入院という最高の内省環境を求めて
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:近藤佑子(ライティング・ゼミ平日コース)
「深い睡眠をとったなぁ」
と思いながら目覚めた私は、手術室にいた。夢は見なかった。
身体がそこまでだるいわけではなく、息も苦しくない。
気管に入っていた太い管を抜かれると、会話すらできた。
昨年、私は人生2度目の全身麻酔の手術をした。
1度目は、さらに1年前の2018年。
歯科矯正にともなう顎の骨を切る外科手術で9日間入院した。
手術直後は、集中治療室の相部屋版のような部屋で、血や痰を吸引しながら、夜明けを今か今かと待ちわびる時間は、苦しいやら暇すぎるやらで人生で一番苦痛な瞬間だった。
その点、2度目の手術は、顎の骨を止めていた金属を取り出す手術で、手術時間も短く、すぐ病室に戻って来られた。
1度目の手術と違って何が楽かって、看護師さんにすぐスマホを出してもらえたこと。
100万倍くらい気が楽だ。
体調はこれから良くなるだけ、暇で何もやることがない。
しかし、行動を制限されている。
そんな私は、恋愛と自己肯定感について思いを巡らせていた。
当時、気になっている男性に飲みに行こうと連絡をして、せっかくアポが取れたのに、「日程間違えてたから」とドタキャンされてしまっていた。
「しばらく忙しいけど落ち着いたら飲みに行こう」とも言われたし、ドタキャンに本当に悪気がないことも分かっていたけど、彼への思いをすっかり手放せた今なら分かる。彼の、私への優先度はだいぶ低かった。
そういうわけで、恋愛の悩みに向き合おうという発想になったのだ。
私が何か新しい知見を得たいと思うときには、Amazonの電子書籍読み放題サービス「Kindle Unlimited」で本を探すことから始める。
「恋愛」などのキーワードで探すと、ある本が目に止まった。
その本の名は『自己肯定感からパートナーシップを変える方法』という。
著者の中村あきら氏は「あげまん理論」という名前の独自理論を提唱している。
「あげまん理論」という名前の印象や、自費出版のような本の作りから、やや読み始めるのに抵抗があった。
その本には、円満なパートナーシップにおいて、女性は、男性を心から応援する「あげまん」でいる必要があり、そのためには「自己肯定感」を持つことが重要であると書かれていた。さらに紹介されているダメな例は、過去の恋愛の失敗において思い当たるフシもあった。
中身は的を得ているように思えた。
「自己肯定感というキーワードは、追求してみる価値があるのかもしれない」
そんなふうに思えたのだ。
その本を読み終わった後も、暇でしょうがないのをいいことに、Kindleで、恋愛や自己肯定感に関する本を購入しては読み漁っていた。
入院する前の私は、日々の忙しさに追われていた。
仕事が忙しくやりがいがあるのはもちろん、インディーズの本を制作したり、スキルアップのために資格試験を受けたり、仕事の後に勉強会に参加したり。
常に目の前に締め切りがあり、毎日何かしらに追われていた。
平日は、24時より前に帰宅できる方が稀であった。
入院して全身麻酔の手術をするのだというと、普通は怖さや辛さの方をイメージしそうなものだが、入院するのがなんだか楽しみだったのは、こういう忙しさから距離を置きたいのがあったのかもしれない。
入院中、看護師さんは私のことを気にかけてくれるし、仕事やプライベートでやらなくてはならないタスクから離れ、じっくり自分に向き合える。
実際に楽しかった。
ゆっくり休めて内省できて最高だった。
「自己肯定感」というキーワードに出会い、人生が変わるかと思った。
退院して日常生活に戻った後も、幾度となくこの入院生活を思い出す。
どのように過ごせば、この入院体験のような時間が再現できるのか考えるほどになった。
そして私は「内省」という言葉が大好きになる。
かつての私の過ごし方は、アクティブにいろんなことをするか、もしくはベッドで寝るかボーッとするかの2択だった。旅行の際には、できるだけ多くの体験ができるように、たくさんの場所に行こうとした。
しかし入院経験によって、内省の心地よさを理解した私は、旅行に行ってもあえて自然を見ながらゆっくりしたり、日常の中で積極的に自分に向き合う時間を作るなど、行動が変わった。
すると、自分の大切にすべきことと距離を取るべきこと。
自分の強みや苦手なこと。
いろいろなことが見えてくるようになってきたのだ。
入院経験で学んだ、目の前に追われていることから離れ、体を休めてゆっくりと自分に向き合う時間。
新型コロナウイルス感染症の影響で、外出を自粛せざるを得ない今でも「じっくりと自分に向き合ういい機会」とポジティブに捉えられるようになったのは、あのときの入院のおかげである。
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