いつもお世話になっております
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:相内 洋輔(ライティング・ゼミ平日コース)
「いつもお世話になっております」
ビジネスメールは、ほとんどの場合この一句から始まる。
本当にお世話になっているかどうかはさておき。
最近ふと、家事ってメールの書き出しによく似ているなぁと思った。
「お世話になっております」と書かれていないメールを見つけるのが相当困難であるのと同じように、
料理、お皿洗い、お風呂掃除、玄関の清掃などなど、手洗いを必要としない家事を見つけることは、ほぼ不可能だからだ。
こんなに手を洗う回数があるのか…?
とビックリしてしまうくらい、家事と手洗いは切り離すことができない。
恥ずかしながら、ぼくはこの34年間、全くそんなことは知らなかった。
なぜならぼくは、自他共に認める、家事に無関心なずぼら人間だったからだ。
例えばこんなエピソードがある。
ぼくが小学生の時に所属していた野球部では、毎週末に練習があり、必ずお弁当を持参していた。
だが当時のぼくには、帰宅してから弁当箱を流し場へ置くという、当たり前のことができなかった。家に着いた途端、弁当箱をカバンから出す、というミッションをすっかり忘れてまって……。
そうして弁当箱の存在を思い出すのは、決まって翌週の土曜日の朝だった。
「またやってしまった……」
強烈な腐臭と、緑色に茂った芝生のようなカビを見て、その度に心から後悔したが、ぼくはこの愚かな行為を、3年間で20回は繰り返したと思う。
最後には、7つ下の妹も含めた家族中が呆れていた。
もちろん社会人になったからと言って、元来のだらしない性格が急に改善することはなかった。
初めての赴任地だった岡山県からの異動が決まった時は、部屋中に洋服や本などが散乱し足の踏み場が無く、とても一人で梱包を行うなんて無理だと思った。
さんざん悩んだ挙句、ぼくは同じチームで面倒見が良かったお母さんのような先輩に頼み込んで、手伝ってもらった。
「ちょ、あんた、なんでこんなことになっとん!? ホンマやめて……」
部屋に入った途端、先輩の顔が一気に曇ったことは忘れない。Y先輩、あの時は本当にありがとうございました。
こんな家事とは無縁のぼくが、「家事には手洗いが必須だ」という実感を得たのは、つい最近のこと。2年前にフリーランスとして独立し、家を職場にすると決めたのがきっかけになった。
「家にいるんだから、もっと家事やれるでしょう?」
妻の期待が高まったのは必然だと思う。ぼくは家にいるわけだし、妻は仕事で外出するのだから。
でもこうした妻の主張に対し、ぼくは最初、真っ向から反発した。
「家にいるからって家事ができると思うな! 家には仕事をするためにいるんだ!」
と。
妻はまったく納得がいっていない様子に見えたが、こちらは独立をしたばかり。ちゃんと家族を食べさせていけるのか、任せてもらった仕事で価値を返せるのか、心配が無限にあった。
そのため、
「起きている間は、全ての時間を仕事に捧げたい!」
と心から思っていたので、家事はあまりしたくなかった。むしろ、無駄で仕方のない行為だと思っていた。
そんな日々を続けていたら、とても分かりやすいくらい夫婦仲が悪化した(笑)
(こっちは独立したてで不安なんだよ、もっと察しろよ……)
家の中はピリピリしていたが、むしろ自分を正当化して仕事に没頭した。
こうした日々が半年くらい続いた時、なんだかどっと疲れている自分がいることに、ふと気が付いた。もう何もやりたくないと思った。
ショックだった。
なんのためにムリしてあくせく働いて来たというのか!?
それで少し冷静になって、じっくり考えてみた。
家族が安心して、楽しく暮らせるように、頑張って仕事の基盤を作りたい!
そう思っているのに、
収入を得るために、家族を後回しにして、ギスギスしているなんて、本末転倒じゃない?
大切なことに気づいた瞬間だった。
それからぼくは、家の中に流れる空気を変えるべく、家事に取り組むことにした。
手始めに着手したのは、朝の洗濯。
ぼくが洗濯をすれば、娘が妻と一緒に過ごせる時間が増えて、もっと2人が楽しくなるんじゃないかと思ったのだ。
これまで我が家は「あなたが干すと洗濯物がしわだらけになる」という理由から、ぼくが洗濯物を干すことは禁じられていたのだが、
妻も「朝は娘と一緒に過ごしたほうが登園がスムーズになるのではないか?」と考えていたらしく、付き合ってから15年目にして初めて許可が出た。
そうすると本当に、娘がご機嫌に過ごす時間が増えた。
手ごたえを感じたし、まずはお金を稼ぐことに躍起になるより、家事を積極的にして、家の中を平穏にしようと思えた。
洗濯に加えて、掃除機がけ、朝ごはんの皿洗い、夜ご飯の調理と片付けが日課となるまで、あまり時間はかからなかった。
娘の送り迎えに加えて、これらの家事をやり始めたことで、1日のうち、仕事に使える時間が1~2時間程度減った。正直、時間だけを見るとビビる。
でも、今はこれでぜんぜん困ってないし、むしろ最近の我が家は皆ご機嫌だから、とても心地が良い。
そして何より嬉しかったのは、妻の手荒れが消えたことだ。
妻は出会った15年前から、ずっと手荒れの傾向が強く、冬ともなれば毎日あかぎれを起こし、辛そうにしていた。
そんな妻の手が、今年は全く痛そうじゃない。どこを見ても、ツルツル!
これは妻の家事が減って、手を洗う回数が減ったことによる成果だ。
代わりにぼくの手が少しだけ荒れるようになったけど、ちょっと荒れている自分の手が、むしろ誇らしく感じられる。家事をやり始めて、本当に良かった!
このように大進化を遂げたぼくだが、実は、まだ妻の許しを得ることができていない家事がある。
洗濯物をたたむことだ。
「あなたがたたむと、しわだらけになるからね」妻はそう言って笑っている。
いつかはぼくも、洗濯物を上手にたたんでみせようと思うけれど、それはまでもうしばらく妻に甘えておこうと思う。
洗濯物をたたむのは、ほぼ唯一、手洗いをしなくてOKな家事だから、きっと妻も許してくれるだろう。
山あり谷ありの15年間、妻にはいつもお世話になっております。
今後ともどうぞよろしく。
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
http://tenro-in.com/zemi/103447
天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら
天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
天狼院書店「プレイアトレ土浦店」 〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
【天狼院書店へのお問い合わせ】
【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。