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親友を名乗りたい。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:池田 慧(ライティング・ゼミ特講)
 
 
自分の親友だといえる人は、あなたにはいますか。
僕には、まだいません。でも、いつか親友になりたいと思っている人がいます。
それは、中学高校大学と10年間、僕の嫉妬の対象だった部活動の同期です。彼は当時、天才と呼ばれていました。
 
僕の家庭は、そこそこ裕福でした。いわゆる、小金持ち。
教育熱心な両親は、僕に中学受験をさせました。その学校は、中学、高校、大学と、すべてエスカレーター式に進学していける、地域では名の知れた学校法人でした。
 
彼との出会いは、その学校に運良く入学できた中学1年生の時。同じ苗字の彼は名前が「ゆうき」、僕は「けい」、呼び間違えるといけないので、お互いもその周囲も、僕たちを名前で呼んでいました。
僕たちが入部したのは、アメリカンフットボール部。数十年前は人気だったようですが、今はマイナースポーツの代表格のような存在です。そのスポーツの、日本有数の強豪校が、僕の入った学校でした。
 
アメフトは、面白いスポーツですが、安全なスポーツかどうかは明言しづらいです。格闘技のように、相手への攻撃性を発揮することが求められるからです。そのため必然的に、強靭な体を作り上げるため、絶え間ないトレーニングを要求されます。だから、だいたいの人は、ごついです。
 
それでも、小学校を卒業して間もない、体が成長段階を終えていない中にあっても、彼のプレーぶりは別格でした。スピード、強さ、賢さ、求められるすべてを体格の上回る上級生を圧倒するレベルで、ずっと見せつけ続けました。
高校に入っても、1年生からレギュラーとして活躍し、関西地区の決勝戦に出場。2年生、3年生と日本代表に。大学でも1年生からレギュラーとなり、ずっとスタメン、そして4年のうち3年間チームを日本一にし、当時日本でもっとも優秀なラインバッカーと呼ばれました。
 
同じ苗字の僕は、その姿を追いかけ続けました。日を追うごとに、いつのまにか周囲の目線も、「いけてる方の池田」と「そうじゃない方の池田」という認識に。思春期の当時に、そんな存在が身近にいたことは、小学校で伸びた鼻をバキバキにへし折るいい体験となりました。
 
当時、彼に思っていたこと。自信家。上手いから下手くその気持ちがわからない。偉そう。人を傷つけることを言う。人を見下す。才能を楽するために使う。
 
そう思っていたからこそ、僕は決して彼のことを好きではありませんでした。でも、ほとんどの否定意見は、嫉妬だったのだと思います。同じ時間、同じ量だけ練習をしているのに、なぜあいつだけ上手くなるのか。同じだけ汗をかいているのに、なぜあいつだけ脚光をあびるのか。
平等と公平の違いすらわからない若造の僕には、自分自身を否定する勇気もなく、理解できない天才の存在を拒絶することでしか、自我を保つことができなかったのでした。
 
彼のことを、ある意味本当に理解しようと思えたのは、大学を卒業して社会人になった2年目の時でした。
3月のライオンという将棋をテーマにしたマンガに、このようなセリフがあったんです。
「ふざけんなよ 弱いのが悪いじゃんか 弱いから負けんだよっっ 勉強しろよ してねーのわかんだよ 解ってるけどできねーとか 言うんならやめろよ!! 来んな!! こっちは全部 賭けてんだよ 他には何も持てねーくらい 将棋ばっかりだよ 酒呑んで 逃げてんじゃねーよ 弱いヤツには 用はねーんだよっっ」
 
主人公が、敗北した後に不遜な態度をとった対局相手に、一人で怒り叫ぶシーンです。
読んだ時、ほぼ同じことを、天才の彼からも言われた記憶がありました。
 
マンガの主人公である桐山は、生きるために将棋を始め、それまでの人生の全てを将棋に捧げてきました。だからこそ、覚悟もなく中途半端に勝利を望む存在に怒りを覚えたのだと思います。
このセリフと同じことを彼が言っていたということは、もしかしたら彼も桐山同様に、持てる全てをアメフトに注いでいたんじゃないかと、そう思いました。才能でなんでもピピっとこなしてきたわけではなく、できないことをなんとかしてできるようにしようと、見えないところで人知れずもがき続けてきたのではないかと。
 
僕は答え合わせをすることにしました。この仮説を証明するために。そして、かつて抱いていた彼への否定は、ただの憶測にすぎなかったと確かめるために。
 
酒を飲みながら、一つ一つ尋ねました。
理解されない孤独はあったか。
嫌われるとわかっていても、言わなきゃいけないと思って言ったんじゃないか。
才能を言い訳にするヘタレに怒りは感じたか。
死ぬほど努力したと自分でも言えるか。
抱えた才能の大きさだけ、苦しみも同じくらい大きくなると思うか。
その全てに、彼はYESと答えました。
 
僕はまだ、僕になんの才能があるのかはわかりません。28歳になっても。情けない限りです。
でも、天才という言葉は、この先使わないようにしようと思うんです。才能を言い訳にしないでおこうと思うんです。
その言葉を使ってしまうと、彼の努力を認めなかったことになる気がするからです。孤独と戦いながらも、仲間のために嫌なことを言って、自ら悪者になった彼の意志に、気が付けない自分のままでいてしまう気がするからです。
 
この先僕は、僕のことを怒ってくれた、変えてくれた彼にとっての本当の仲間になりたい。今度は、助けてもらってばかりじゃなくて、助けられる人になりたい。対等な、本当の仲間になりたい。
 
彼がいつか、僕のことを親友と言ってくれる日が来たらいいなと思っています。
そして僕自身もいつか、胸を張って、彼の親友だと名乗れる日が来ることを願っています。
 
 
 
 
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2020-03-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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