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メディアグランプリ

100万PVの記事なんかより


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ゆりのはるか(ライティング・ゼミ通信限定コース)

 
 

「大学3年生のとき、1ヶ月で100万PVを獲得した記事を書きました」

 

わたしがそう言うと、先輩は突然、コーヒーを飲むのを止めた。
時刻は午後1時。大手町のカフェ。
目の前には、憧れの会社に勤めている先輩。
当時、ただの就活生だったわたしは、ひどく緊張していた。

 

「えっっ!?!?!? すごいじゃん!!! すごいよそれ!!!!!」

 

先輩は大げさなぐらいに驚いて、わたしのことを大絶賛した。
俺なんかよりずっと優秀だよとか、絶対面接通るよとか。
そのあとはもう、コーヒーに手を付けることなく質問攻め。

 

「それ、いつ書いたの? 読んでみたい!」
「もう消しちゃったので……検索しても出てこないんです」
「えー、でもそんなにPVとれたなら話題になったでしょ?」
「……そんなこともないですよ」

 

先輩は、100万PV越えの記事にとても興味を持ってくれたが、わたしはそれがどんな内容の記事だったか、一言も口にしなかった。というか、できなかった。
そんな記事、最初から存在しなかったのである。

 

どうしても広告会社に入りたかったわたしは、エントリーシートを盛りに盛って、就活に励んでいた。あんなに倍率の高い業界、普通の人間じゃ入れないと思ったのだ。学生時代、ライターのはしくれとして活動はしていたけど、実際はPVなんてほとんど気にしたこともなかった。

 

先輩だってきっと、わかっていただろう。100万PVなんて簡単に取れる数値じゃない。わたしが嘘をついていることをわかっていて、驚いたふりをしてくれたのだ。もはやそれが優しさなのか、馬鹿にされていたのか、どちらかはわからないけれど。

 

「このあと面接なんだよね? こんなに優秀なら絶対大丈夫だと思う! 頑張ってね!」

 

先輩は最後までものすごくテンション高く、わたしのことを褒めちぎった。何だか虚しくなった。就活相談に乗ってもらうため、わざわざ時間を作ってもらったのに、先輩と話していた1時間半、わたしは嘘ばかりついていた。先輩と分かれて緊張がとけた瞬間、泣きたくなった。

 

カフェに1人残ったわたしは、手元にあるノートを見て、自分がとんでもないことをしていることに気づいた。そこには、「面接に通るための対策を練った文章」が大量に書かれていた。

 

「学生時代、執筆した記事がヒットして、企業の売り上げに貢献して……」
「所属していたサークルでリーダーになって……」
 

夢を叶えるためには、特異な人間にならなきゃいけない。
エントリーシートなんてみんな盛っている。だからわたしも、盛らないと。
 

そう思うあまり、わたしのノートの中は嘘で埋め尽くされていた。
わたしの本当の気持ちとか、経験とか、そんなものは一切なくて。こんなもので面接が上手くいくわけもなかった。
 

わたしは、ただ記事を書いていただけ。ただサークルに所属していただけ。
盛るどころか、何一つ本当のことなんて書いていない。
 

「捨てよう」

 

その日、わたしはノートを捨ててカフェを出た。
わたしは特異な人間でも何でもない。でも、だからといって外面だけ取り繕ったってそれはわたしじゃない。企業の人にウケがよさそうな内容を話したところで、そこに想いがこもっていなければなにも伝わらないのだ。
 

面接官の社員さんは、話がとてもうまかった。

 

「就活ではこれまでどんなことをしてきたんですか?」
「会社説明会に行くだけじゃなくて個人的にOB訪問に行ったり、幅広い業界を見てからこの業界がいいって決めたくて、業種を絞らずにインターンもたくさん行ったり……、とにかく業界のことを知るため、行動を重ねてきました」
「そのうえで、この会社を受けに来てくれたんですか?」
「はい。やっぱりどうしても広告の仕事がしたいと思って。御社にはインターン時代からずっとお世話になっていて、魅力を感じていました」
 

もう嘘はつかない、自分を作らないと決めると、すらすらと話すことができた。もちろん、社員さんがゆっくり丁寧に話を聞いてくれたからというのもあるが、取り繕ったわたしのままだったら、それでも緊張していたことだろう。あんなにも悩んでノートに書き続けた創作物は何だったんだろう、と心の底から思った。

 

わたしは、エントリーシートの200字で自分を表現することに縛られすぎていたのだ。しかも、本当の自分ではなく、「特異なことができる自分」をいかに演出するかに固執していた。綺麗に整えられている言葉が全てじゃない。わたしが、「ただの就活生」である自分を認めて、等身大の自分の気持ちをめいっぱい言葉にすることが、重要だったのだ。

 

「行動力があって、真面目なんですね。一生懸命な気持ちがすごく伝わってきました」

 

面接官は、わたしのことをそう評価した。
大阪から東京まで足を運んで、何週間も滞在して就活を行っていた。交通費もばかにならなかった。その言葉をもらって、やっと報われたような、そんな気持ちになった。
 

それから2年後の今。
わたしは東京で、広告を作る仕事をしている。
 

わたしが働いているのは、唯一、取り繕ったわたしじゃなくて、ありのままのわたしで面接に挑んだあの会社だ。
嘘で作った「100万PVを獲得する記事を書けるわたし」なんかより、「真面目で一生懸命なわたし」の方がわたしだってずっと好き。
 

あの時、ノートを捨ててよかったと、今心の底から思っている。

 
 
 
 

***
 
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2020-04-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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