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生協のスタッフから子どもとのコミュニケーションを学ぶ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:安平 章吾(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
子育てをしている中で、子どもの気持ちが分からないことほど辛いことはないだろう。
 
赤ちゃんが話せて、直接気持ちを伝えてくれたらいいのに、と何度思ったことか。
おそらく、ほとんどの親が考えていることのはずである。
 
私もかなり辛い体験をしてきた。
 
特に娘が生まれたときは初めての育児ということもあり、苦労の連続だった。
 
毎日が初めてのことであり、これまでに経験のしたことがないことが次々に起きて、日々、何かに追われている気がしていた。
 
中でも夜泣きはかなり堪えた。
 
毎日、長時間夜泣きが続くと終わりがないような絶望を味わった。
 
ようやく寝かしつけができたと思ったら、布団に置いた瞬間に起きたり、やっと寝たと思ったらすぐに起きる。これが毎日繰り返される。
 
何がそんなに不満なのか、何に対して怒っていて、どんな嫌なことがあったのか、本人に聞いてみても分かるはずがない。
 
一生懸命あやして、落ち着いたときには私と妻がお互いにぐったりしていた。
 
いつになったら、落ち着いてくれるのか。
先が見えない子育てに不安しかなく、楽しさよりも辛さが日々増えていった。
 
そんな毎日を過ごし、娘が生まれて1年ほど過ぎたときである。
 
毎週水曜日に商品を届けてくれている生協のスタッフを、娘が凝視していた。
 
あまりにもずっと見つめているものであったので、妻が娘に教えた。
 
「あれはね、生協のお兄さんだよ」
 
乳児に何を教えてるんだ、と私は心の中で妻に突っ込んだ。
 
と同時に娘が初めて喋った。
 
「けーころりーたん」
 
私と妻は何のことか全く分からなかった。
しかし、娘が何かを見て話したのは初めてのことだったのでとても嬉しかった。
 
「けーころりーたん」
 
娘の喋りは止まらない。
あまりにも何度も言うものだから、何を言っているのか理解したかったが、何を意味しているのか私も妻も理解ができなかった。
 
しかし、娘は今までに見せたことがない笑顔で私たち親のことを見つめ、何かを期待しているような眼差しだ。
 
もしかしたら、先程見た生協のことかな、と思ったので、私が何の気無しに言い返した。
 
「けーころりーたん?」
 
娘は大笑いし、それを見て私も妻も大笑いした。
何より、娘と初めて言葉で通じ合ってコミュニケーションを取れたことが心の底から嬉しかった。
 
それからというもの、毎週水曜日が楽しみになった。仕事がノー残業DAYということもあり、定時と同時に職場を飛び出して家に帰り、娘と生協のスタッフが家に来るのを待った。
 
チャイムがなった瞬間、娘と言う。
 
「けーころりーたん!」
 
言葉にはなっていないが、お互いの共通認識ができたことに計り知れないほどの喜びを感じていた。
 
それから、いくつか娘とは言葉にならない会話を続けた。
 
「くしゅ(くつ)」、「ぶーぶー(車)」、「つーつーさ(救急車)」
 
娘の言葉を瞬時に理解出来なかったが、言語にはなっていない言葉で娘と会話するのが毎日が楽しかった。
 
しばらく後、娘が話せるようになって一緒にテレビを見るようになってから気が付いたことであるが、NHKの教育テレビの中で、いくつかは言葉になっていない番組がある。
 
ピングーがその代表であろう。
 
登場人物が全員何を喋っているか全く分からない中でもアニメーションの動きに合わせて何を言っているのか大体理解できる。
 
そのアニメに対して子どもは釘づけになり、何を言っているのか理解しようとしているし、理解できているように見える。
 
大人同士で会話する機会が増えると、どうしても言葉で全てを伝えようとしてしまうが、大事なのは伝え方と理解しようとする姿勢ではないだろうか。
 
今回の育児で、娘からコミュニケーションの極意を学ぶことができたように思う。
 
これは、非常に良い気づきだった。
それから2年後、息子が生まれたが、娘との経験を通じて、それほど苦になることはなかった。
 
私の気持ちは通じている。
 
そう思うと、どんなに泣かれても落ちこむことはなく、言葉は通じないものの、自然と色々なことを話しかけることができた。
もちろん、息子に対しても、言った。
 
「けーころりーたん」
 
反応は娘ほどのものでなかったが、やはり通じ合うことができた。
 
今では娘が4歳、息子が2歳になり、2人ともしっかりと話すことができている。それでも私は毎週水曜日になると、娘に対して言う。
 
「けーころりーたん?」
 
幼なかったあの頃とは違い、今では娘もしっかりと話せるようになったので、
 
「違う、せいきょーのにーちゃん! 」
 
と食い気味に反論される。
 
しかし、大きい声で言っているが、娘は笑顔でどこか嬉しそうな様子である。
 
このやり取りが大好きで、私は今後やめる事は出来ないと思う。
 
コミュニケーションは言葉だけではない。
 
このことに気づかせてくれた子どもたちと、何よりそのきっかけになった生協のスタッフには感謝しきれない。
 
水曜日までは、家族全員で生協の注文票を眺め、生協のスタッフが多く荷物を持ってきてくれるように、気持ち分、多めに商品を購入している。
 
水曜日の「けーころりーたん」が待ち遠しい。
 
 
 
 
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2020-04-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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