メディアグランプリ

「〇〇おじさん」という言葉は私が生きている証拠


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:安平 章吾(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「コーヒーおじさん」、「狩猟おじさん」、「ブルーベリーおじさん」。
 
妻はすぐに私のことを「〇〇おじさん」という言葉で表現してくる。
 
これは結婚してから、同じ表現を続けてくれている。そして、今では幼い子どもが真似をして私のことをおじさんと悪気がなく、笑顔で呼んでくれる。
 
例えば、「コーヒーおじさん」は最近始めたペーパードリップでの抽出を行っているときに言われた。妻に聞くと、コーヒーにのめり込んでいる姿をみて自然と呼んでみたかったからとのこと。
 
「狩猟おじさん」は今年から始めたジビエの狩猟から帰ったときに、「ブルーベリーおじさん」は家でプランター栽培しているブルーベリーを育てているときにそれぞれ妻から呼ばれた。
 
初めは馬鹿にされているように思ったため、「おじさんって言うな」と妻に言っていたが、最近は「〇〇おじさん」という言葉が褒め言葉だと思うようになり、また、そう言ってくれる妻に対して感謝し、そしてその称号を与えてくれることに対し、喜びを感じている。
 
それは「〇〇」の部分に対して私が熱心に取り組んでいることを妻が理解し、それに対する時間を割くことを認めてくれていると感じているからだ。
 
これまで私は良く言えば器用貧乏、悪く言えば中途半端な取り組みが多く、また、何か1つでも人よりも優っているものがなかったため、自分としても自慢にできることがなかった。
 
また、自分の趣味や特技が他人に褒められた記憶がなく、自分でもとことん頑張ったという記憶がこれまでにない。
 
そして、1つのことを続けていくにつれ、取り組む途中で苦痛を感じるようになり、気がつけばほとんど途中で投げ出し、関わることをやめている。
 
一番嫌だったのが、何かをしている自分が他の人に埋もれてしまったと感じ、自分がそこに居らず、関わっていなかったような気持ちになることだ。
 
自分なりに努力して続けてきたことが評価されず、否定されないが、認められないこともまた辛いと感じた。
 
その1つの例が、小学校から取り組んできたバスケットボールだ。
 
自分なりに一生懸命取り組んできたが、思った以上の成績が出せず、身長も中学校から伸びなくなり、技術力も劣っていたため、自分の存在意義を見つけることができなかった。
 
大学まで部活動として続け、バスケットボールを通じて、チームメイトとの交流を行ってきたが、その中で、自分の存在を出すのに必死になって疲れているときもあった。
 
社会人になってからもバスケットボールは続けた。
しかし、技術力が高くないため、試合に出てもモチベーションはあがらず、本気で取り組める機会が少なくなっていった。
 
そして、結婚し、子どもが生まれ、練習に行ける時間が無くなったことをきっかけに、バスケットボールからは自然と離れていき、今ではドリブルをつくことすらほとんど無くなった。
 
バスケットボールだけが私にとっての支えであり、存在を出せる唯一の機会だと思っていたため、自分が家族との生活以外で何かに夢中になり、楽しむことはこれからないのだろうと思っていた。
 
そんな中、ふとしたきっかけから、コーヒーの世界にのめり込むことになった。
 
バスケットボール以外で初めて夢中にできそうな期待を持つことができ、気合いを入れて器具を揃え、基本を一から勉強し、家族に迷惑をかけない形で続けてきた。
 
そうしていく中で、妻がぽろっと私に対して「コーヒーおじさんだね」と言った。
最初は悪口に聞こえ、しばらくは気分が悪かったが、一定期間言われ続けると、違う感覚を覚えた。
 
それは、「私=コーヒー」という形が妻の中で定義づけられ、コーヒーを淹れているときに、確かに妻の中で私が存在し、その気持ちが「コーヒーおじさん」という言葉の中に込められている、と感じることができたからだ。
 
また、同時に私がコーヒーに夢中になり、楽しんでいる様子が妻に伝わっていることが感じ取れ、家族にとっても私の趣味で同じ時間を共有できることが嬉しくなった。
 
「〇〇おじさん」という言葉は文字だけで見ると、悪口にしか見えない。
 
悪口は、夫婦にとってなんともない言葉1つであるが、相手を不快にさせ、場合によっては対立の原因となることがある。
 
特に相手の容姿に関する言葉は高い確率で相手を傷つけ、不快にさせることが多い。しかし、場面や言い方によってはとても心地良い気持ちにさせてくれることがある。
 
それが私にとっては「〇〇おじさん」という言葉である。
 
一度は自分の特技を失ってしまったが、自分のことを評価し、存在感を示してくれる人がそばにいてくれ、言葉として表現してくれる。
 
これからも様々なことに取り組み、自分の人生を楽しんでいくとともに、たくさんの「〇〇おじさん」を妻から言ってもらえるよう、家族に迷惑をかけないことを大前提に趣味を増やしていきたい。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 
http://tenro-in.com/zemi/103447
 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2020-03-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事