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メディアグランプリ

仕事から逃げ出し、声優を目指した32歳の私が見た景色。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ミライ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
_________
「まずいな……」
ちょうど就職して10年目を目前にした頃。
私は突如、眠ることができなくなってしまった。
 
眠ろうと目を閉じても、明日に控えた重要な場面のシミュレーションが何通りも繰り返され、疲労が溜まり気持ちはすり減っていくばかり。
 
― このままではいけない。
そう危機感を募らせながらも好転せず、突発性難聴になって会話に支障が出始め、更に仕事での細かなミスも増えてきたため、診察を受けて睡眠導入剤を処方してもらった。
 
― これで解決!
そう思ったのも束の間、運悪く処方された薬が原因でひどい幻覚作用に悩まされることになった。
 
― ぷつり。
本当に何かが音を立てて切れたように思えたのが、その時だ。
ただ、自分の許容範囲を越える状況下であっても、私にはもう表立って現状に立ち向かう気力も、全てを投げ出す勇気もなく、
「仕事を続けながらも、自分を追い込む原因となる熱意などは忘れ、別のものに逃避する」ことを選択した。
 
そして、そんな投げやりな気持ちで私が逃げた先。
それは「声優を目指す予備校」だった。
 
そして、授業の初日。クラスメイトと対面して私は我に帰った。
 
― やってしまった……!!
 
皆、若い。
最年少は12歳。最年長は私、32歳。年齢が倍どころではない。
 
チャレンジに年齢は関係ないとは言え、中学一年生や高校生、アルバイトで生活費を賄う10代後半の人たちが中心。大学生でも少数派で、「お兄さん、お姉さん」扱い。
もはや社会人など圧倒的少数派!
 
― ほら、少年少女が私を見て体育座りのまま 凍りついている!
― こら!私の両隣も空いてますよ、隅っこに固まらないで!!
 
もともと私はアニメーションが好きで、1人の声優がどのくらい声色や話し方の癖を使い分けて演じているかや、面白いと思う作品の制作会社や監督、音響監督などを調べ、過去の作品に関連付けて観て楽しむ密かな趣味があった。
同じような趣味の人間は職場にはおらず、自ら趣味のことを語る機会も必要性もなかった。だが、この場所はまさに同じような熱量でアニメを観ている人間の集まりだった。
 
よって、社会人チームも個性の強さでは負けていない。
休日はコスプレイヤーとして活躍する会社員と、子育ての合間にイラストレーターとして稼ぎ、腐女子向けの二次創作物執筆をこなす凄腕主婦と、そして大学の職員でボロボロの、私。
 
初めは年齢や社会的な立場の違いに互いに戸惑ったものの、オーディション用自己PRや演技のいいところを褒めあったり、直すべきところを指摘しあったり。
クラス内の対話が多い授業のおかげで、あっという間に私たちは仲間でありライバルになった。
 
オーディション対策では、対象年齢の上限が20代半ばだったため、高校生でモデル志望のクラスメイトから若く見えるメイクやファッション、立ち居振る舞いなどを教えてもらい、堂々と7歳年齢を若く偽って挑んだ(落ちたけど)。
 
また、私はその代わりに、社会人と会話する際の敬語、かしこまった場での服装や振る舞いなどについて、社会人未経験の仲間にアドバイスをさせてもらった。
 
こうして、クラスの中ではそれぞれが異なる経歴や年齢であることを活かして互いにフォローしあう空気ができ、その中で最年長の私はチューターのような役割を担っていくようになった。
 
眠れなくなるほど辛く、頭から離れなかった仕事を完全に忘れて打ち込み、その結果を毎週末披露してフィードバックをもらえることは、視野を広くし、客観的に自分を見つめ直すことに繋がった。
 
また、共に学ぶ仲間が成長していく姿に何より元気をもらえ、その一端にでも自分が関わることができた時には、久しぶりにスキップでもしようか、と思える程に嬉しかった。
 
こうして、私は1年間の授業を修了し、仲間たちと共に予備校を卒業した。卒業する際、年長だった私に、これからどうするのかと先生が聞いてくださった。「良ければここで講師をしないか」と。
 
暖かな申し出に恐縮しながらも、その時には私は迷わずに
「今の職場の中でも、実現したいことが見つかったんです。ありがとうございました。」
とお礼を伝えることができた。
 
現在、私は大学職員として、社会人向けの生涯学習プログラムの企画運営をしている。
ナレーションや自己PRの訓練を受けたことは、セミナーやイベントの司会進行を担当するときに技術として仕事に役立っている。
 
でも、私が夢見ているのは「年齢や立場を問わない学びの場」で、そのために自分自身も勉強・実践しながら、同じように学ぼうとしている人を支援している、近い将来の自分の姿だ。
 
少しずつだが、大学生と70代の会社経営者、30代の会社員の方とが共に学ぶ場はできつつある。教育も社会も大きく変革し、誰もが危機感をもっている今だからこそ、スキルや知識だけでなく「何のためにその力を使うのか」という目的を見出すための学びであれば、多様なクラスメイトとの対話での学びが役に立つ。
 
― いつか、中学生と社会人が肩を並べて学びあうことが、大学の公開講座での当たり前になる。
 
私が今、見ている未来の景色だ。
 
 
 
 
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2020-04-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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