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ホストが守る私の健康


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:竹下優(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「僕を信じて、週に2回だけ、会いに来てください!」
穏やかで優しい声、爽やかな笑顔。
目が合った時には、彼の後ろに、少女マンガさながらのキラキラが見えた…気がした。
 
時は3年前にさかのぼる。
30歳を前にトントン拍子に結婚が決まり、
それでは、と結婚式場の見学会に参加した。
雰囲気も、食事の美味しさも言うことなし!
「ここで結婚式を挙げよう」と2人の意見が一致したところまでは良かったのだ。
 
「挙式はいつ頃を予定していますか?」との問いに、夫が即答する。
「半年後を希望しているので、空いている日程を調べて下さい」
 
はんとしご…?
は、は、半年後!?!?!?!?
 
当時の私は身長169cm、体重69kg、体脂肪40%。
座ると腹回りが苦しいし、ちょっと走るとゼェゼェ息切れする程度には肥満体である。
結婚式はきっと1年ほど先のはずだから、
1ヶ月に1キロずつ落とせば大丈夫だよね、なんて悠長に構えていた。
しかし、半分しか時間の猶予がないとなると、話は大きく違ってくる。
 
「ねぇ、結婚式って1年先くらいを予約するもんじゃないの?」
「うーん、でも早くしないと転勤するかもしれないし。半年で準備できないことって何かあるの?」
 
うっ。
 
「や、やせようと思って」
 
夫は、きょとんとした顔をした後、大笑いしながら正論をのたまった。
「だぁいじょうぶだよ! 半年あって痩せない人は、1年あっても痩せないし!」
 
ぐ、ぐうの音も出ない。
ポッチャリ、コロンとした女性の花嫁姿を揶揄する際に
「鏡餅みたい」「雪だるまみたい」という形容詞を耳にすることがある。
しかし、これはあくまでも小柄で、元は可愛らしい、華奢な身体つきだった人に限られる。
 
ヒールを履くと170cmを超え、ハンガーのような肩幅を誇る私の場合はどうなるか。
和装なら巨大な雪山のように、
ドレスなら“ベイマックス”のようになるのは避けられない。
 
一生に一度の晴れ姿。
子々孫々に受け継がれる記念写真に写る自分が
“白い、巨大な塊”なのは断固として阻止しなければ!
 
とはいえ、生き甲斐は仕事終わりの生ビール、趣味は食べ歩き、特技は“ながら食い”。
休みの日はベッドに飲み物や本を持ち込み、ひねもすゴロゴロする。
どうやったって、自力で痩せられるわけがない。
 
藁にもすがる思いで駆け込んだのは、『パーソナルトレーニング』だった。
 
日焼けした、やたら歯の白いマッチョに追い込まれるんだろうなぁ…
ドアを開ける前からゲンナリしていたのだが、意外や意外。
自分でも信じられないくらい、ハマってしまったのである。
 
まず、思い描いていたような筋肉隆々の鬼トレーナーなんて滅多に見かけない。
みんなキラキラの笑顔で、どんな時でも優しく、ひたすら優しく励ましてくれる。
500g痩せると「大変だったでしょう、素晴らしい! 努力の成果です!」と手を叩き、
1kg増えると「むくむ季節ですから、大丈夫ですよ! 信じてください」と微笑む。
 
“ビジネス褒め”なのは分かっている。分かっているけど、どうにも嬉しいではないか。
大人になると、褒められる、認められるといった事柄から縁遠くなる。
仕事も家事も、大人なんだから出来て当たり前。
頭では理解していても、やはり心のどこかで、満たされぬ承認欲求を抱えていたのだろう。
 
加えて、プロに指導されると、毎回、絶妙に「なんとかクリアできる」課題を与えられる。
スクワットの重りも、ランニングのスピードも、本当にギリギリのところで達成できるよう調整されるのだ。
運動経験の無い私が、重りをもってスクワットができるなんて!
坂道ダッシュを、決められた速さでこなせるなんて!
1時間のトレーニングで何度も「できたっ!」という達成感が得られるのも、病みつきになる。
 
お金を払って、爽やかイケメン(時に美女)に褒めそやかされ、達成感を味わう…
これってもしかして、テレビでよく見る、アレに似てないか?
 
ホストクラブ。
 
お金を払い、こちらの心をくすぐるトークで良い気分にしてもらう。
気が大きくなったところで、「ちょっと高いな、厳しいな」と思いながらも、ドリンクを注文してあげる達成感。
加えて、相手の時間を独占しているからこそ生まれる
「この人のために、お金を使ってあげなきゃ! 私が通わなくちゃ!」というマインド。
 
完全に、同じ構図である。
おまけに健康的に引き締まった身体も手に入るのだから、そりゃハマる訳だわ。
 
夫や友人が「さぞ苦しかろう、辛かろう」と応援してくれるのを良いことに
私は大手を振って、この、週に2回の健全な「ホストクラブ通い」に明け暮れ、
見事、半年で12kgの減量に成功。
結婚式では、あまりの変貌ぶりに、新婦側の招待客が「よくここまで仕上げたなぁ……」と
口々に漏らしたのであった。
 
その後、周囲に盛大なリバウンドを期待され続けること3年。
体重は5kgほど戻ったが、なんとか一定のラインをキープし続けている。
座ると腹の肉が邪魔だが、苦しいとまではいかないし
横断歩道で信号が点滅していたら、迷うことなくダッシュできるようになった。
 
「よく保ってるよね」
「ジムに通い続けられるなんて、変わったよねぇ。本当にストイック」
 
各所からお褒めの言葉を頂くが、何のことはない。
私の健康は、ホストが守ってくれている。
私は変わらず、週に2回の“健全なホストクラブ通い”を楽しみ続けているだけ、なのだ!
けれど、せっかくの“褒められチャンス”なので、もうしばらくは種明かしをせず、
お褒めの言葉に浮かれていようと思っている。
 
 
 
 
***
 
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2020-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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