メディアグランプリ

筋トレとは新しい顔のことである


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:はらますみ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
ここ数年、話題にのぼることが増えた「筋トレ」というワード。
その名の通り「筋力トレーニング」のことであり、ダイエットや健康維持など、取り組む人によってその目的は様々だ。
 
巷では「ボディメイク」と呼ばれており、老若男女、こぞってジムに集まり理想の体型を目指し汗を掻く。
見ているこちらが恥ずかしくなるくらいウエストが晒されたウェアを身につけ、
プロテインを飲み、日々トレーニングに邁進する。
 
これまで、気分が乗ってジムの契約をしては、何かしら言い訳を作って通わなくなる… を繰り返していた私にとって、
そんな筋肉の世界はもう縁がないと思っていた。
一ヶ月前までは。
 
2020年2月の三連休初日、私は恋人と別れた。
破局の理由はここでは伏せることとするが、とにかく悲しくて苦しくて辛くて、行き場のない感情が涙となって溢れ出る日々。
今思い返すと、連休中の私の顔は誰が見ても引くくらいパンパンに腫れていたし、べちょべちょに湿っていた。
 
「顔が濡れて力が出ない」
このフレーズ、まさか自分の人生で本気で思うことになるとは。
 
一緒に住んでいた部屋から移動させた自分の荷物。
これまでLINEでやりとりした、沢山のメッセージ。
誕生日やクリスマスに貰ったプレゼント。
一緒に見ていたYoutubeチャンネルの動画。
 
仕上げは、一年前に二人で撮った写真をご丁寧に通知してくれる携帯電話。
 
iPhone「一年前の思い出の写真です」
…… やめてくれ。
 
私の周りを取り囲むものは、私の心を殴り続けるには十分な材料ばかりだった。
 
そんな材料たちに殴られるたび、
「もっとこうしていればよかった」「あの時、ああしなければよかった」
毎日毎日、こうしてタラレバを思い、自分の過去の言動を思い出しては苦しむ日々を送っていた。
 
そんなある日のことだった。
私は毎日就寝前にYoutubeを見るのが日課なのだが、たまたまある動画に出会った。
20代半ばくらいの可愛らしい女性が、30日間毎日ひたすら筋トレを続ける姿を残した動画だ。
 
映っているのは筋トレというワードでイメージしがちな、黒光りした手羽先のような女性ではない。
いい意味でそこらへんにいそうな、なぜか親近感の湧く、優しい喋り方がとっても可愛い女の子。
筋トレという言葉とは似つかわしいその彼女が動画内で取り組んでいるメニューは全部で10種類。
1種類30秒ずつなので、全部やっても5分で終わるセットメニューだ。
 
動画内の彼女は、自分なりに負荷を掛けたり、出来なかった日の翌日に2セット取り組んだり。
ダイエット中の女性によくある「しなくちゃいけない」「苦しい」みたいなマイナスオーラが全くなく、
自分の意志で、工夫しながら楽しんで筋トレに取り組んでいるように見えた。
 
そして全種類やりきったあと、「皆さんも一緒にやりましょう」と爽やかに笑うその姿は、
顔が濡れて力が出ないなどと言っている自分とは、全く違う生き物のように見えた。
 
なぜかわからないが、自分の中で衝撃が走った。
いつまでもこんな風にじめじめしたくない。
この子みたいに、毎日晴れ晴れした表情で過ごしたい、と。
 
そこから、就寝前に毎日同じメニューを必ず行うようになった。
これまで、足を運ぶこともないジムに計20万近くの会費を垂れ流していた自分が、
あの衝撃を受けた日から、毎日自宅で筋トレを継続している。
自分でも信じられないが、本当に継続しているからすごい。
 
はじめはとにかく動画内の動きを真似するだけだったが、
今では身体の構造や食事に関する本を読んだり、
インターネットや書籍で探した他のメニューも併せて取り組んでいる。
 
最初の半月くらいは汗を滝のように流しながら取り組んでいた5分間が、
今ではやらないと気持ち悪くて寝られないほど、自分の生活に馴染んでいる。
 
自分の身体がどんな動きをすると、効かせたい部分にきちんと負荷がかかるのか。
部活などでスポーツを続けていた人には当たり前の感覚かもしれないが、
ずっと文化部だった自分にとっては、新しい感覚だった。
この歳になってもこうして新しい感覚に出会えることに、一人で喜びを感じている。
 
鍛えたい場所に神経を集中させ、一日の終わりに自分の身体と向き合う時間。
これまでの、流されるままに日々を過ごしていた自分ではきっと持てていなかった時間だろう。
 
この習慣は、顔が濡れて力がでない私にとっての「新しい顔」だった。
 
あの日たまたま出会ったあの動画の彼女は、私にとってのバタコさんだったようだ。
 
 
 
 
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2020-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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