メディアグランプリ

読書は読心術に通ず


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:田中 柚衣(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 

読書をすると人の心が分かる……というのは大げさでしょうか。私は読書が他人の心に近づく近道であると思っています。だって本を読めば、書き手や主人公がどのような状況で、どう思って、どう行動したのかが分かります。本を沢山読んで、沢山の登場人物たちの心に触れることで、現実においても「もしかしたらこの人、こんなことを想っているのかも」とふと思えるようになるのです。
「なんだ、それなら映画やアニメでもいいじゃないか」「何も本に限ったことじゃない」そう思われる方もおられるかもしれません。確かに、映画もアニメも、主人公がどう思ってどう行動したかが分かります。映像や画像で登場人物の表情やしぐさが読み取れる分、小説よりも分かりやすい部分もあるでしょう。でもやはり私は、人の心を知るという分野では読書が一番だと思います。だって、本の中には他人の心の動きが、文字で、明確に、描かれているから。
映画やアニメは目で見て感情が伝わりやすいように、笑った顔で嬉しさを表現し、涙する表情で悲しさを表現します。観客である私たちは、それまでに起こったことと、その表情を頭の中で繋げて「ああいうことがあったから、この人はこんな風に悲しんでいるんだ」と理解します。映画やアニメは「出来事」から「感情」を推測させることに秀でた媒体です。でも、「出来事」の結果、登場人物たちに現れた感情は読み取ることができても、その最後の感情が出るまでの登場人物たちの心のモヤモヤそのものを掴むことは難しいと私は思います。
映画など映像で見せるものとは対照的に、本には基本的に文字しかありません。どんな場所にいて、どんな温かさで、どんな人の前にいるのか。何も本物を目で見せることはできません。唯一目で、本物を見せることができるのは「心情」だけです。文字で、登場人物たちがぐるぐると考えている事、その時どう思ったのか、どんな気持ちになったのか、それらは疑いようもなくそのまま文字に綴られています。
しかしこれは、小学校の国語の授業などでやった「なぜA君は泣いてしまったのか、〇文字で抜き出す問題」のように「答えは文章の中に簡潔に書いてあるから探してみてね」というものではありません。本では登場人物が考えた事、登場人物の目から見た世界、登場人物が感じた事が、他の誰でもない本人の視点で書かれます。それら全てが、疑いようのない登場人物の「心」そのものなのです。彼らの主観で受け取ったものを、彼らの頭で処理して、またそれが過去の物と複雑に絡み合っていく様子を彼らの主観のまま伝えられる媒体。それが本なのです。
私たちは日常生活の中で沢山のことを考え、思って生きています。自分の価値観に合致しない人が許せなかったり、察しが悪い人にイライラしたり、自分の努力を分かってもらえないと嘆いたり……。きっとそうして感情が動くまでには頭の中で沢山の考えが巡り、それが複雑に絡み合って現れたものが、自分の感情なのだと思います。しかし、他者のことになると「あの人はガサツだから」とか「仕事が遅いから」とか「理解する気がないから」とか単純で分かりやすい答えで理解しようとしてしまいます。だって、自分の考えや生き方が違うから理解できなくて困っているのですし当たり前のことです。
歩み寄れた、理解できたと思うような時でさえ、自分の主観を通して自分を軸に相手のことを決めつけているのではないでしょうか。例えば、「テストの点が高いことが良い」という価値観で生きている人は、勉強の成績が悪い人を「ダメな人」と考えているかもしれません。でも、その人は勉強の成績に価値を置いていない人で、彼にはもう目指す夢があって、それに向けて沢山のことを考えていたことが分かったりしたら、勉強ができなくても「しっかりした人」という評価に代わるかもしれません。
こういうことが何回か起これば、「テストの点数が高いことが良い」という価値観の人も、勉強ができない人に対して「もしかしたら、彼には他に大切にしていることがあるのかもしれない」と考えるようになるかもしれません。他に似た人を知っていれば、「もしかしたら、こういう価値観の人かもしれない」と思うようになるかもしれません。
しかし、他人の考えや価値観を知れる機会なんて、現実においてそうそう多くはありません。そして、自分の目で見て自分の頭で判断する現実世界はいつだって自分の主観から逃れることはできません。そんな中で自分の価値観とは外れたモノの見方や考え方を取り入れることはとても難しいと思います。
でも、他者の考えやモノの見方が文字にされている本なら、沢山の人の世界を他人の見方で、考え方で知ることができます。まさに他者の「心動き」を「読む」ことができるのです。自分以外の人の内面にここまで近づくことのできる媒体が他にあるでしょうか。
読書は自分の世界を広げる、とはよく言いますが、それは自分の内面を広げるだけでなく、きっと自分の周りの人たちへの架け橋ともなりえると私は考えています。
 
 
 
 

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2020-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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