メディアグランプリ

12センチのさわこちゃん


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記事:きさらぎ満月(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「長いよな」
そうつぶやいたのは、暑い夏の日の夜。風呂上がりに素っ裸で、女だてらにあぐらをかいてタバコを吸いながら、見るともなく股間を眺めていたときのことだった。
 
当時の私は20代後半、会社が借り上げた埼玉県の公団(今のUR)の10階の部屋に一人暮らしをしていた。大学生の頃にエアコン無しの学生寮で卒業まで暮らした経験があったので、エアコン無しでやせ我慢をするのがかっこいいと思っているおかしな子だった。
しかし、内陸部の埼玉の夏の夜は、風がなく暑い。涼を取るには扇風機しかなく、窓の外に建物がないのをいいことに、部屋の中ではパンツ一丁で過ごしていた。
 
そのときは風呂上がりだったので、パンツも履かずにくつろいでいた。あられもない、というかだらしがない格好だが、誰も見てないからいいのだ。そもそもパンツ一枚履くのすらどんな意味があるのか。いや、ない。
そんなことを考えながら下を見ると、私の股間のさわこちゃんが、「強」に設定した扇風機の風にさわさわと揺れていた。さわこちゃんとは、股間に生息する体毛のことだ。今私が勝手に名付けた。うちのさわこちゃんは巻きが弱く、風に揺れるさまは秋のススキのようだった。風流だなあ。
 
しかし長い。他の人と比較したことがないが、なんとも長いような気がする。
 
私は手近にあったペン立てから、愛用の16センチ定規を取り出した。いつから持っているのかわからないが、筆箱に入れるのにちょうどいい長さの、透明なプラスチック定規だ。
右手に定規を持ち、左手で、さわこちゃんの中から一番長そうな子を引っ張って、できるだけ根元から測ってみた。
 
12センチ。
うーん、これが平均より長いのか短いのかわからないな。
 
当時は1990年代、インターネットはまだ普及しておらず、わからないことは書籍に当たるか人に聞くしかできなかった。そんなデータが載っている本は思いつかないし、友達に測定を強要するのもはばかられる。
とりあえず「長い」ということにしておこう、と一人納得し、思考は「長いさわこちゃんってどうなのよ」という方向にさまよっていった。
 
股の内側にはスジがあって、パンツを履くと、スジの下(後ろ)に隙間ができる。私のさわこちゃんは長いので、右側をパンツ内に納めようと左に倒すと、左側の隙間からこんにちはする。逆もまた同じ。結果、私はいつもさわこちゃんから挨拶されるがままになっていた。
これ、いざというときに男子が見たら、どう思うんだろう。引くかなあ。
 
ちょっと前に別れた男は、ぶつかり稽古が下手だった(ぶつかり稽古が何かは察してほしい)。熱意はあったが、あまり工夫する人ではなかった。彼は私のさわこちゃんをまじまじと見たことはなかったような気がする(私は見てたけど)。
いずれにしろ別れてしまったので、どう思うか聞くことはできない。
 
当時の私は、おかしなことをリサーチするのが好きだった。職場の後輩男子にKというのがいる。7年間遠距離恋愛を続けており、それでもラブラブが続いている男だった。以前、今までのぶつかり稽古で最長はどれくらい? とリサーチをかけたら、8時間と答えた強者だ。この男には安心してシモの話ができる。こいつに聞いてみることにした。
 
いざというときに、女子のパンツからさわこちゃんがこんにちはしてたら、どう思う?
「いや、その段階ではそれどころじゃないので、そもそも見てないっす」
なるほど。
 
それから20年。
さわこちゃんに言及されるような親しい関係の男性はあらわれないまま、私は彼女を放置して生きていた。というか、すっかりその存在を忘れていた。
もう死ぬまで稽古をする機会もないんだろうなあ、とぼんやり考えていた頃、男ができた。なかなか稽古上手な男で、私も楽しく過ごしていた。
そんなある日、メールで彼に言われたのだ。
 
「さわこちゃんをちょっと切ってもらわんといかんなあ」
うわ! そういえば、私のさわこちゃんが(たぶん)長いのを忘れてた。
「俺も切ってるよ。君に失礼にならないように」
え、そうなの? 気付かなかった。てか、放置したら失礼なの? みんなやってるの? 男子も?
 
20年前と違い、エアコンをはじめとする文明の利器にすっかり飼い慣らされていた私は、すぐに手元のタブレットに「VIO 処理」と入力し検索した。
そう、脱毛サロンで「VIO」と呼ばれる下半身の部位の処理メニューがあることを、知識として知っていたのだ。私の若い頃は脱毛サロンなどなかったが。ちなみはVは前部、Iは中間部、Oは後部を指すが、これ以上は説明させないでほしい。
検索結果を見ると、なんと、今の若い子は身だしなみとして処理しているのが普通とな。ほんとか? こういうページは大抵脱毛サロンや脱毛器具の宣伝に結びついているから、どこまであてになるかわからない。しかし、私が若い頃よりも処理がメジャーになっていることは確かだろう。
いや、メジャーかどうかが問題ではなく、私のパートナーが必要としている、ということが重要なのだ。
 
セルフ処理の道具を検索し、口コミで比較し、その日のうちにアマゾンで注文。届いてすぐに12センチのさわこちゃんにさよならした。
その直後、いろいろあって男ともさよならした。
装いも新たなさわこちゃんは、結局日の目を見ることはなかった。
 
今でも私はさわこちゃんのお手入れを続けている。
49歳、もうぶつかり稽古の機会はないかもしれないけど、あるかもしれないでしょ? ないと思うより、あると思って生きていくほうが、断然楽しい。さわこちゃんに会いたいという人にいつ出会ってもいいように、準備は怠らないのだ。
 
今でもペン立てに刺さっているあの定規は、すっかり角が丸くなっている。
若いときは、あるがままで飾らないのがかっこいいと思っていた。今は、部屋で裸で過ごすことはなくなった。かっこよくあるためには、見られていないときも姿勢を正し、それなりの努力をするべきだと思うようになったから。年をとるほどどんどんかっこよくなるのが理想だ。
もうさわさわしなくなったさわこちゃんは、人に見られることはないかもしれないが、かっこいい女に近付くためのおまじないなのだ。
 
最近、ふとネットで平均長を検索してみたら、3~6センチと出てきた。
マジか、倍だったのかよ。
 
 
 
 
***
 
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2020-04-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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