さあ、上海で島旅を
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:渋谷 篤(ライティング・ゼミ通信限定コース)
島が好きだ。島旅が好きだ。
ぼくが島旅に目覚めたのは23歳の頃だから、もう27年前。それ以来仕事の傍ら、あちこちの島を訪れてきた。正確に数えているわけではないけれど、きっと延べ200島以上は行っていると思う。
行動力のある昔の島旅仲間の中には、憧れの島への移住を実現した人もいて、うらやましい。ときどき幸せそうな島での生活を知らせてくれる。
ぼくの拠点は相変わらず千葉。悔しまぎれに、千葉だって、利根川と江戸川と太平洋に囲まれた、れっきとした島だからね、と強がって見せたりする。
たしかに千葉から他県に行こうとすれば、必ず大きな橋を渡らねばならない。だからこそ千葉は画然と千葉なのだ。
そんなぼくが、昨年仕事の都合で中国に単身赴任することとなった。上海で新しい製品のマーケティングをしてみないかと提案された。悪くない話だ。齢50になって、この機会を逃す手はないのかも知れない。頼りになる先輩にも相談して、とうとう受け入れることにした。
20年間千葉に住み続けた身にとって見ればとんでもない大移動であって、寝耳に水、青天の霹靂、ほぼ革命だ。だって、大陸ですよ、大陸。どこまでも際限なく続く大地、遙か地平線に向け一直線に延びる道路、際限なく絶望的な広さ。
学生時代はその悠遠さに憧れた。ユーラシア横断の貧乏旅を計画したこともあった。でもぼくは変わってしまった。島にフィーチャーしてきたぼくにとって問題は、そう、広すぎることだ。
島のいいところは、狭いところ、はっきりと外界と区切られているところだ。
島にいて、岸壁に腰掛け、風を感じ海を見ながら島酒を飲めば、もう島が染み渡ってくる。五感で島を感じることができる。ほかに何もない。行くところもない。見えるものも、聞こえるものもない。
元来、集中力がなくて、気が散るたちなので、右に有名店があれば覗いてみたくなるし、左に絶景があると聞けばそっちにも行かねばならぬ。そんな誘惑のない島というフィールドは、ぼくにとってはなんだか安心できる場所なのだ。
でも上海は大陸の玄関口だ。だから上海で酒を飲んでも、上海は感じない。だいたい上海って何なんだ。中国じゅうから集まる労働者、世界中から集まる食材。のっぺりとどこまでも広がる街。
中国の人口は十四億人。その経済の中心地が上海。だからその上海が面白くないはずがない。ビジネスの可能性だって大きい。こんな場所で仕事ができるのは幸せ以外の何物でもないのは確かだ。
しかしぼくとしては仕事以外でも中国を感じたい。それが回りまわって仕事にも繋がると信じている。
小さな島なら一日歩き回れぱ、島がなんとなく感じられる。でも、上海は広い。そうだ、と思いついた。それなら上海は時間をかけてとことん歩き回ろう。歩き尽くせば何かが感じられるに違いない。
上海の大きな地図を買ってきて、壁に貼った。休日のたびに一日歩き回って、歩いた道をマーキングする。一年で延べ千キロほど歩いた。(上海マラソンも走ったしね) そうして、とうとう気づいた。上海は、じつは、島だった。
上海を散歩するとき、カメラを持っていく。歩いている途中、カメラは鞄に入れている。はっとした瞬間、立ち止まって、カメラを構える。
そうやって一日散歩して、帰って写真を見返してみると、川や水路の風景が多いのに気づいた。上海には、たくさんの水路が縦横無尽に走っている。周辺には柳が植えられ、遊歩道が作られている。市民が散歩している。ジョギングする人もいる。ベンチに座って居眠りをする老人。太極拳の稽古するおばちゃんたち。
水路がどう繋がっているのか気になって、地図を買った。ついでに、上海の古地図も買ってみた。驚いた。上海はことごとく島だった。上海の町中は水路で区切られ、小さな島だらけだ。急に親近感がわいてきた。それに千葉と同じで、水路を渡らないと外には出られない。
上海の街の面白さが少しずつわかってきた。もともと上海は黄河が運んできた泥の堆積の広がりに作られた街だ。縦横に巡らされた水路こそが、この町の原風景なのだ。水路の間の泥の堆積が整地され、家か建てられた。水路に沿って、道が作られた。
道路交通の発達にしたがって、水路自体はどんどん細くなり、その分道が広くなって、いまは広い道が縦横に走る間に、水路が控えめに横たわるだけの街になっているけれど、広い道を越えるたびに街の雰囲気がすこしずつ変わる風景を歩けば、そこにあったであろう水路を感じることができる。
上海も、島だった。
島視線でもう一度上海の街を見てみよう。さらには、東京湾の沖合に伊豆諸島が点在しているのと同様、上海沖には、ホンモノの島も無数に浮かんでいる。
さあ、また、島に、行こう。
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