのが悔しかった。わたしの好きなバンドは、メジャーデビューしても全然見向きもされないのに。
 
こうして長年アイドルを嫌っていたわたしが、突然、アイドルに落ちた。
……乃木坂46の勢いに、そして生駒里奈さんの気迫に飲み込まれたのである。
 
出会ったのはおよそ5年前。生駒里奈さんがセンターを務める「太陽ノック」、そのカップリング曲「羽根の記憶」のミュージックビデオを見たときだった。それまで女性アイドルにまったく興味がなかったのに、ふと気を緩めたその瞬間、生駒里奈さんに陥落してしまったのだ。可愛い人、美しい人、女神のような人、さまざまな人がさまざまな役を務めているそのミュージックビデオで、彼女の瞳がただまっすぐにわたしを射止め、ついぞ離してくれなかった。
 
少年のようにキリッとした顔立ち。あどけない少女のような笑顔、そして天性の舌足らず。バラエティー番組では天然発言をぶち落としていくくせに、舞台では完全に役が憑依したかのような表情でわたしたちを仕留めてくるアイドル。彼女を女性と呼んでもいいのだろうか。わたしは生駒里奈さんのことを、ある種ジェンダーレスな存在だと思っていた。
 
生駒里奈さんを知っている人は、いろんな言葉を彼女に向けてきた。天性のアイドルと呼ぶ人も、ただのお茶の間アイドルでしょと言う人も、舞台だと別人だよねと言う人も。そのすべてが間違いじゃない。彼女は努力家で、天性の才能だけに留まらず、乃木坂46のいろんな道を切り拓いてきた先駆者だ。さまざま物議を醸したAKB48との交換留学にも行って、畑違いのAKB総選挙で見事14位という功績を残して帰ってきた。間違いなく、乃木坂46の知名度を上げた功労者である。
 
もちろん、乃木坂46の功労者はほかにもいる。
でも、生まれたばかりのアイドルグループ「乃木坂46」を、アイドルという枠内に収まらず舞台にバラエティーに飛び出していけるよう道を作ったのは、他の誰でもない生駒里奈さんだった。生まれたばかりの乃木坂46の方向性が決まるまで、センターとして、自分にできることを模索して葛藤し続けたのが彼女だった。
 
かつてAKB48のライバルグループという立ち位置で生まれた乃木坂46は、今では独自のブランド力を持っている。「あぁ、あの清楚なアイドルたちね」と言われることも増えてきた。道が見えてからの運営のブランディングはきっと正しかった。
 
正しかったから、生駒里奈さんは卒業を決めた。
 
その覚悟を知って、生駒里奈さんを推していたわたしは、ひどく安心したのだ。
 
生駒里奈さんの卒業シングルA面は「シンクロニシティ」。
センターを務めたのは、白石麻衣さんだった。
 
……なんだろう、なんだろうなぁ。
生駒里奈さんが卒業すると知ったときも、生駒里奈さんが卒業シングルのセンターを快諾しなかったと知ったときも、わたしは、生駒さんは本当に乃木坂46のことを誰よりも考えているんだな、と安心したんだろうな。
 
アイドルグループの功労者が卒業するとき、卒業ソングは大抵シングルA面となり、センターは卒業者が務めることになる。生駒里奈さんが卒業するなら、卒業シングルは彼女がセンターを務めるのが本筋だ。でも、彼女はそれをしなかった。なぜか。
 
わたしは、彼女が「乃木坂46」のブランドを誰よりも理解していたからだと思う。
愛していたアイドルグループだからこそ、俯瞰して見ることのできる彼女だったからこそ。乃木坂46が今後進んでいく中で、自分がセンターの曲を出すべきではないと、そう判断したんだろう。……生駒里奈さん以外に、誰ができただろうか。
 
卒業シングルのB面「Against」で、センターを務めた彼女は言った。
 
「ソロダンスの部分には、今までやりたかった表現を全部詰め込んだの。あれは乃木坂の人生を表してて。乃木坂に入ってすごく楽しいはずだったのに、途中で苦しくなっちゃって、でもまた救われて、でもまた苦しくなっちゃって……で、最後には自分で扉開けて、次進むぞ! っていうストーリーになってんの実は」
 
――強さを求められて、出来立てほやほやのグループのセンターを担わされて、乃木坂46の別の道を開いていってくれた生駒里奈さん。たくさん苦悩して、アンチから暴言を吐かれてもなお、わたしたちファンの前では強くあろうとしてくれた人。
 
一人のアイドルとして、一人の女性として、一人の人として。
わたしは生駒里奈さんのことを尊敬しているし、わたしも彼女のようにありたいと強く願う。
 
バラエティー番組に出ているアイドルだからって、歌やダンスがたいして上手くないからって、それだけで「顔だけ」だなんて決めつけないでほしい。彼女たちだって努力しているのだ。テレビや雑誌に出れば出るほど、世間の目に晒されながら、それでもグループを思って笑い続けている。
 
強くて、脆くて、美しい。
乃木坂46には、今でも、そういう人が山ほどいる。
 
 
 
 
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2020-03-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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