人生ではじめて万引き犯に遭遇したはなし
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:スガイユカ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
学生時代に書店でアルバイトをしていた時のこと。
私は万引き犯に遭遇しました。
当時のバイト先は、1階が雑誌や文芸誌、2階が専門書、3階が児童書やコミックを扱うお店で、アルバイトはシフトによって勤務するフロアが決まる仕組みになっていました。
駅に近い路面店で、地元では有名な書店グループの本店だったので、朝から晩まで忙しいお店でした。
1階はただただ忙しく、ベテランじゃないとシフトに入れない主戦場。
2階は専門書売り場のため、余裕はあるけど、お客さんからの質問難易度が高いので危険地帯。
3階は基本的に平和で、アルバイト仲間には一番人気のポジションでした。
その日、私は3階のシフトに入っていたので、今日はラッキーだなーと思いながらレジに立っていました。
書店のバイトの仕事というと、レジ打ち・接客・品出し・返品、ブックカバーづくり、そしてコミック売り場では漫画本の袋詰作業がありました。
レジに立ち、接客の合間に、透明のビニール袋に漫画本を詰めていく。
そんな作業をしていると、ふと挙動が怪しい女性を見つけました。見た目は40代ぐらいの女性で、手には大きな黒いトートバックを持っています。
女性はフロアを右へ左へとウロウロしています。
あの人なんだか怪しいなぁ。そう思って、さりげなく目で追いかけていると、女性は私の視線に気づいたのか、エスカレーターで2階に降りていきました。
その後、段々とお客さんも増え、忙しなくレジ打ちをしていると、またあの女性の姿が見えたのです。
エスカレーターで上がってくる姿を目視してからというもの、私の中の万引Gメン魂に火がつきました。
まるでテレビの実録警察24時をみているかのような気分で、視線の先に女性を捕らえるようになりました。
フロアを徘徊するひとりの女性。お目当てのものを探しているのか、話題の新刊を手に取っては戻す。ときおり、周囲を見渡すような仕草……
気づけば、彼女の一挙手一投足に、ナレーションをつけて脳内再生していました。
私は、あまりに気になったので、フロアの整理整頓をするフリをして、女性に近づいてみることにしました。
すれ違いざまに、女性のトートバックを確認してみたところ、まだ何も入っていない様子だったので、引き続き観察を続けることにしました。
商品の補充をしながら、女性の様子を伺ってみるも、時にキョロキョロしながら、店内をウロウロしているだけ。
これはいよいよ、商品の物色をしているのではないか。犯行に及ぶのも時間の問題だろう。
そう思った私はレジに戻り、監視カメラの映像にも目を配りながら、つぎに社員さんが来たら、不審者がいることを伝えねば! と使命感に燃えていました。
そんな日に限って、社員さんはなかなか現れません。
まだ万引き犯と確定したわけでもないので、軽はずみな行動は取れません。
私が3階の安全を守らねば。そんなことを思って女性を見張っていると、女性はまた2階へ下りていきました。
もしかしたら2階の専門書を狙うのかもしれない。妄想を膨らませていると、目の前に店長が現れました。
「店長! 店内にあやしい女性がいるんです!」そう伝えると、店長は、「え? どんな人だった?」と尋ねるので、私はこれまで見てきたことをそのまま伝えました。
「40代ぐらいの女性で、髪は肩ぐらい。パーマがかかっていて、黒いトートバクを持っています。さっきから2階と3階をいったりきたりしています。でも、何かを探している様子もなく、ずっとウロウロしているんです。あやしいですよね」
そう言うと、店長は、「あ……あのね、その人はね、万引Gメンだから」と言ったのです。
私は耳を疑いました。「え? Gメン?」あれほどまでに私の中で不審者扱いしていたあの女性が万引Gメン?
まさか?
そう思って、一連のことを振り返ってみると、店内をウロウロしていたのは巡回をしていただけ……?周囲を気にしていたのは万引き犯を見張っていたため?
店長に早とちりのお詫びを伝え、レジ打ちに集中集中! と気持ちを整えていると、不審な女性もとい万引Gメンがまたしても3階に現れました。
するとGメンは店長に目配せをして、マンガコーナーの一角にいた男性に声をかけたのです。そして数秒後にはガッチリと男性の腕をつかみ、店長とともに別室へ消えていったのでした。
なんということでしょう。万引き犯だと思っていた女性はあろうことか、万引Gメンだったなんて。そして、しっかり任務を遂行していらっしゃる。真の万引き犯は他にいたのです。
穴があったら入りたいとはこのことだ。と人生ではじめて穴を掘りたくなりました。
この日以来、万引き犯探しは十分注意するようになったことは言うまでもありませんが、良い教訓になりました。
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