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30代サラリーマンは今週もボクシングジムへ通う


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:緒方 太一(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 

これまでの人生で格闘技経験などあるはずもない。ボクシングなどテレビ中継で数回見たことがあるくらいだ。しかしそんな自分はなぜかこの4年間、週末に1回ボクシングジムへ通う生活を続けている。どうしてこんなことになったのだろうか?

 

学生時代はサッカー部に所属していたが、万年補欠。いつもベンチに座っているので「センターベンチ」というありがたくないあだ名を頂戴していた。積極的に努力するタイプでも無かったので完全に自己責任である。体を動かすことは好きなのだが、向上心というものに欠けているのであった。

 

社会人になると定期的に運動する機会も減っていく。過去2回ほどスポーツジムの会員にもなったがいずれも1年ほどで退会してしまった。継続力に欠けているのは学生時代から何ら変わっていない。
気づけば30代。子供もできたが、黒烏龍茶のCMに出てくるようにポッコリ主張し始めた腹回り。健康診断では大きな病気の兆しこそないもののメタボ判定。このままではまずい。何とかしてここで自分自身を変えなければならない。

 

そんな時、ふと駅の近くにあったボクシングジムのことを思い出した。なぜボクシングという唐突の発想に至ったのか自分でもよく分からない。過去のスポーツジム挫折経験を踏まえて、より厳しい環境に身を置くべきだと脳が判断したのか。HPを開いてみるとプロ養成コースというガチガチのコースは問題外だが、自分におあつらえ向きの体力維持コースやダイエットコースという記載もある。

 

勇気を出して電話番号を慣らしてみる。少し厳しそうな声の男性が出た。体験希望の旨を伝えると、スタッフに伝えておくからいつでも来ていいとのことだった。

 

週末に早速足を運んでみる。

 

当たり前だがそこには四角いリングといくつもの天井から吊るされているサンドバッグがあった。そして息を切らしながら拳を前に出し続ける人たち。プロボクサーとして戦う方々の厳しい練習を横で見るときは今でも緊張してしまう。

 

「これは場違いなところに来てしまったぞ・・・・・・」

 

初日はトレーナーに優しく打ち方を教えてもらって終了。まさにお試しコースだ。鏡に向かって拳を出したり、サンドバッグ相手にパンチを出すだけなら全くの素人の自分でも何とかなる。これなら行けるかもしれない。

 

それから2回ほどの練習を経たある日、トレーナーに声をかけられる。
「グローブを付けてリングに上がって、マスボクシングをしてみましょうか」
マスボクシング? どんな練習なのだろう。リングに上がってみると、なぜか対角線上にトレーナーがグローブを付けて上がってくる。その時ようやくトレーナーから説明を受ける。「今から寸止めでお互いに相手に当てないように打ち合いをしますので」ヘッドギア等の装具をつけて行う実戦形式の練習をスパーリングというが、マスボクシングはそういった装具はつけない。その代わり寸止めで相手を傷つけないように打ち合うのだ。
 

実際に打ち合うだと? いくら当てないと説明されたとはいえ、初めて数回の自分がなぜリングに上がっているのか。どうしてこうなった。あっという間に「カーン」という音が鳴り響いて、試合が始まる。3分×2ラウンド。自分は何もできないままただひたすらにトレーナーから逃げ続けることしかできなかった。

 

だが結論から言うとこのマスボクシングが自分を長続きさせる大きな要因となった。ボクシングジムによって方針が異なると思うので一概には言えないが自分が通っているジムではトレーナーだけではなく、練習生同士で積極的にマスボクシングを行っている。これが慣れてみると存外楽しいのである。やはり鏡やサンドバッグ相手に拳を出すよりも、相手がいると緊張感を持って臨むこともできる。サラリーマンや家庭での父親という立場を忘れて、リングに上がるときだけはまるで自分をボクサーと思い込むことができるのだ。人はこれを変身願望と言うのかもしれない。基本は寸止めだが、自分の下手さゆえに相手が止めたパンチに自ら当たりにいってしまうこともある。もちろん痛いが、それもまた非日常ならではの一興だ。

 

ボクシングジムに来る方のレベルは様々である。自分のように体力維持で来る方から強さを求める方までいる。これまで同じような体力維持目的の中年から学生、プロ選手と様々な人たちとリングで向き合ってきた。中でも最も恐怖を感じたのはインターハイにも出場して、大学もスポーツ推薦で入ることが決まっている高3の学生と向き合った時だ。自分も決して背丈の低いほうではないが、相手は190cm近くもあり体格は大きく上回っていた。この時ばかりは恐怖しかなく、実際に手も足も出なかった。しかし終わってみればこの体験も良い思い出となる。例えるならばジェットコースターの快感に近いのかもしれない。

 

残念ながらボクシングを初めて4年、未だにダイエットとしての大きな効果を得ることはできていない。そこは変わらない自分の甘さである。それでも自分は今週もボクシングジムに向かう。リングに上ったときだけ味わうことのできる非日常の快感を求めて。

 
 
 
 

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2020-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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