贈ったつもりが貰っていた綾ちゃんの誕生日プレゼント
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:さかの(ライティング・ゼミ平日コース)
私はプレゼントを選ぶのが苦手だ。
進学祝い、就職祝い、結婚祝いのように、何かテーマのある贈り物なら新生活で使えそうなものを選んで贈ることができるが、毎年訪れる「誕生日プレゼント」が一番難しい。
特に女の子同士の友情は、物を贈り合うことで仲を深めるようなところがある。
中学校、高校の頃は、仲良しグループの誰かが誕生日を迎えるたびに、昼休みに「プレゼントお渡し会」が敢行された。学校で使える文房具や雑貨が定番で、基本的にはどんなものを渡しても喜んでもらえるのだが、他の友人もいる中でプレゼントを開封されるあの瞬間は、なんだかとても緊張する。普段からセンスの良い友人は、やはりプレゼントもお洒落だし、普段から面白い友人は、やはりプレゼントでもひと笑いとる。普段からマメな友人は、手作りのフォトアルバムで思い出をまとめていたりして、こちらもやはり感動的である。
普段からどれだけ相手を観察しているか。何を贈ったら相手に最も喜んでもらえるか。渡すタイミングやラッピングひとつとっても、どんな演出が効果的なのか、実によく考えられている。加えてそこにさりげなく「自分らしさ」も演出できれば完璧だ。
最初は純粋に「相手を祝うため」のプレゼントお渡し会が、年を追うごとに「熱意とセンスのお披露目会」と化していた。私は次第に、「誕生日プレゼント」にプレッシャーを感じるようになる。「ぷっくりシール」や「ラメペン」では、もはや戦えない。
「趣味じゃないかもしれない」
「すでに似たようなのを持ってた気がする」
「3,000円ぐらいのものもらったから、そのぐらい出さなきゃな……」
「入浴剤じゃありきたりかなぁ」
考えれば考えるほどキリがない。明確な正解もない。
一度、考えあぐねて母親に相談したところ、「バカバカしい。学生なんだからお菓子でも渡しておけばいいじゃない」と一掃された。たしかにそれも一理ある。しかし、私たちのプレゼント交換合戦は年々激化しており、ここに来て突然ポッキーで離脱するわけにはいかない。
そんなわけで、友人の誕生日が近づくたびに、私は頭を抱えた。
今まで誰にも言ったことはないが、友達同士のプレゼントお渡し会は私にとって「めんどくさくてしんどい儀式」以外の何物でもなかった。
……綾ちゃんと出会うまでは。
綾ちゃんとは、大学のボランティアサークルで出会った。
田舎の高校を卒業し、都内の大学に進学した私は、入学早々周りの学生たちの華やかさに圧倒されていた。服装や持ち物はもちろん、髪型やメイクも都会的でこなれている。特に、幼稚舎からの内部生で社長令嬢の綾ちゃんは、中でも一際お洒落で目立つ存在だった。はじめのうちは彼女の洗練された雰囲気に怖気付いていたが、話してみると意外と気さくで親しみやすい性格で、一緒にいてとても心地良かった。学部が同じだったこともあり、私と綾ちゃんは4月が終わる頃にはすっかり打ち解け、よく2人で遊ぶようになった。
綾ちゃんと私の遊びは、空きコマでカフェに行ったり、学食でひたすらお喋りしたり、空き教室で好きな音楽をかけながら課題をしたり、天気の良い日はキャンパスの裏庭の芝生でゴロゴロしたり。気取ったところのまるでない綾ちゃんと過ごす時間は、いつも緩やかでのんびりとしていた。
音楽の趣味が似ていたので、綾ちゃんとは音楽の話をすることが多かった。
9月の私の誕生日には、綾ちゃんは一人暮らしでオーディオ機器を持っていなかった私にスマホに繋げるBluetoothスピーカーをプレゼントしてくれた。しかも色は私の好きなサーモンピンク。普段の何気ない言動から、私が喜びそうなものを考えて選んでくれたのがとても嬉しかった。
綾ちゃんの誕生月は11月。私も、綾ちゃんに喜んでもらえるプレゼントを贈りたい。
私はその日から、綾ちゃんへのプレゼントを意識して生活するようになった。
GUCCI、DIOR、HERMES……
改めて綾ちゃんの持ち物を観察してみると、手の届かないハイブランドばかり。
さらに、彼女は欲しいと思ったものはすぐに自分で買ってしまうので、綾ちゃんが何かを欲しがっている姿を見たことがない。うーん……。
ああでもない、こうでもない、と考えているうちに、あっという間に綾ちゃんの誕生月がやってきた。これ以上時間をかけても何も浮かばないのは明白だったので、私は最終手段をとることにした。
もう、直接聞いてしまおう。
サプライズ感はなくなっても、綾ちゃんの好きそうなものを真似して買って失敗するよりはましである。
私は意を決して、綾ちゃんに誕生日に欲しいものを尋ねた。
彼女から返ってきたのは、実に意外な言葉だった。
「さかのちゃんの描いた絵が欲しい!」
私は拍子抜けしてしまった。聞き間違えたかと思った。
思わず「え、そんなものでいいの?」と聞き返してしまった。
そう言えば、綾ちゃんは普段から私の描く絵を好きだと言ってくれていた。ノートの落書きや、ボランティアサークルで描いた絵などを見ては、綾ちゃんは「LINEスタンプ作ってよ〜」なんて冗談っぽく言っていたけど、あれは半ば本気だったのかもしれない。
私は無印良品で白紙の絵本ノートを買い、綾ちゃんのために絵を描いた。何を描けばいいのかわからなかったが、とりあえずいつも通りの気の抜けたイラストを描いたあと、最後のページは綾ちゃんへのメッセージを綴った。
出来上がった絵本を誕生日に渡すと、綾ちゃんはとても喜んでくれた。
綾ちゃんとは大学を卒業した後も度々一緒に食事をするが、彼女は実家から出た今でもその絵本を大切に持っていてくれているらしい。
もともと絵を描くのは好きだったが、それが誰かへの贈り物になるなんて考えたこともなかった。綾ちゃんは、私より私の絵を大切にしてくれる初めての人だった。
私は綾ちゃんにプレゼントを贈ったつもりでいたけれど、プレゼントを貰ったのはむしろ私の方なのかもしれない。
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