“燃える火”が私にのこしてくれたもの
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:竹下優(ライティング・ゼミ 平日コース)
「私は孤独死しても、行き倒れても構わん! とにかく家で暮らす! 1人で暮らす!」
祖母は、火のような人でした。
ひとたび燃えさかったが最後、あたり一面を焼き尽くすまで落ち着く気配などありません。
家族はなす術などなく、ただひたすら“鎮火”のときを待つのみでした。
何でも自分で決めないと、気が済まない。
自分の決めたことは、絶対に曲げない。
そのためには、周囲と対立しても致し方ない。
晩年、持病も増え、足腰も弱った頃に、
老人ホームへの入居を勧めたところ、飛び出したのが、冒頭の一言です。
いやいや、家族は行き倒れて欲しくないんですよ。
1人では、どうやったって暮らせないでしょう。
何度も何度も説得を試みましたが、ますます強情につっぱねるばかり。
こちらも疲弊してしまい、
「おばあちゃんのことはもう、何も言わんけん。自分で勝手にしたら良いたい」と
匙を投げてしまったのでした。
ところが。
ある日突然、
「私やっぱり、施設に入ることにしたけん。どっか探しちゃんしゃい」
…何ですと?
これまで散々、家族が勧めても頑として首を縦に振らなかったのに?
まさか…
「自分の生き方について、他人の勧めに従う」
という、構図そのものが、嫌だったということですか…?
3ヶ月ほど続いた大騒動が落ち着いたことに胸を撫で下ろしたものの、
どこまでも我が道を行く祖母に、苦笑いしか浮かべられませんでした。
あれから、2年。
2020年、3月16日。
89歳の祖母は驚くほどあっけなく、この世を去りました。
朝には看護師さんと、ちょっとした会話をしていたそうなのですが、
午後に容態が急変。
家族が病院に駆けつけた時には、もう意識がありませんでした。
病気のデパートのような人でしたから、そう長くは生きないだろうと思っていました。
けれど、つい最近まで
「長生きやら、せんで良かけん、好きなものを食べる」と
唐揚げやカップ焼きそば、チョコレートを嬉しそうに食べていたので
旅立ちがすぐそこに迫っていることなど、ちっとも気がつかなかったのです。
クセの強い祖母のこと。
人生の幕引きが近づいたらきっと、あと、もう1回くらいは家族を困らせる事件を起こすに違いない。
そう睨んでいた私の予想は、あっさりと外れてしまいました。
そう、祖母は、火のような人なのです。
火は、燃えさかると脅威になりますが、
一方で、身体を、心を、温かく包み込んでくれるものでもあります。
強気に我が道を行く性格ではありながら、誰よりも家族を愛し、
家族のためならどんな労も厭わない人でした。
「おばあちゃんの巻き寿司が食べたいな」
子どもの頃、運動会や誕生日など、イベントのたびにおねだりしていました。
祖母は、70代の後半まで、その願いを快く引き受け
夜通し台所に立ち続け、山のように巻き寿司をこしらえてくれました。
ほかにも…
「犬が飼いたい」「パソコンが欲しい」「成人のお祝いにブランドのバッグが欲しい」
高額な買い物は全て祖母におねだりし、
そのたびに祖母は、目を皿のようにして家計簿を見つめ、年金を切り詰め
全て買い与えてくれたのでした。
思い返せば、それはそれは豊かに、愛情を注がれていたのです。
たまに起きる“火事”のせいで、私は、祖母という火のあたたかさを、優しさを、見失っていたのです。
「家族に迷惑をかけたくないけん、ボケたくなか」
「家族が大変やろうけん、死ぬまでトイレは自分でしたい」
ここ数年、祖母が口癖のように繰り返していた言葉です。
最期までボケることなく、
毎日、新聞を読むことと、スポーツ中継を観ることを楽しみにしていました。
けれど、看護師さんによると
亡くなる日の朝、身体がだるいので、トイレに立つのがきつい。
しばらくオムツをつけようか、と話したそうです。
愛する家族の負担にはならない。
きっと、そう決めたからこそ、祖母は、さっと、1人で旅立ったのでしょう。
家族としては、もう少しお世話をしたかったし、最期も傍らにいたかったのですが
決めたことは曲げない人ですから、仕方ありません。
孤独を引き受ける覚悟と、潔さ。
それがあったからこそ、“自分らしさ”を最期まで貫くことが出来た祖母。
「私は、こげんやって生きたばい。あんたは、どげん生きるとね」
遺された私は、そう問いかけられているように感じます。
温かな愛を注いでもらった。
強い、潔い、“生き様”を見せてもらった。
祖母からの2つの大きな贈り物は、
“これからの人生”という夜道を歩く時、松明となって、行く先を照らしてくれるに違いありません。
だからどうか、これを読んでくれた、あなたも。
身の周りにいる“ちょっと短気な人”を、“ちょっと頑固な人”を、
いつもよりほんの少しだけ、優しい気持ちで見つめてあげてください。
その人も、燃える火のような人かもしれません。
余計なトラブルに巻き込まれるかもしれません。
「ほとほと愛想が尽きた!」
そう、叫びだしたくなることもあるでしょう。
けれど。
あなたの心が凍えてしまった時に、誰よりも近くに寄り添ってくれて、
あなたが夜道に迷った時、行く先を照らしてくれる人かも、しれませんよ。
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