アニオタとギャルの架け橋
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:山下梓(ライティング・ゼミ通信限定コース)
「先生―! 学校に少年ジャンプを持ってきてる人がいまーす」
クラスで悪目立ちしている男子が、私のカバンを覗きみて、大きな声を上げた。
クラスメイトからクスクスという笑い声が聞こえる中、私は必死で聞こえないふりをして、机にうつむいた。
今から25年前、中学生だった私は、アニメオタクで、スクールカーストの最下層だった。
小学校6年生の時に、親の都合で突然、東京に引っ越すことになり、激しい人見知りだった私は、アニメに心の逃げ場を作った。
友達も作らずアニメに傾倒する娘に、危機感を覚えた母親は、男性アイドル雑誌を買ってきて見せつけた。
どうやら、道を踏み外しそうな娘を正しいレールへ、引き戻そうとしているようだった。
小学校までは、アニメを見る事が当たり前の日常であったのに、中学生になっても卒業できない事は、異常なのだと認識させられた。
母の思いとは裏腹に、私はどんどんとアニメオタクの道を極めていった。
深夜の声優ラジオを、明け方まで聞き漁り、土日は声優のイベントへ出かけ、コミケの存在を知ると、自作の衣装を作りコスプレをして参加した。
すると、クラスでは異質者扱いの自分の前に、大きなカメラを持った大人が列をなし、コスプレの撮影を待っている。なんとも言えない高揚感が、自分を襲った。
中学校では、見向きもされない最下層の自分が、唯一、人から注目され、平等で居られる場所に感動し、興奮が抑えられなかった。
あの、窮屈な中学校のクラスメイトより、今自分は、間違いなく充実しているという気持ちで一杯だった。
それでも、土日が終わるとシンデレラの魔法が解けたように、厳しい現実に引き戻される。
学校に行くと何かにつけて、イジメの対象にされ、面倒な掃除や行事を押しつけられた。クラスメイトみんなが、シンデレラの継母達に見えた。
今でこそ、アニメは市民権を得て、世界でも認められるコンテンツに成り上がったが、当時のアニメオタクのイメージは本当に酷いものであった。
当時、コミケは一般人にはあまり馴染みのない、晴海で行われていた。イベントがある日は、殆どがアニメオタクで埋め尽くされる。その場にいると、自分達だけのパラダイスだと思ったが、離れてみると「ここ」にしか居場所がない人種差別のようにも感じた。
現在のアニメブームからは、考えられない社会と隔離された時代があったのだ。
当時のオタクは、自分達が社会からどう見られているか分かっていたし、それを隠す事が得策だと思っている人がほとんどであっただろう。
しかし、高校生活に入ると、継母のようなクラスメイトからのイジメはパタリとなくなった。どうやらみんな、リアルな青春に忙しいらしく、身近なイジリ道具に興味がなくなったようである。人は、自分の人生が充実してくると、他人のことなど気にならなくなるようであった。
中学時代に痛いほど感じていた、スクールカースト制度は緩やか山となり、みんながそれぞれに好きなスタイルを楽しんでいるようだった。マンガを読んでも、描いても嫌味を言われることはなくなった。
90年代、私達は、コギャルブームの真っ只中にいた。クラスメイトの女子は、肌をこんがり焼き、ミニスカートに、ルーズソックス姿で、金髪メッシュの入ったロングヘアをなびかせる。彼女達のスタイルは、同世代から日本の大人、世界にまで注目を浴びた。
私がコスプレ撮影で感じた高揚感のように、彼女達もまた、「青春」に酔いしれていたのかもしれない。
私は、彼女達の真似をしたいとは思わなかったが、嫌悪感を抱くでもなかった。
それぞれの場所で、お互いに好きなことを楽しむ。無理に自分達の当たり前を押しつけたり、差別をしあったりすることのない世界。それは、とても心地の良い世界であると思った。
当時、プリクラがはじめて世に出現すると、女子校生は、夢中になって写真を撮り集めた。コギャル達は、ポーズを決めた仲間との写真を交換することにはしゃぎ、私はと言えば、ゲームやキャラクターのフレームの虜になっていた。
ある日、地味友とプリクラ交換をしていると、ギャルのエッちゃんが私に話しかけてきた。
エッちゃんは、転校生で、良い噂も悪い噂もあった。それでも、ギャルと原宿系の両方を兼ね備えたようなファッションは、オタクの私から見てもカリスマ的だった。
文化祭では、当時流行っていたジュディマリの「そばかす」を、バンドで堂々と歌い上げる姿に胸を躍らされた。人なつっこい性格で、周りにはいつも男子がいたので、女子からは疎まれることが多かったようだ。それも含めて、彼女にはどこかスター性があった。
エッちゃんは、「わー、かわいい。交換しよう」と、私にプリクラの交換を持ちかけてきた。
私の写真は、アニメのキャラクターに顔ハメしたような、ソロプリクラであった。私は、そのフレームが気にいっていたけれど、ギャルに受ける要素は皆無だと思っていた。
エッちゃんのどこの琴線に触れたのか分からない。それでも、彼女に認められたようなこそばゆさと、違う価値観の持ち主同士でも、わかり合える部分があるのかもしれないという希望に、心が弾んだ。
私は、ドキドキする感情を抑えながら、彼女にプリクラを渡した。
***
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