屍のポーズのすすめ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:古畑 佑奈(ライティング・ゼミ平日コース)
「自分の外側にあるものではなく、内側にあるものを見つめて」
屍のポーズをとるとき、ヨガのインストラクターは語りかける。
私は、心を無にしようと試みる。
これがどうしてなかなか、難しい。
ヨガに通いはじめたのは、数ヶ月前。
きっかけは、旅先で会った、インドに住む青年、Kさんとの出会いだった。
Kさんにはオーラがあった。
正直なところ、私は科学的でないことはあまり信じない質である。
しかし、彼には確かにオーラがあった。
不思議な落ち着き。どっしりと、何事にも動じないような、内面の力強さ。確固たる意志。
まるで、山の仙人のような、常人ではないオーラを感じた。
旅の途中で出会った私たちは、インドの哲学や、インドの占星術ついて話した。というか、それらについてひたすら彼に教えてもらった。
インド哲学の話の中でも、ヨガの話はとても興味深かった。
そもそも、ヨガはサンスクリット語で「つながり」を意味するそうだ。
心と身体、魂のつながり、調和をめざして行うすべてのことがヨガなのだという。
私は、すっかり彼の話を聞き込んでしまった。
彼はインドに住みながら、毎日2時間ほどヨガをし、自分と向き合う時間を持っているのだという。
ただただ、「かっこいい」と感じた。
それは、彼が常に世の中の何か、ではなく、彼自身と向かい合っているからであった。
世の中の動きに惑わされるのではなく、その動きに対して動じない、自分の核を持っていた。
私も、こんなオーラのある人になりたい。
そんなわけで、ヨガに通いはじめた。
ヨガには、さまざまなポーズがあり、それぞれ名前がついている。
立ち木のポーズ。
下向きの犬のポーズ。
戦士のポーズ。
などなど。
呼吸を大事にしながら、普段使わない身体の節々を伸ばしたりバランスをとったり、気持ちがいい。
中でも、最後にとる屍のポーズ。
床に仰向けに横たわり、両腕はこぶし1個分くらい、身体から離す。足は肩幅に広げ、ひたすら脱力。
私は、このポーズがとても気に入っている。
(決して楽だから、ではない)
ただただ、自分の内側と向き合う時間。
ためしに、今から、「何も考えず、心を無にして」15秒間、目をつぶってほしい。
1……2……3……
……15
心を無に、できただろうか?
けっこう、難しい。
感情を手放すことで、心を無にする。頭では分かっていても、無にしようと強く思えば思うほど、できない。
どうしても、今日のご飯のこととか、仕事のちょっとした不安とか、LINEの返信をしていなかったなぁとか、そんなことが次々と頭から浮かんでくる。
「頭に浮かんでくることは否定せず、ただ、それをぼーっと遠くから眺めて」
ささやくようなインストラクターの優しい声、そのあとしばらく無音が続く。
うーん、そうは言っても次から次へと、頭に物事が浮かんできてしまう。
それらをもぐらたたきのように叩きたくなる。
今は心を無にしたい。
思えば思うほど、遠ざかっていく気がする。
同時に、日々さまざまなことに忙殺され、こんなに静かな空間で、自分と向き合うことはあっただろうか、と考える。
時間があれば、すぐにスマートフォンを開いてしまう、日常。そこには膨大な情報があり、刻々と変化する。新しい情報が溢れかえっている。
気づけば追いつくことに必死で、自分の考えは置き去りにして、周りがなにを考えているかに敏感になっている。そして、置いていかれないように、新しい情報を収集しようと必死になる。
あれ、私って、じつは、空っぽなんじゃないか。
ただただ情報を「私」という穴を通して通過させているだけなんじゃないか。
私が「私」であると、何を持って言えるのか。
悶々としながら、自分の呼吸に意識を持っていく。
深く、おなかに酸素をとりこむ。
長く、息を吐ききる。
一呼吸、一呼吸を丁寧に行うことで、私が「私」をいたわっている、という感覚が芽生えてくる。
私がいつか屍になるとき、いったいなにを考えるのだろうか。
屍のポーズをとるとき、当初、こんこんと泉のように湧いていた雑念は、だんだんとどうでもいいことになっていく。
日々がんばっている私。身体も頭も、究極に脱力して、今の「私」と向き合う。
まだまだ、日々の小さなことで自信を失くしたり、投げやりになってしまったり。大事な人に、ちょっといじわるなことを言ってしまったり。
仙人のようなオーラには、程遠い自分。
ヨガの世界では、そんなダメな自分も受け入れる。
今、ここにいる自分と向き合うことを大切にする。
屍のポーズは、日々を一生懸命に生きている私たちを、いたわってくれる。
私は淡々と、ポーズをとり続ける。
いつか、誰もが驚くオーラを身につける日まで。
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