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メディアグランプリ

巣篭もりしなきゃ飛び立てない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:高垣 諭(ライティング・ゼミ通信限定コース)

 
 

「あんた、そこで何してんの!」

 

心臓がバクバクいっている。
ついさっき、家族が寝静まったのを確認したはずなのに、今、押入れの下から聞こえるのは、間違いなく母親の声。
カビ臭い天井裏で、明かりは懐中電灯のぼやけた光のみ。
テレビには毛布をかぶせていたので、それほどの光が漏れているはずがないのに、なぜわかったのだろう。とりあえず笑顔でごまかし、いつもの言い訳をしながら押入れから自室に降りる。
一通りのお説教を聞きながら、明日の朝、屋根裏のテレビをどこかに隠さないとと考えていた。
 

昔から、狭い空間に自分専用の居場所をつくるのが好きだった。
天井裏やタンスの裏、押入れの中のダンボール部屋などなど。家の中のあらゆるところに、自分専用の秘密基地を作っては怒られ、新しいアイデアを考えては、また作るという繰り返し。
 

好奇心やスリルを楽しんでいたというのもあるけれど、物心ついた時から、自分だけの空間、それも狭い場所に入り浸るのが妙に落ち着いた。

 

中学生で初めて自分の部屋をもらって、自分だけのスペースがあるにも関わらず、その「広さ」に落ち着かず、押入れから通じる天井裏に、小さなブラウン管のテレビと当時話題のファミコンを持ち込み、夜な夜な遊び呆けていたのも今は懐かしい思い出。

 

その後も、そんな嗜好は変わらず、常に落ち着くのは、四方が囲まれるような狭い空間だった。
ちょっと前に、「本当は狭い所が大好きだ」と家主が語る住宅会社のCMが流行ったが、心からあのシーンに共感せずにいられなかった。
 

今考えると、狭い空間に入ることで、安心したかったんじゃないかと思う。

 

狭い空間に自分を押し込んで、四方を壁で囲むことで外の世界を遮断し、誰にも文句を言われずに過ごすことで、自分を傷つけずに済むようにしていた。
四方を囲まれた狭い空間は、誰の気兼ねをしなくてもよい、自分が自分でいられる唯一安らげる場所だった。まるで、鳥が危険や状況が落ち着くまで籠もっている「巣」のように。
 

しかし、そんなことは、いつまでも続けてはいられず、徐々に外の世界に出ていかざるを得なくなったのだけれど、とはいえ、この「巣籠もり」も悪い面ばかりでもなかった。

 

相手がいない分、自然に自分自身と対話をするようになった。
自分は一体なんなんだろう。何のために生まれてきたんだろう。そして、これからどう生きていけばいいのだろう。多感な青年時代に、そういう時間を持てた事は、今思うと、非常に貴重だったように思う。
 

その時に考えた自分のありようこそが、その後の人生を生きていく上での、指針のようなものになっていったから。

 

その後、外の世界と接していくうちに、徐々に認めてくれる人も増え、共感してくれる仲間も増えた。自信がつき、周りに壁がなくても、どんどん前に出れるようになった。広い空間に出て行くことで、様々な人と繋がり、自分の世界観を広げ、成長させてくれた。そして、知れば知るほど、どんどん外の世界が、楽しくなり、家族を持つようにもなった。

 

だからこその、この数週間は非常に辛く、憂鬱な日々となっている。

 

世界的な新型コロナウイルスの感染防止のため、ほぼ強制的に外に出れないこの状況。
仲間や友人と会話をすることも、家族で出かけることも、仕事上のつきあいさえ自粛せねばならなくなっている。
こうも、外に出れない事が辛いのかと、今では思う。
 

ただ、そんな状況下で、ふと思い出したことがある。
これは、あの時の状況と一緒じゃないか。身動き取れない狭い空間にいることで、自分と向き合った、貴重な大切な時間でもあったじゃないかと。
 

毎日が、目が回るほどのスピードで進化している現代で、じっくりと自分の事を考える余裕すらなかったんだから、ちょうどいい機会じゃないのだろうかと。

 

あせっても仕方がないから、もう一度自分を見つめ直すチャンスにしてしまおうと思う。
家族もそれぞれ外を向けないから、じゃあ普段できなかったお互いのことについて一緒に話そう。いつも、見て見ぬ振りをしていたことも、腹を割って相談してみよう。
 

考えようによっては、こんなチャンスは二度とないかもしれない。もう一度、自分とは何者か、そして家族とは何か、人生ってなんだろう、そんな事をしっかり考えてみなさいよと言われているのかもしれない。

 

この自粛状況は、あの時の「巣籠もり」だ。
ただ、あの頃と違うのは、自分を傷つけないように外から守るためのものではなく、もっと遠くの外の世界に行くための、もっと充実した人生を歩むためのものであること。
 

じっくりと、自分の立ち位置を見つめ直し、より成長して、さらに飛び立てるようになるためのものだと確信している。

 

もちろん、仕事面ではうまくいかず、気持ちが晴れないことも多々あるけれど、「巣籠もり」する前よりも、他人にちょっと優しくなれたんじゃないかなと思うことがある。

それは、外の世界をすでに知ったからこそ。ほんの少しだけれど、もう逃げないぞという自信がついたからなのかもしれない。

 
 
 
 

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2020-04-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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