メディアグランプリ

34歳独身OL 、マンションを買いました


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記事:ツキノワ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
我が家は全員B型です。
B型同士の会話というものは、どうも唐突に始まります。お互いテンデバラバラの事を喋っていたりもします。それでも何のことを言っているのか、分かってしまうのが家族というものの面白いところでございます。
 
その日も、母が何を言っているのか、私はすぐに分かりました。
仕事から帰宅して夕食を食べる私の背中に、母は突然、
「それで。あんた、買ったん」
と、ひとこと言い放ちました。
 
「……ん?」
すぐ分かったもんで、ギクリとして箸が止まりかけましたが、一応、私もしらばっくれてみました。
 
「マンション」
 
一体なにが「それで」なんでしょう。ここ数ヶ月そんなことは口にしませんでしたのに。
仕方がない、バレましたか。箸を置いて母を振り返って白状します。
「……買った」
 
「やっぱりね。最近大人しくしてると思ったら。パパには言ってあるの?」
「……言ってない」
「ちゃんと言いなさいよ」
「……ん」
どうしようもなくて、ニヤっと笑っておきました。
 
34歳会社員、未婚女性。
夏のある日、マンションを買いました。
 
学生時代、就職してから、一度も実家を出たことがありませんでした。一人暮らしへの憧れはありましたが、大学にも就職先にも、時間はかかれども電車一本で通える立地に実家はあり、「出んでよろしい」とピシャリと言う両親の言葉に、甘んじ、また甘えておりました。
2、3年前にも、一人暮らしを考えたことはありました。とりあえず、数ヶ月だけ、実家を出てみよう。ところが、都心のマンスリーマンションを探してみると、家賃だけで十数万円かかるのです。
「これは、何してるか分からんわ」
社会勉強で、と言って親を納得させるには費用が見合わない。そう思って断念しました。三十路を越えて、人生で一番貧乏にならなくてもよい。そのときがくれば、伴侶を得て、実家を出ることになるのだから。
 
ところが、数年経ってみても「そのとき」は来そうにありませんでした。しかも、単に時が経過したのではなく、結婚相談所にお金を払って1年間活動したのに、です。まさか自分が、数十万円払っても、人がすなる結婚をできないとは。驚愕の事実でした。
 
人生、どうも、思っていたより甘くない。
 
「自由な箱入り娘」を自認していた私は、34歳にして、ようやく厳しい現実を知りました。
小学生時分から「30歳で結婚してー、32歳でマイホームを買ってー、34歳で双子を産む!」と思っていた私の人生計画、いずれのタスクも完了していない。すべて「お相手のあることなので」と後回しにしていると、何もできないのだと悟りました。
 
こうなると、もう、自力でできることを叶えるしかない。
「探せ、マイホーム!」
 
人生のパートナー探しには苦戦する私でしたが、不動産やさんには恵まれ、物件との出会いにも恵まれました。ひとまず見に行ってみましょうか、と中古物件巡りを開始した初日、ビビビ!と来て、翌週には購入を決意いたしました。
(ああ、ストーリー的に割愛していますが、新築の内覧会にも行きましたし、不動産のセミナーにも複数参加しましたよ)
 
都心に徒歩でも出られて、実家にも帰りやすく、猫が飼えるマンション。東向きの角部屋で、公園に面した、緑と風が気持ちのよいスペースが、今の私のお城です。
 
一足飛びに一城の主となりましたが、人生やっぱり、そう甘くはないです。
リフォーム業者との擦り合わせが難航し、購入から入居まで半年以上かかりました。未だ未完成の部分もあります。
一から家財道具を揃えるのに想定以上にお金がかかり、当面自由になるはずだった分の貯金は使い果たしました。
70歳までのローンの支払いが始まった途端、働き方改革で残業がなくなり、月の手取りが4~5万変わりました。
環境が変わって舞い込んできた、天使のような彼氏は夏の夜の夢と消えていきました。精神的ダメージは大きく、1ヶ月で5㌔痩せました。
父親が癌になりました。早々に手術を重ねて事なきを得ましたが、両親が健在なうちに一緒に過ごさない選択をしていることが悲しく思えることもあります。
会社にはこれから転居の申請をしますが、まぁ、独身女性のこの年齢での独居スタートは、何かと話題にしやすいでしょうね。マンション購入なんてバレたら、もう。
 
マンション購入の事後告白を聞いたときの父親の言葉は「ハズバンドを探しなさい!」でした。
husbandて。中学校の英語の教科書以来ですよ。
今もたまに言います、
「いい人は見つからんかったんか」
そして2週にいっぺんくらい言います、
「もう飽きただろう、売っぱらって帰ってこい」
 
私は「結婚・マイホーム購入・出産」とは、人がする大きな決定で、サナギが蝶になるくらいの、劇的な変化のときと思っていました。シンデレラの魔法使いが持ってる魔法のステッキか、アラジンの魔法のランプのような力があるものだと思っていました。
でも、マイホームを決めてみて、自分の根っこがガラリと変わるわけではありませんでした。これまでも悩んだし、同じようなネタでこれからも悩むでしょう。
まぁ、まだ「結婚できない・結婚を決められない=何か私は欠けているのかしら、人と比べて成長できていないのじゃないかしら」という呪縛は解けたわけではないのですが、あまり自分を卑下することなく、いじけることなく、ひとつひとつを経験していけばいいのかなと思います。
 
 
 
 
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2020-03-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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